第59話 純粋な悪
「小物って……いや、私はあまり、クローバー姫の事は知らないのですが……」
エメラルドが、戸惑った様な声を出す。
「エメラルドがクローバー姫の事をあまり覚えておらぬのは仕方がない……そなたは、他人に興味が無かったからな」
「酷すぎませんか?!」
エメラルドが抗議する。
そりゃそうだ。
「何というかだな……クローバー姫は小悪党でな……不幸な境遇、低い立場……だが、虚栄心と地位に対する執着心が強くて……エメラルドの様な、純粋な悪とは違って──」
「喧嘩を売っているんですか?!」
エメラルドが涙目で叫ぶ。
怒ったところも可愛いな。
「つまりまあ、エメラルドは何かのきっかけで、善となる可能性があるが……クローバー姫は、その器では無い、といった感じか」
俺が見たところそんなイメージでは無いのだが。
「恐らくただの偏見で、今のクローバー姫を直視できていない……それだけだとは思うのだがな」
「いや、キース君を信じるよ」
キース君は仲間だ。
一緒に世界を救う仲間。
信頼する仲間。
そのキース君が直感で違和感を感じたのだ。
そこには……何かがある。
「私も、マリ……キース君は信じられます。昔から、私が親友と思っていた、唯一の存在」
「認識されてた?!」
「さっきから酷すぎませんか!!」
まあ、そう言われるくらい、色々やらかしてたんだろうなあ、エメラルド。
「そうだな……そろそろ、動こうか」
俺は、キース君と、エメラルドを、順に見て。
そう言った。
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「遊撃……ですか?」
「ああ。このままでは埒が明かない。俺とキース君、エメラルドは、積極的に夢魔を探し、それを叩くのに専念する」
「はい、分かりました。御願いしますね」
クローバー姫に、遊撃を申し出る。
てっきり止められるかと思ったが、すんなり受け入れられた。
なら……
夢魔は、強い。
だが、何とか力を合わせ……1体、2体。
雑魚を無視して突進、本体を叩けば……意外といけた。
翌日は3体、その翌日は2体……
3日間で7体も倒すことに成功した。
それまでの0体に比べたら、大きな戦果。
だが……何だろう、この、心に引っかかる、もやは。
「相棒よ」
昼間。
湖畔でのんびりキャンプを楽しんでいる時。
キース君が耳打ちしてきた。
「どうした?」
「上手く行っている筈なのだが……違和感が拭えぬ。てっきり、クローバー姫は夢魔を倒させないようにしていると思っていたのだが……あっさり許可され、順調に倒せて……クローバー姫の企みが分からぬ。そこで止めるのであれば、夢魔を倒す事が状況打開の道筋かとも思ったのだが、こうなると……無論、ただ純粋に、クローバー姫が真実を示しているだけかも知れぬのだが」
「俺も、違和感は感じているよ。何というか……こう、心の何処かが、警鐘を鳴らし続けている。ただ、さ」
俺は、情けないと思いつつ、
「クローバー姫は愛らしいな、と、そう感じてしまう自分もいるんだ」
昼間も、クローバー姫が混ざって遊ぶ事が多くなってきた。
唯一の人型……どうしても、愛らしいと思ってしまう。
言葉を飾らなければ、性欲すら感じる。
くそ……エメラルド一筋と決めているのに。
「あのマリア姫にすら心を動かされなかったのに」
「全く心を動かされていなかったのじゃ?!」
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