第66話 クリティカルヒット

ヘキサグラムへと入り、少し進んだあたりで。

武装した騎士と遭遇した。


強い魔力を感じる装備に身を固めた、軽鎧の女騎士。

マリアに気付いたように、こちらへと向かってくる。


「……冒険者かと思えば、貴方様はまさか……」


「レリック殿か?お久しぶりなのじゃ」


マリア姫、顔が広いなあ。


「ご無事だったのですね。オランディがあんな事になって……心配していたのですが……」


「オランディは、何とか一段落ついたのじゃ。まだまだ、死都の名は返上できないのじゃが……」


「この国の噂も聞いているのでしょうね。この国は……未だ尚……呪われている」


「呪い、ですか?」


エメラルド姫が小首を傾げる。


「貴方は、マリア姫の護衛か何かでしょうか?」


「私はエメラルド、グロリアスの元王女です」


「ああ、グロリアスの──エメラルド姫えええええ?!」


ずさっ


レリックが、涙目で下がる。


「す、すみません、すみません、すみません!」


「いえ、貴方は何もしていないです……」


とにかく必死で謝るレリックと、若干傷ついた様子で、項垂れ、首を振るエメラルド。

エメラルド姫の評判、悪すぎ。

悪い意味で、正体を隠しておいた方が良いのかも知れない。


「それより、私達は、噂レベルでしか話を聞いていません。以前、国の者に調査させた事は有りますが、当事者の方が詳しい筈。情報を頂けますか?」


エメラルドが訪ねる。


「残念ながら、有益な情報の提供はできないと思います。我々も、討伐隊を組織、また、冒険者達に便宜を図り……沸いてきた魔物を処理するのに精一杯。何とかして、根本原因を絶たねば……」


「英雄王達はどうなったのじゃ?」


「すみません、情報がありません。ですが恐らくは……生きてはいないと思います。王城付近は、特に魔物が強く、かつ、多くいます。我々も、近づけていないんです」


アンデッドと違って、昼間なら比較的安全って事もないだろうしなあ。


レリックと、エメラルドが、すり合わせしながら語った内容。


ある日、魔物が突然、召喚されたかの様に現われるようになった。

俺も実際に見たが、所謂ポップアップ。

それまでも、魔物は普通に生息していたのだが。

空中から突然、魔物が出てくるのは異常だ。

アンデッドは夜になると、地面から沸いてくるけど、あれともまた違う感じ。


王城も、王都も、一夜にして壊滅。


周辺都市や町、村等に設置されていた結界石は無事。

だがそれでも、力は激減し、また、強い魔物は結界を易々と通り抜ける。

幾つもの結界石が破壊された。


対応は後手後手に回り、状況は悪化する一方らしい。


出た結論は、


「王都に行くしか、ないか」


「ですね」

「じゃな」


「すみません、エメラルド姫、マリア姫。貴方達を頼る事になりますが……御願いします」


レリックが、深々と頭を下げる。


「レリック、そなたも気をつけるのじゃ」


「お気遣い、有り難うございます。大丈夫ですよ、ご存知の通り、これでも、王都詰騎士団の団長……元、ですが。今は、この国の騎士団、そして冒険者ギルドの長をしています」


強いのかな。


ボウッ


これは……ポップアップの合図。

出てきたのは……可愛らしい兎。


まあ、出てくる魔物はピンキリ。

弱い魔物も、当然出てくる。

王都周辺は、強い魔物が多いらしいが。


「念のため、お下がり下さい。ここは私が」


レリックは油断なくそう言うと、輝く槍を抜き放つ。

兎に向かって、槍を──


ひゅん


カウンターが決まる。

兎がレリックの横を駆け抜け──レリックの首が落ちる?!


……え?


……え……え?


ポーション……いや、死んでいる。

そんな……

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