24 第一話最終戦 大魔シリウス

 現状、中庭にはもう誰もいない。誰かのいた後は残っているのかもしれないが、そんなのは見ても仕方がない。


 目の前には軍勢、今回は今までのような狼縛りはなく、ゴブリンなどが混ざっている。


 そしてそいつらは、間違いなくゲートを使える。


 1人で相手にするのはかなり難しい相手だが、もうこっちはゲートを切っている。なら、戦いは死ぬか殺すかだ。


 シンプルに、ゲームいつものように思考を研ぎ澄ませ。


 1人だけ明らかに違う個体。あのヒトガタの大魔シリウスがコアだろう。


 つまり、数を相手にする必要はどこにもない! 


「死ね」


 そう声を放って殺意を叩きつける。しかしヒトガタは落ち着いて自分の影から影のモンスターを生産していた。


 そしてその中から、明らかに達人の雰囲気を醸し出している騎士の姿が現れた。その数は2人、装備を見るに、あの地下での戦いにて見た奴だ。回復役であり、ネタがわからないうちに殺された奴。当然のようにゲートはもう潜っている。ちょっとは侮れやクソが! 


 周りのゴブリンや狼たちの攻撃は最小限で回避して、右の騎士に斬りかかる。当然切れ味MAXでだ。しかし、それは首を跳ねたにも関わらず、その体は一瞬のブレと共に元に戻った。


 やはり、無尽蔵な再生じみている。体力の衰えが見えない。


 コイツもコアを持つタイプの大魔という奴なのか? 


 だが、コイツらは前に死んだ時ボコボコにされた遺体を残していた。としたら、傷を負うダメージに条件がある? ……わからん! 


「……どうせ時間はないんだから! 殺さずに無力化する! 生命転換ライフフォース風属性付与エンチャントウィンド!」


 圧縮した風を腹打ちに乗せて叩きつけ、もう片方の騎士へと打ち出す。それを受けた騎士2人は吹き飛び壁にめり込む。


 しかし、新たに作られるゴブリンの群れの半分が俺を止め、もう半分が奴らを助けに行く。ヤバイ、手数が足りないッ! 


『……命を無理に使ってでも、ここは!』

「わかってる! 生命転換ライフフォース風属性付与エンチャントウィンド! 切り刻め!」


 風の刃の雨がゴブリンや狼などの雑魚を切り刻む。だが、広範囲に伸ばした俺の刃の作り方ではかなりの命を使わされた。この感じ、残り10分はないッ! 


「だが、道は!」


「開けるわけねぇだろタコが」と言わんばかりのカバーリング。やはり強い! 


 やってくる2人の騎士。ゴブリンを殺すのが間に合わなかったか……ッ⁉︎


 メディ! 奴らの右頬! 


『はい、鎧が斬られて血が出ています! 明らかなダメージ確認です!』


 理由は⁉︎


『同じ位置、ならば2体一対の力?』


 ……二体同時がヒントだな。まぁ、やれるかは別なんだけど! 


 そうしていると、背後からの狼の突撃を喰らいかける。どうにか躱せたが、この位置取りは嫌な感じだ。


 シリウス本体が、遠い。


『ここは、一度逃げて暗殺を狙うべきでは?』


 駄目だ。それをやるとコイツらは無差別に人を襲い始める。そうなったらどこにも隠れられない。


『では、命を捨てる覚悟で特攻を?』


 元から覚悟なんざできてるよ。守るって、決めたからな。


『ならば提案です。ギリギリまでの持久戦を』


 さっさと殺さないと不味いってのにそれは⁉︎


 瞬間、生み出されたゴブリンにより放たれた矢により意識を切らされる。まずい、ちょっと掠った。毒とかあるなよマジに。


 んで、なんで持久戦⁉︎


『持久戦を提案する理由は2つ。まず、この病院から広がる異界の中にプレイヤーが混ざる可能性がゼロではないこと』


 他力本願! 好きよそれ! 


『もう一つは、弱って侮られてくれれば今届かないワンチャンスがあるからです』


「……上等! 泥臭くやるのが俺のスタイルだよ!」


 まず、思考からシリウス本体へのルートをカット。最小限の力で周りの雑魚を殺しながら、俺を攻める騎士のシリウスの護衛を続ける騎士の攻撃を躱す。


 そうして頭が冴えてくると、いくつかの疑問が出てくる。


 どうしてあのシリウスは他の騎士を作らないのか。あるいはバードマンでも良い。ゲート使いが増えたら俺はどうしようも無く殺されるのだから。


 ならば、原因は? 


『推測、キャパシティの関係では?』


 ありそうだ。さっきから殺した数と生み出す数が同じ、それにシリウスの1000匹のアレもそういう事なら、納得できる。多分騎士2人のキャパが9割とか必要なんだ。だから残りをうまくやりくりして波状攻撃で誤魔化してる。


『なので、今あの騎士2人を殺すのは悪手かと。次の万全な騎士が生まれます』


 元から同時攻撃かなんかでしか殺せないけどさ! 


 ゴブリンが低空タックルで俺の足を止めようと突っ込んでくる。それを踏みつけて、空を跳び、病院の壁に着地する。そして跳ね飛び、護衛の方の騎士に蹴りを叩き込む。そして当然のように自らを守るモノを生み出そうとしているシリウスに斬りかかれるか見たが、奴の手が黒の生命転換ライフフォースで隠しているが獲物を持っているのがわかった。


 コイツ自分を餌にして殺す気満々かよやめろやおのれ。


『これはやはり、助けが来るのを待ちましょうか』


 いや、大丈夫だ。“もう来てる”。


「……助けてお巡りさん! ファンタジー生物が殺しに来るんです!」


「なんだって? それは大変だ! 殺さなきゃ!」


 そこには、俺とは逆方向から警棒を使ってゴブリンや狼を殴り殺してやってくるじゅーじゅんさんがいた。


「なんでそんなノリノリなんですか足柄さん! 俺を追いかけてきたって話でしょうに!」


 そして、ゴブリンを殴り殺しながらしれっと戦いに混ざっているユージさんがやってくる。


 強いわ、やっぱり。


「しゃあ! 賭けには勝った! ナイス連絡だよメディさん!」

「たまたまこの辺パトロールしていた僕らを褒めてね!」


 そう言い放ったじゅーじゅんさんの後ろからジョー刑事が顔を出した。


「オイ足柄ァ! 勝手に前に出てんじゃねぇぞ!」

「先輩! 避難はどうですか⁉︎」

「できるか! 逃げられねぇんだぞここから! この中庭で食い止めろ!」

「酷いですねぇ、そんな無茶を言うなんて!」


「アイツを殺さないなんて、僕らがやらないわけないじゃないですか!」

「全くもって同感です!」

「余裕だなあんたら!」


 自然と、戦うことに馴染んでいる俺たち。3人の実力者がいる。ならばできる事はある! 


「シリウスを殺します! つーわけで、またまたあの2匹任せて良いですか? 同じところに同じダメージを受けると傷になります!」

「オーケー! ユージくん! マウント取って顔面殴りまくるよ!」

「バイオレンスだなぁもう!」

「嫌いかい?」

「……ここで引いたら、姉貴がどうなるかわからない! だったらやるさ! 男らしくさ!」

「さすがイケメン高校生! けど先輩からのお叱りは覚悟してね!」


 そう言って進む俺たち。


「メディ! 残り時間!」

『3分はありますね。光の巨人と時間は同じです」

「なら、余裕だな!」


 そうして、殺気をコントロールして殺しをばら撒く。1匹1匹、丁寧にどう殺すのかを叩きつけながら。


 一発芸の類だが、これは一瞬俺に注目を向けさせることができる俺のバトロワ系、無双系ゲームでの奥義だ。


 その隙は一瞬であるが、しかしそれを見過ごさない不良警官と高校生ヒーローは動き出す。


 止まった雑魚を無視して、それぞれが騎士の顔面に攻撃を叩き込む。


 それは、微妙にタイミングがズレていたが為に殺しきれなかったようだが、衝撃でぶっ飛ばす事は可能だったようだ。


 それだけの仕事をしてくれたのならもう十分。


『それでは、準備はよろしいですか?』


「当、然!」


 そうして、今出せる最高速度で首を刈りに剣を振る。それに反応して剣破壊の用途に用いられる短剣、ソードブレイカーを合わせるシリウス。


 だが、今更その程度のもので止まるような剣じゃない! 


「らぁっ!」


 俺の剣は、シリウスのソードブレイカーを切り裂き、右肩から真っ直ぐにその身体を断ち切った。


 しかし、そこからモヤが現れて騎士へと取り憑いた。それに、じゅーじゅんさんは気付いていない⁉︎


『推論、アレはマスターにしか見えないのでは?』


 だとしたら、今ここからどうする⁉︎あんな意味不明なモヤによる無茶苦茶な生き物なんてどう殺せ……ば……


 ⬛︎⬜︎⬛︎


「これが、奴らの殺し方だ。この影のように臓腑の中に結晶があるとされる者、獣の群体の中に1匹だけ違うモノがいる事、様々だが、それでも核を殺せばどんなルールで生きている者とて殺す事ができる。それが、大魔の殺し方だ。だから、戦いの中で謎を謎のままにするな。考え続けて、見つけ出すのだ、敵の殺すべき核を。それが、大魔と戦うという事だ」


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 剣王ラズワルドの言葉が頭を走る。


 考えろ、考えろ、考えろ。


 そもそも、奴はどうして昨日の地下での戦いの時に現れた? あの雑魚っぷりだったが、それでも奴はそこにいた。


 つまり、コイツは残りの体がある限り死なない。それがどこにあっても。


『では、コアを今から探すのですか?』


 違う、コアはもう見えている! 一番最初にシリウスを殺した時から、! そこに命が感じられたから危ない何かだと思ってたが、それだけじゃないのなら! 


「2人とも! そいつらを殺してくれ! それから先のとトドメは俺がやる!」

「わかんないけどわかったよ! どっちにしてもコイツは殺すし!」

「コイツらは、HPとかそういうのを他人に合わせさせられる! だから!」


「「そんな事考えさせないくらいに殺しまくる!」」


 そうして、じゅーじゅんさんの乱打による撲殺と、ユージさんの炎の拳がコイツらを包む。


 そうして、現れたのは黒いモヤ。それを今一度よく見てみると、小さなコアに風と生命の生命転換ライフフォースが包まっているように見えた。俺が見えたのは。あるいは最初の時にイレースさんが見えたのはそれが理由だったのだろう。


 だが、コアは極小。風の剣では殺すのは難しいだろう。


 だから、今こそ使う時。氷華に託された、生命の生命転換ライフフォースの技を。ずっと隣で見てきたように思えるアルフォンスの剣を! 


閃光剣レイブレード!」


 それは、酷く不格好な剣だった。


 しかしその収束のまともにできていないクソみたいな光の剣は、しかし極小のコアを焼き尽くすには十分な力であり。


 シリウスを殺すには、十分なモノであった。


『ゲームオーバーです』

「二度と来るなよクソ野郎」


 その言葉を最後に、パリンという音と共に空間が割れた。今までのような消える感じではなく、割れて崩れるようなモノだった。


 そして、すべてのモノが元に戻る。破壊された痕跡は消え、証拠も全て消滅する。


 そして戻ってくるいつもの倦怠感。


 どうやら、どうにかなったようだ。


「あー、お疲れ様でしたー」

「……終わった、あー生きてるって感じだなー!」

「君たち、まだ周り警戒してようね。終わった後にさらにドンってのがあるんだからね現実だと」


 疲れからと心労から中庭に横になる俺とユージさん。それをやれやれと見つめるじゅーじゅんさんにどうにか証拠がないかを探しているジョー刑事。


 それぞれはそれぞれだが、戦いはここに終わった。そう思うことにする。


『これ以上来られたら死にますものね、間違いなく』


 それは言わないお約束ですよメディさん。


 あとは、親父次第だ。氷華のことを助けられるのは、結局親父しかいない。だから、あとは祈るしか無い。


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 久しぶりに、私は夢を見た。

 それは、私が私の命より大切にしたいと思った人の事。


 当時の私は両親を事故で失い、親族はもうおらず、しかも精密検査で様々な病気が見つかっていた状態だった。


 幸い怪我はないのだけれど、それでも生きる気力は全く存在していなかった。


 そんな時、彼に出会った。


 自分は能面のような顔で、「君を助けさせてくれ」なんて言葉を吐いた変な子。


 でも、私は全てが投げやりになっていて、その子に全部を吐き出してしまった。沢山の病気のこと。まず助からないということ。そんなことを。


 そして、今可能性のある手術の成功率はほとんどゼロだということを。


 それを聞いた彼は、それから1時間くらい後に私の病室へと現れてこう言った。


「今から0%を破ってみせる。だから、手術を受けるって約束してくれ」


「できなかったら、俺も一緒に死ぬから」


 そうして、彼の2674番勝負が始まった。


 ただ、ただひたすらに、無茶苦茶に、彼は剣を振るっていた。相手は勝率100%の達人。何がどうしても勝ち目なんてない。なのに、負けても負けても戦いをやめなかった。殆どが一瞬で負けるような戦いだったのにだ。


 そうして1時間近い戦いの最中で彼は成長し、対して達人は疲労して、奇跡のような一勝を決めて見せた。


 そうして彼は私に言った。


「俺はゼロは超えられた。だから君も諦めないで手術を受けてくれ。君を助けたいって人がいるから」


 能面のような顔のまま、言ったその言葉は私を酷く惑わせた。


 そして、私を彼の父親の身内にし、新しい手術を受ける権利を得る為に、婚約届をネットで役所に提出した。私と、彼の。


 そして、最初の手術が終わった後、中庭で彼は言った。


「これで、1人は守れたのかな?」

「……まだよ。私は、まだ沢山の病気があるから」


「だから、私が治るまで、私を守って。婚約したんだから」

「……わかった」


 それはきっと、私からも彼からも卑怯な約束。

 私が彼と離れたくないからでっち上げた約束。

 彼を私と離したくなかったから作った約束。


 そうして私は彼を知り、その危うい心の中にある優しさを知り、気付けば彼と生きたいと思っていた。


 それが、Mrs.ダイハードの正体。

 私はきっとただの恋する娘。


 だから、死ねない。


 私が死ねば、私の恋は始まる前に終わってしまう。誰が吹き込んだのか知らないけれど、ずっと1人の男を見たいと思っている女なのだ私は。


 だから、死ねない。


 私が死ねば、彼はきっと心を間違えたままで涙を止めてしまうから。


「だから、死なない。私はMr.sダイハード、死んでも死なない女なんだから」


 そう口に出せたときには、いつもの倦怠感がやってきた。

 お腹が焼けるような痛みもやってきた。

 心を強く持たなければショック死してしまうだろう。


 麻酔が入るまで、私は気合で生き残る。

 そうすれば、義父様が私を助けてくれるから。

 そう、信じられるから。


 私は、命を燃やして命を繋ぐことにした。




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