25 第一話エピローグ 御影氷華との約束

「……ん?」

「あら、起きたのね」


 そこは、いつものVIPルーム。氷華の病室だ。


 どうやら、ガッツリと眠っていたらしい。まぁ疲れたものな。


「とりあえず、手術お疲れ様」

「ええ、お疲れ様。久々にインオペになったからまだ治ってないのだけどね」

「まぁ、じゃあないわな」

「だけど体調には問題ないから、日曜の朝には手術できるとか言ってたわよ、お義父様は」

「それはそれでどうなんだオイ」

「だって、出血も全部無くなったもの。記録上も体調上も私は寝ていただけ。だから、病院の都合てさっさと治って欲しいんだって。勝手よね」

「……大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。馬鹿みたいに検査を沢山受けた上での結論だから」

「そいつは……お疲れ様?」

「ええ、疲れたわ。ハグを要求しても良い?」

「味をせしめたのかお前」

「さて、どうかしらね」


 そんな彼女の、震えを隠していた手を見て、守りたいと心が動いた。


 そっと、ガラス細工を触るように抱きしめた。


 すると鳴り出すシャッター音の嵐。


『マスター、周囲をご覧下さい』


 そこには、さまざまな方法で仕込まれていた小型カメラの数々が! 


 そして入り口の方には、ニヤニヤと笑うナース長さんと申し訳無さげなユージさんが! 



「ハメやがったこの女!」

「ええ。コレで私は合成じゃない映像証拠と証人とついでにあなたとの愛を手に入れたのよ」

「愛についてはまだノーコメントで!」


「あら、けれどあなたは抱きしめてくれたのでしょう?」


「……ハメやがった! マジで!」


 つまり、窓の向こうにあるあの夜景はAR。現在時刻を示す時計とかは全て時間をごまかされ、そしてメディは裏切っていた! 


 現在時刻は! 日曜の13時! 


 もう手術が終わった後だったッ! 


「じゃあ改めてお話をしましょうか。婚約解消は約束だから受け入れるけれど、それから先何をするかは分かる?」

「いや、ね。俺としてはやっぱり俺だけを見て俺を選ぶってのは、ね」

「散々聞いたわよ。だからこうして逃げられなくしたんじゃない」

「聞いててコレなの⁉︎なんでさ」


「だって私、タクマの事を愛してるもの。あなたがいないと死ぬことを選ぶくらいには」


「始まりは利用し合うだけ。あなたは守る相手が欲しくて、私は命を繋ぎたかった。けれど、そこから生まれた愛だってあったの」


「あなたもそうだから、私を抱きしめてくれたんでしょう?」


 その言葉に、完全に降参した。やっぱりコイツには勝てる気がしない。


「じゃあ、婚約を解消しましょうか」

「……わかったよ」


 そうして、ネットの操作で俺は氷華との婚約を解消し、そしてすぐに出されたを見て、それにサインするのを躊躇った。


「言っておくけど、私が他の男を見てないってのはもう通じないわよ。VRだと、私の体目当ての男も、金目当ての男もたくさんいたもの。一目でお帰り願ったけれど」


「それに、昨日の手術の時に気付いたの。私、死ぬなら貴方に看取られてないと嫌よ。そうじゃないと死んで死にきれないわ」


「だから、風見琢磨くん。貴方と同じお墓に入る事を前提にお付き合いをしてくれませんか?」


 その言葉に、俺は完全に参った。

 その言葉は、どこまでも澄んでいた。ずっとずっと心の中で正しく育ててきたどこまでも綺麗な想いだった。


 だから、真っ直ぐ向き合って、真っ直ぐに答える。今の俺の答えを。


「俺は、氷華が好きだと思う。だから、氷華には幸せになって欲しいと思ってる。だから、お前が幸せに死ぬまで、俺にお前を守らせて欲しい」

「それは断るわ」

「……えー」

「だって私、守られるだけのお姫様なんて柄じゃないもの」

「なら、なんて言えば良い?」

「そうね……」


「飾らないで良いんじゃない?」

「それもそうだな」


「御影氷華さん、俺も貴方を、愛してます」


 そうして、俺と氷華の手術の為の偽装婚約は終わり、そして本当の婚約が結ばれた。


 まぁ、俺たちの関係は実のところ全くと言って良いほど変わらなかったのが逆に笑える話なのだけれども、それはそれだ。


 今は、この病院全体に拡散したこの婚約話の収集をつけなければ! 知り合いの人達が皆ニヤニヤしててうざったいんだよ! 


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 それから数日。病院での行方不明者は異界の展開時に中庭にいた3名で片付いたらしい。じゅーじゅんさん、本名は足柄圭一という刑事さんとジョー刑事が色々と調べてくれた結果だ。


 なんというか、本当に運が無い。今回も俺が巻き込まれたという事で、俺の位置は常にジョー刑事の端末で確認できるようになった。プライバシーが死んでいく! が、自分の命には変えられないので受け入れるしか無いだろう。うん。


 して、部屋の掃除は終わったわけなんだが。本当に受け入れて良いんだろうか? 


『氷華様は天涯孤独の身。構わないでしょう。法律的にもマスターと氷華様は内縁の関係となっていますし』

「いやいや、それはわかってるけどさ」


 けれど、好きな子が同じ屋根の下というのは、なんだが少し心が浮つくものがある。間違って殺してしまわないか心配だ。


『それはないでしょう。マスターは私と出会った時より大分マシになりましたから』

「マシって酷いなオイ」

『事実です。覚えていませんか? 《Echo World》にてアルフォンス様が亡くなった時に貴方がどう感じたか』


 アレは、シリウスがアルフォンスごと巫女さんを殺した時のことだ。俺は、その事実に驚愕して、そして……


「そういや、ショック受けてたな」

『つまりマスターは、友人以上の相手ならきちんとその死を悼むことができるようになったのです。間違いなく氷華様の躾の結果とはいえ、上々かと』

「言い方ァ!」

『事実でしょう?』

「せめて、教え込まれたとかでマイルドにさぁ」


 そうしていると、ドアの鍵が開く音が聞こえた。

 これからこの部屋を使う、氷華の来た音だろう。


「改めて、おかえり氷華」

「ええ、ただいまタクマくん。ご飯にする? お風呂にする? それとも」


「私のいない間に無駄に勢力を広げている新参を締めにゲームをしに行く?」

「じゃあ、風呂も飯もタイマー入れて、ゲームにしようか。なんだかんだ俺も新しくできたプラクティスエリアは気になってるからな」

「ええ、誰が上かを魂に刻み込んであげましょう。そして……」


「私達を襲ったあの現象、突き止めて潰すわよ」

「だな。あんなのが来るんじゃおちおちゲームもできやしない。それなりに探ってみようぜ、警察とかがなんとかしてくれるまでさ」


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 警察庁特殊技術犯罪対策課、かつては伝説の30秒デスゲーム事件などに活躍したその素子部署だったが、今では新たに作られたVR犯罪対策課によって追いやられ窓際部署となっている。

 ……そこにいる者たちは、それでも正義を捨てない曲者ぞろいであったが。


 そんな部署に、足柄圭一は戻ってきた。与えられた仕事を終えて。


「栗本先輩、帝大病院での件、目撃者の証言集め終わりました」

「足柄、お前本当に新入りか? 若いのにしては妙に使えるんだが」

「昔明太子……友人と本格的なケードロみたいなゲームやってまして」

「ゲームってのも案外侮れないもんだな」

「まぁアレはガチの捜査合戦でしたからねー」


 そう話す足柄は、栗本の端末に纏めた情報を送った。


 信じられないような事件だったが、主な戦場が中庭であったが為に犠牲者は少なく、目撃者は多かった。


 しかし、それでも上を動かす決定的証拠にはならない。


 


「栗本先輩、これドラマに良くある“上の陰謀だ! ”とかだったりしません?」

「アホか。そんな連中が上がれるほど今の警察は腐っちゃいねぇよ」

「でも先輩はここで腐ってるじゃないですか」

「俺は良いんだよ。体動かなくなるまでは現場って決めてんだから」

「まぁ、僕も本気では言ってないですけどね」


 そうして、2人は黙る。互いに、どうしたらこの異常事態を知らしめられるかを考えながら。


「明太子のタイマー、アレは罠でしたよね」

「いや、多分カウントの条件が違うんだろうさ。時間だけじゃなくて、他の何かもカウントしてるだから、急速にカウントダウンが早まった」

「つまり、ゲーム運営は一応の味方側だと?」

「じゃなきゃ繋がらん。風見琢磨はゲームの中じゃあ強い奴だったんだろ? 現状は全部の事件に対してのカウンターとして風見が置かれているって事だ。どう考えてもそんなん無駄だろ、敵ならば」

「……じゃあ、なんで警察とか軍とかに頼らないんですかねぇ?」

「それがわかれば、こんな人探しなんざしなくて良いんだがな。ったくウチを便利屋扱いしやがって」

「で、結局製作者Dr.イヴってのは何者なんですか?」

「偽造戸籍、偽造ID、なんでも偽造だらけの正体不明だよ。ゲームへの干渉も初日以降はほとんどAIに任せてるから逆探知もできん」

「うわ、今時そんなマンガみたいな設定の奴居るんですね」

「俺だって初めてだわこんな冗談は」


「そこなる2人、遊んでないで仕事して欲しいんだガ」

「はーい」

「あいよ」


 そうして、顔写真すらないDr.イヴについて2人は調べを再開した。


 その先にある市民の安全を信じて。





《あとがき》


 これにて、残響世界の聖剣譚の第一話は終了となります。ですが、とても素敵なお方(露骨なゴマすり)の企画でのレビューがあり、自分でもこの作品の書き方を考え直すほうがいいのではないかと思いました。

 なので、思い切ってこの小説は大改造したいと思います。

 ですが、せっかく書いたこの作品、捨てるにはもったいないので残したいという気持ちもあるのです。そこで、この作品をまるまるプロトタイプとして完結作品にしてしまおうと思ったのです。当然タイトルは変えます。【未完、改訂作品執筆中】残響世界の聖剣譚【プロトタイプ】、みたく。

なので、この作品をブックマークしている方は、作者をフォローなりして新しくなった残響世界の聖剣譚を見つけてくれるとありがたいです。



イベント「評価が欲しい方、全部読みます」

作者 高田丑歩

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894635885


カクヨム内でのイベントで書かれたレビュー集です。こちらに様々な作品への鋭いレビューがありますので、紹介される前に一度読み、これを読んでもう一度読みましょう。違った視点が見えて楽しいです。自分も鋭い一撃をもらいましたがそれ以上に刺激になりました。

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