第46話 昨日の夕飯
「皆さん、私達は貴方達と敵対する気はありません。どうか、手を引いて頂けませんか?」
エメラルドが、呼びかける。
あのなあ。
「大丈夫だよ、エメラルド。俺が少し脅かしてやる」
「皆さん?!御願いですから、立ち去って下さい?!貴方達の無事が保障できません!!御願い、後生ですから!!」
涙目で叫ぶエメラルド。
いや、大丈夫だって。
そんな脅ししなくても、俺は負けないって。
「……妾が追い払うから大丈夫なのじゃ。華田殿と違い、常人がアレを喰らえば、命は無いのじゃ……」
俺がやるって。
今度は火にするから大丈夫。
「何の騒ぎですか?」
心の底に響く声。
金髪、長髪のシスター。
黒い修道服に身を包み。
立ち上る力は、マリア姫とは格違い。
キース君が連れてくるアンデッドの群れすら生ぬるい。
……
「……ふむ、なかなかの力の持ち主、なのじゃ。
マリアが、狼狽して後ずさる。
「ミカエル様!こいつらが……ベッドを持ち出すのを、邪魔して」
「してねえよ?!」
マリア姫で経験値稼ぎしようと、因縁つけられてたんです。
「ほう……今夜はふかふかベッドで安眠する……その天使の抱擁を邪魔するとは……すなわち、貴方達は神敵。神に代わり、裁きを下します」
それが、前へと進み出て……
「……おい、マリア姫、エメラルド、気をつけろ」
「分かっています……あの者は強い」
「どこから来たのか分からんが……きっとどこぞの総本山の秘蔵っ子なのじゃ」
いや。
もう、宣言した方が良いか。
「上手く化けたな、オラリドゥよ」
「「?!」」
マリア姫、エメラルドが目を見開く。
「私に至る道は潰しておいた筈だが……お見事、ですね」
ごうっ
吐き気を催すほどの、死臭。
瘴気。
取り巻きのシスター達が、険しい顔になり、オラリドゥに対峙する。
経験値稼ぎやお金稼ぎに精を出していようとも、その本質は聖職者。
死を顕現した様な災厄に対し、その存在を許容などできまい。
「ミカエル様。その不浄な気は、説明頂けますか?」
最初に突っかかってきたシスターが。
温度の無い声で、尋ね。
「昨日の夕飯に何を食べたか、なら、教えてあげますよ」
くすくす、オラリドゥがおかしそうに言い……まさかっ。
「吐き出せっ」
俺が叫ぶが。
間に合う筈も無く。
「ひ……」
シスター達の身体が腐り落ち始める。
「……不死化……なのじゃ?」
「恐らく、毎晩の食事に、ゾンビスープを混ぜていたんだろう。普通、高位の聖職者は、アンデッド化の魔法なんてかからないが……毎晩のように、食事に汚れの薬を混ぜられれば……少し背中を押すだけで、簡単に不死者となるだろうな」
「もしや……妾の食事にも……」
「いや、それは単に、20年くらいかけて不死化する儀式を準備してただけらしいよ」
「何で20年もかけてそんな事するのじゃ?!」
何でだろうね。
絶対、隙を見て世界滅ぼした方が早いよね。
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