第61話 こきゅっと

「おはようございます、勇者様。今日は何処に連れて行って下さるのですか?」


朝食をとり。

腹ごなしを終え。


約束の時間、10時に、王宮を訪れた。


「クローバー、話がある」


「どんな話でございましょうか?」


いきなり斬りかかる訳にもいかない。

刺激しないよう、慎重に……


「クローバー……この世界これは、君が見ている夢、だな?」


くすり


クローバーは微笑むと、


「何故、そう思うのですか?」


「君は言ったな、この世界は人々が見ている夢、人々の総意で世界が形造られると……だが、この世界は、あまりにも君に都合が良すぎる……なら、この世界を夢見ているのは君……簡単な推理だ」


適当な事を口走る。

アーサー王の名前は出さない。

気付いている可能性は十分にあるが。


「やはり鋭いですね、流石勇者様……そう、この世界は、私の世界……私は、この世界の夢見るお姫様……」


災厄の気配はしない。

まあ、そもそもマップスキルも封じられているんだけど。


ただ、立ち上る魔力には……希望を潰えさせられた。

ひょっとしたら真夜中の13時限定で魔力を行使できるのかと思ったが。

このお姫様は、いつでも魔力行使が可能なようだ。

そもそも、あの時間帯や、あの悪夢、あのシステム……全てが、この王女の夢の産物……か。

夢魔の一部は、人々の成れの果てなのだろうけど。


「クローバー……やはり、キミが死幻蝶ヴネディアを……そして、リリバレィを滅ぼしたのか」


キース君の問いに、


「そう、、国を滅ぼしたんです。オランディを滅ぼしたマリア姫、グロリアスを滅ぼしたエメラルド姫と同じですね」


くすくす


クローバーが笑う。


「……言葉も無いな」


キース君が呻き、


「え、私のは違う気が……え、私って国を滅ぼした事になっているんですか?というか、そもそも国は滅んでない……?」


エメラルドが不満そうに言う。

王家は王家が滅びる引き金を引いたが……国はそれなりに前に進んでいるようなので、国は滅びていない。

オランディという国の名前も変わってないしな。


俺は、落ち着いた声で、


「クローバー、君は違うよ。エメラルド姫は、自分の行いを後悔し、そして、人知れず世界を救う事を決意した」


それは、俺とキース君しか知らない事。

世間はまだ、エメラルドが悪人だと思っている。

オランディの国民はまだ、エメラルドを恨んでいる。

それでも、エメラルドは前へと進む。

それが……


「マリア姫は、自分の行いを後悔し、そして、自国の救済にその身を捧げた……」


罪を受け入れる事は、容易ではない。

そして、贖罪を成し遂げるのは、もっと容易ではない。

だから……マリア姫は、清いんだ。

例え、闇に墜ちていても。


「君は違う……災厄につけ込む隙を与え……そして、今に至るまで、自らの欲望のままに世界を喰らっている……君は……悪だ」


クローバーは溜息をつくと、


「勇者よ……貴方は、本当に愚かですね。この世界のお姫様たる私に、何という口をきくのですか。貴方達の生殺与奪……いえ、思考の自由すら、私が握っているというのに」


そこまで握っているの?!


「……まあ、まだ完全に支配はできていませんね。本当は保って数日と思っていましたが、本当に2週間耐えるとは……」


俺の相棒のお陰さ。

有り難う。


「殺しはしません。完全に支配した暁には……勇者は、私の夫として、末永く幸せに暮らすのだから……美しいお姫様と、強い勇者様……お似合いでしょう?」


くすくす


クローバーが嗤う。


「そんなの、駄目です!貴方は、ホダカの隣にいる資格なんてない!貴方は、勇者という肩書きしか見ていない……ホダカの事を見ていない!」


エメラルドが叫び、


「愉快な仲間達は、もう退場して良いんですよ?……そうですね。理性が残っている内に……やってしまいますか」


クローバーは俺を見ると、


「勇者様……そこの煩い猫を……こきゅっとしめちゃって下さい」


ぐ?!


強烈な魂への命令。

エメラルドに対する、強い殺意が……手が……震える。

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