第54話 夢の中……?

「「クローバー?」」


マリアとキース君の声がハモる。


「知り合いか?」


「リリバレィの第十三王女ですね」


エメラルドが答える。

子供多いですね。


「お初お目にかかります、勇者様」


クローバーがスカートの端をつまみ、会釈する。

うわ、高貴っぽい挨拶。


「初めまして、クローバー姫。勇者らしい、火鷹ほだかです」


「私は、エメラルドよ。久しぶりね」


「えっ」


クローバー姫が、明らかに動揺した様子で、後退る。

どうした?


俺の表情を見たのか、キース君が補足。


「エメラルド姫は、今は丸い性格になったが、以前は尖っておったからの。警戒するのは当然だ。平民に対しては、そもそも、感情が無い道具としか見ておらなんだし。他家の王族に対しても、決して良い態度とは言えなかった。特に──クローバー姫は、王家内でも立場が低かった。恐らく、クローバー姫に対するエメラルド姫の扱いは……」


「……いえ、流石に、他家の王族に、一般国民の皆さんにしてた様な酷い事は決して……多分、空気の様に何もしていなかった筈」


それはそれできついと思う。


「エ……エメラルド姫、お久しぶりです。ご機嫌麗しゅう……」


「クローバー?!やめてください。私はもう、王家も滅びた身。この世界情勢、立場を気にしている状況ではありません。普通に接して頂ければ……」


「……噂には聞いていましたが、グロリアスも滅んだのですね」


クローバー姫が、愕然とした表情をする。


「エメラルド姫だけでも、生きておられて良かったです。そして、エメラルド姫が勇者様を召喚されたのですね」


「ああ、そうだ。俺は、エメラルドの勇者になった」


「え、エメラルド姫の勇者……?」


何故かクローバー姫が小首を傾げる。


「あとは……こっちは分かるよな。キース君だ」


「誰ですか?!」


クローバー姫が驚きの声をあげる。

あれ、知り合いでは?


「それより、クローバー姫。この状況……知っている事を話してちょうだい」


「……分かりました。城に来てください」


クローバー姫はそう言うと、出口へと顔を向けた。


--


「なるほど、夢の国、か」


「はい……」


クローバー姫が語ったのは。

この国に訪れた、悲劇。


ある朝クローバー姫が目を覚ますと……そこは、夢の中だった。

クローバー姫以外は、『人間』はおらず。

侍従や貴族、国民……全てが、動物、亜人、人によっては家具に。


混乱する人々を、何とかまとめ上げ……


新たに入ってきた人から聞いた話で。

ようやく事態を悟ったらしい。


災厄、死幻蝶ヴネディアの体内とも言える、世界に飲まれた、と。


曰く、城には、王都には、木馬で溢れかえっていたとか。

そこで野営した人が……目覚めたら、夢の中この世界


伝承と併せて考えると、恐らくこれが……死幻蝶ヴネディアの攻撃。

此処にいると言う事は……既に、敗北した事を意味する、と。

対処法とは……ヴネディアに呑まれない様に気をつけつつ、現実から世界ごと破壊する事なのだから。

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