第60話 生魚バリバリ

「……すまん、嘘をついた。本当はかなり揺れていた。災厄の被害者にも関わらず、自らの罪を受け入れ、その身を嘆くよりその贖罪に身を捧げ……心の在り方は美しいと思うし……純粋に容姿も美しいと思った。エメラルド姫一筋と決めていたのに、大分心が揺れ……それで、追い出すような真似をしてしまった。本当に……自分が情けない」


「そ……それは、有り難うございますなのじゃ」


「何で御礼を言われたの?!と、ともかく……そうやってマリア姫と別れておきながら、クローバー姫に惹かれる自分が……酷く情けないし……気持ち悪いと思う」


「クローバー姫が愛らしいのは事実だと思う……だが相棒よ。そなたの違和感……正しいかもしれぬぞ?エメラルド……最近、猫っぽい仕草が増えてきただろう?この世界に、心が引きずられているのであれば……そなたの心も、この世界にひきずられている可能性がある」


「確かに、エメラルド、生魚バリバリ食べたり、爪とぎしたりしているよなあ……」


「うむ。そなたは、この世界の女王たるクローバー姫と、並び立つ武神……そういった憧憬の目で見る者が多い様だ。そうであれば、世界がそなたとクローバー姫が結ばれるのを望んでいるとも考えられる」


「なるほど……」


心をしっかり持たねば。

クローバー姫は小悪党、クローバー姫は小悪党。


--


そして、時間は無情に流れ。

残り時間が、24時間──真夜中の13時から1時間は、タイマーが止まる──になり。

大型の夢魔と対峙。


後が無い。

これが最後の夢魔であれば良いのだが。

他の人が見た報告を合わせて考えると、少なくとも後2桁はいる。


くそ……駄目なのか……?


「光の盾よ……イージス!」


エメラルドの聖盾が、悪夢を弾く。

近づけすらしない……


「突破口を開くぞ……メギドフレア!」


キース君の大技。

一帯に光の柱が幾つも立ち上がり。

雑魚の悪夢を一掃。

良し、新たに産み出される前に……


「この力……マリア……姫……?」


「……アーサー王?!」


一際大きな夢魔が、喋った。

その声を聞いたキース君が、叫ぶ。


「……そこにいるのはもしや……勇者殿か?」


「ああ、そうだ。俺は勇者らしい。お前は……いや、貴方は、喋れるのか?」


「偶々意識が戻っただけよ……すぐにまた、闇に意識を奪われるだろう。勇者よ……頼む……止めてくれ……」


止める……死幻蝶ヴネディアか。


「夢魔を全て倒す……それで良いのか?」


「夢魔……?我々の事か……?いや、それよりも、奴を……奴を倒して欲しい」


死幻蝶ヴネディア。

名前を口にできないのだろうか?

協力者と決めた1人にしか話せないらしいし。


死幻蝶ヴネディアと、夢魔を倒す事が……関係ない?


「死幻蝶ヴネディアは何処にいる?」


「アレと……一緒に居る筈……」


アレ?


「どうか……クローバーを止めてくれ」


んん?


「この惨状……封印を解き、王族と、街の人々を夢に飲み込んだ……それは、クローバー姫がやった……そうなのじゃ?」


「然り。あいつの心の弱さは知っていた筈なのだが……全ては私の慢心故。本当に、言葉も無い」


クローバーは、死幻蝶ヴネディアに唆された。

そして、禁忌に手を染め。

国を滅ぼした。


そして、世界に君臨する王女となった。


なるほど。

全ては、クローバーの都合の良い様に進む。

王族が全ていないのも……クローバーが王族を憎んでいたから。

恐らくは、理性を奪われ、夢魔とされたのだろう。


なら……クローバーを……止める。


「勇者殿」


「何だ?」


「私を……殺してくれ」


……


理性を失えば。

再び、夢魔として、暴れるだけの存在になる。


いや。


俺達がクローバー姫に対峙した時。

俺達の邪魔をする存在として、立ち塞がる。


俺は、槍を構えると、


「貫け!」


投擲、アーサー王の額を貫いた。

本来であれば、致命傷とはならないそれは。

全ての防御結界を解いたアーサー王を貫き、絶命させた。


「行こう」


頼れる戦友パーティーに……エメラルドとキース君に、告げた。

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