第2話 初脱走

「ともかく、その首輪は回収させて貰います。先に死なれると、首輪が再利用できなくなるので、それまで死なない様に」


王女様?が近づいてくる。


わ……


近い。


王女様が美しい声で詠唱を……


王女様の顔が近づいてきて……


そのまま、おれの首筋に……唇を……

鼓動が……聞こえ……

体温が伝わり……


ややあって、首輪が外れ。


ドキドキし過ぎて、体が動かない。


「逃げないのですか?首輪を外したら、少しは抵抗するかと思いましたが」


「いや……非日常の連続で混乱しているのと……王女様が余りにも美しいから、ドキドキして、何も考えられなく」


「……ゴミにおかしな事を言われると、凄く不快ですね」


王女様?が青ざめて言う。


王女様?は、壁についた取っ手を指差し、


「あそこが遺体遺棄の場所です。自分で飛び込んで下さい。私が手を汚す事すら不快です」


ちょ。


「──夜半、暗闇に紛れて這い出せば、万に一つも助かるかも知れませんね」


……!

これは……見逃してくれる、と。


「……有難う御座います」


「処分するゴミに礼を言われたのは初めてです。さっさと死んで下さい」


俺は、王女様に一礼すると、取っ手を掴み、中に滑り込んだ。


無理矢理召喚され、殺されかけた。

これは勿論酷いのだが。

強制的に人殺しさせられ続けるか、殺されるか、から、支配を解いて貰って解放されるでは、神の施しだ。

……役得もあったし。

死んだら元の世界、何てことも考えにくいしな。


どうせなら、勇者として期待され、魔王を倒し、王女様とハッピーエンドとかが良かったが。

実際、こういうのが現実だと思う。


ぐしゃり


地面に降り立つ。

踏み抜いたのは死体──ではなく、食材の残渣。

アレは、ダストシュートなのだろう。


<称号『廃棄勇者』を獲得しました[1]>


部屋には、扉、そして通気窓。

今はまだ、昼。


腐臭、鼠、蟲の蠢く音……

どのくらいの頻度で回収に来るのか分からないが……もしくは火を放つのか。

それまでに夜になって、脱出できれば……


鼠や蟲が魔物で、食べられたらやだなあ。

残飯漁っててくれ。


--


ギ……


日が沈み。

念の為、少し待ってから、脱出。

うわ……すげえ臭い。

どこかで川に飛び込みたい。


<称号『初脱走』を獲得しました[1]>


初って何だよ。


意外と、警備は手薄い。

駆け……うわ、堀の跳ね橋が上がってる。


……仕方が無い、飛び込むか。


ドボン


なるべく音をたてたく無かったが、水柱が上がる。

幸い、落下の衝撃が殺せるくらいの深さはあった。

泳ぎ、外側ヘ……


<称号『初水泳』を獲得しました[1]>


これで、臭いも幾分取れたかな?


<称号『初入浴』を獲得しました[1]>


入浴じゃねえ?!


<称号『初土左衛門』を獲得しました[1]>


死んでねええええええ。


何とか向こう岸につき。

登り始め……


<称号『初ボルダリング』を獲得しました[1]>


西洋かぶれめ。


何とか登りきった。

……すげえ寒い。


城門が何故か開いていたので、助かった。

とにかく、一旦街から離れよう……


くそ……空腹と……喉が渇いて……


<称号『そのまま右手方向に真っ直ぐ行けば川と洞窟が有りますよ』を獲得しました[1]>


?!


と、とにかく行ってみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る