第53話 飛んでいたパン

ふわふわの食パンに。

甘い蜂蜜をかけ。


珈琲の香りを楽しみ。


ああ……俺は今、至福の時を過ごしている。


ガツガツガツ


横では、テーブルの上に乗った虹色のマグロを、エメラルドが美味しそうに齧り付いている。


キース君は、果物の盛り合わせを。


「おかわりが必要でしたら、仰って下さい」


犬のウエイトレスが、笑顔で言う。

階下にはレストランが併設され、多くの人……もとい、人以外の何かで賑わっていた。

エルフ、ドワーフ、ワーウルフ、ワーキャット、ワードッグ……いや、普通に動物もいるし喋っている。


「食べて、もっと食べて!」


「うにゃ!」


というか、御飯も喋っている。

カオス。


「相棒よ、パンが逃げるぞ」


「散歩だろ」


俺が食べているパンも、時々空を飛んで……また戻ってくる。

蝶みたいにぱたぱたと。


何というか……こう。


<称号『美味しい食事に、美女に囲まれ、敵も居ない……夢の様な国でしょう?』を獲得しました[1]>


そう。

この無茶苦茶な感じ。

夢だ。


<称号『気付いてしまった様ですね』を獲得しました[1]>


……なあ。


夢の国ってさ……


<称号『想像通りです』を獲得しました[1]>


人が消えたのって、おかしな世界に引きずり込まれたからか?!


<称号『夢の国だと言っているでしょう?!おかしな世界とは何ですか?!』を獲得しました[1]>


死幻蝶ヴネディアの攻撃……その術中に嵌まっている訳だな?!

くそ……


<称号『だから言ったのに……』を獲得しました[1]>


いや、夢の国って確かに言ったけど、そのあと誤魔化したよな?!


<称号『いえ?死幻蝶ヴネディアの特徴、その対策、攻略法まで、全て教えましたよ』を獲得しました[1]>


何?!


<称号『ただ、スロット追加の喜びで、話を聞いていなかった様ですが』を獲得しました[1]>


……しまった、あの時か。

とにかく、追加されたスロットにパッシブスキルを色々埋めて……少しでも戦えるように……


#########################


名前:多村たむら火鷹ほだか

レベル:1

 STR:F

 VIT:F

 DEX:F

 AGI:F

 MAG:F

 MEN:F

AS:

 なし

PS:

 なし

リザーブ:

装備:

 なし

SP:-

称号:

 たくさん


#########################


戦えねえええええええ?!


<称号『見た目が変わらないからって、影響を受けていないとは思わない事ですね』を獲得しました[1]>


くそ……どうすれば。


<称号『教えましたよ?』を獲得しました[1]>


悪いな!

聞いてなかったんだよ!


<称号『教えたのに……』を獲得しました[1]>


くそ……


<称号『まあ、悩んでいても仕方が無いでしょう?とにかく今の状況を楽しめば良いんじゃないですかね?』を獲得しました[1]>


……まあな。


時間が止まっているのを幸いと、飛んでいたパンを捕まえる。

時間が止まっていても食べられるらしい。


カリ……


外カリカリ、中ふわふわ。

豪華な朝食を堪能する事にした。


--


「此処は何処だ?」


「王都リリバレィ、第一の宿、アロマセラプです」


朝食後。

受付で尋ねると、意外な回答。


「王都、だと?我々は、王都から離れた旅籠で寝た筈であるが」


キース君が小首を傾げ。


「そもそも、此処は私達のいた世界なのでしょうか?何処か……変です」


むしろ、変じゃ無い事の方が少ないですよね。


ピチピチ


木に止まった魚がさえずり。


すいすい


鳥が列をなして、水の中を泳ぐ。


とりあえず……王城へ行くか?


「起きましたか」


宿に入ってきたのは。

あら珍しい、人間の女性。

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