22 第一話リザルト発表

 いつもの黒い部屋に、デカデカと第一話クリア記念と描かれた垂幕が場違いに目立つそこは、第一話リザルト発表会場と言われていた。デブリーフィングルームじゃないのかいな。


「皆さん! 私達の想定とはカケラも擦りもしない大立ち回りでしたが! 結果的に第一話、群狼シリウス編、終了です! ちなみに! 普通ではクリアタイムなどは申し上げないのですが今回はワールド規模でのRTAという事だったので宣言しちゃいます! クリアタイムは、2時間41分25秒! ネックだった数の暴力をあんな方法で解決するとは本当に見事でした!」


 そんな言葉を、マテリア嬢は言う。


 なんというか、相当楽しそうだ。


「なので、通常のクリアリワードの1000ポイントに加えて特別ボーナスの1500ポイントを加えた2500ポイントを基礎点として与えたいと思います! さらにさらに! 討伐、作戦のポイントの倍率を1.2倍にします! 皆さん、本当にお疲れ様でした!」


 なんか、結構なポイントを貰える事になっていそうだ。やったぜ。


「では、このゲームについて意図的に伏せていた攻略法を開示させていきたいと思います。今回の解き方の答え合わせですね」


「今回の事件、シリウス編の根本的な滅びの原因はこの国を守る結界の維持そのものです。結晶体として封印されているシャドウには、万全の騎士団、ひいては王をぶつければ多くの犠牲を出しながらも勝利する事が可能でした。なので、それができるようになるまで騎士団の方々の潜在好感度を上げる事が今回のクリア条件だと想定していました。もっとも、今回のやり方では現在の周での好感度を上げる事でコレをクリアしたのですけどね」


 あー、なるほど。アルフォンスがなんか俺を覚えていたのはそういう事か。


『ですね。潜在的に“この人物は信頼してもいい”と思えるようになれば怪しい頼みでも聞いてくれるでしょうから』


「そして、それを得る過程で護衛長エディについての色恋話などの大切なストーリーを知り、それをもとに説得することで仲間にするという事が本来のシナリオでした」


「ですが、この世界はその辺りをかなりフレキシブルです。推理ゲームで例えれば、犯人が犯行をする前にぶっ飛ばして拘束してもクリアになるようなものです。なのでコレをズルだなどと思わずに、これからもありとあらゆる手を尽くしてクリアを目指してくれていると嬉しいですね」


 それはなんとも“なんでもあり”に強い氷華に向いているゲームだな。というか、そういうのを理解したからこそのRTA宣言なのだろうけれども。


「では、これにて余談は終了! リザルトの本格的な説明に入ります!」


 なんとも、楽しそうに説明するAIだ。まるでメディだな


『そうでしょうか? 私はさほど感情のエミュレーションは得意なAIではないのですが』


 あれよ、慣れてからば結構表情が分かる的な。


『顔はドクターの設定画モドキでしかないですけどね』


 と、話を聞かねば。


「これから毎話のクリアごとに、そのクリアに貢献した4人のプレイヤーの方にはストーリーポイントが加算されます! その用途は、ポイントとさまざまな特典との交換です! その交換対象は、これらです!」


 そうして、目の前にウィンドウが開かれる。


 そこには、ストーリーポイントで現金が手に入れられるという凄まじい事が書かれていた。


 もっとも、1ポイントにつき2000円というちゃっちさであったが。


「もっとお金を跳ね上げろ? そんな金があるならもっとマシな方法とってますよ!」


『マスター、それよりも下をごらん下さい』


 メディに言われるがままにスクロールを進めていくと、そこにはいくつものアイテムとの交換ができると書かれていた。


 まず、地図。現実世界で使えるこのゲームデザイナーの作ったオリジナルUIの地図である。


 次に、時計。こちらも現実世界で使える時計。


 そして最後に、権利。

 10ストーリーポイントというこれまでの最大の消費を代価にして、得られるだ。


 マテリア嬢を見る。そこには、どこか申し訳なさそうで、しかし嬉しそうに俺たちを見る姿があった。


『マスター』


 だな。謎を解くならこのゲームでPOGになって20ポイント集めなきゃならない。だが! 


 そういうのは子育てサイコに任せて、俺は地図か時計のどっちか持ってればええなー。幸いポイントは1つ貰えたからどっちかは買えるのだし。



 けど、どっちが良いと思う? 


『間違いなく氷華様のポイントも入るのですし、2人でそれぞれを買うのでよろしいのでは?』


 それもそうか。


「尚、このポイントの交換はこの会場でしか行えず、譲渡なども不可能です。そして、思考操作でしかポイントの使用は行えませんし、他人の交換対象は見ることができません。また、交換対象の順番に関しても、一番上と一番下以外はランダムとなっています。これは、その人個人個人によって交換対象が違うからです。ネタバレ防止というやつですね」


「なので交換対象についての情報は鵜呑みにし過ぎない方がよろしいかと」


 釘を刺してきた? 理由はわかるかメディ


『……いずれ来る混乱に備えるため、でしょうか』


 そいつは怖い。じゅーじゅんさんには是非に頑張って貰おう。


『まぁ、マスターは所詮貧弱中学生ですしね』


 そゆこと。じゃあ、せっかくだし俺はこの時計を選ぶぜ! 


『何故に時計なんですか?』


 毎度毎度寝起きで遭遇するのやなんだよ。


『それもそうですね』


 そうして時計を手にして、その表示に驚く。


「コレ、バグってるのか?」


 表示が、88:88を示している。旧世代のデジタル時計か! 


 まぁ、多分時間加速だのがアレコレしてるのだろう。気にしない方向で。


 役に立たなくても、所詮2000円だ。


「では! これにて説明は終了です! これ以降は製作者のメッセージくらいなので、帰っても構いませんよー」


 その言葉を聞いて、残ったのは過半数。まぁこのクオリティのゲームを作れる人の言葉とか気になるわな。


 そうしていると、マテリアさんの姿はそのままに、雰囲気が変わった。


「プレイヤーの諸君、私の《Echo World》を購入してくれてありがとう。私はDr.イヴ、このゲームの製作者だ」


「このゲームを作るにあたり、様々な技術革新があった。それは私1人の力では決して届かなかったものだ。本当にこの時代に生まれたことに感謝している。そして、製作費に金を使いすぎて宣伝費の欠片もなかったこのゲームを購入しプレイしてくれたプレイヤーの皆様には感謝してもしたりない」


「だが、これから先のこの世界には多くの苦難があるだろう。それから逃げ出すことは決して悪ではない。誰か1人が居なくなって結果が変わるのなら、それはその程度のことだったというだけなのだから。故に、君たちは自由に、この世界と向き合って欲しい。その為の協力を私は惜しまない。……預金残高が残っている限りはな!」


「というのが、ドクターの言葉です。要約すると、“もう買ったから良いけど! もっとたくさんお友達を誘ってプレイヤーを増やしてね! ”という事です! ……いやだなー、皆さん一斉にツッコまないで下さいよ。まぁ、良い歳して中2の抜けてない人ですが技術は本物なので、楽しんでプレイして欲しいなと思います! では、これにて第一回リザルト発表会を終了します!」


「ですが、現実でもくれぐれも気を抜かないようにしてください。滅ぼされた者たちの残響は大きさで響くものです。その残響に引きずられてしまわないようにお気をつけて」


 そんな、いつもとは違う言葉を最後に、リザルト発表は終了した。


 その後、皆で簡単に打ち上げを行った。飲み物も何もないが、わちゃわちゃするだけでも楽しいものだ。


 今回のGOPはダイハさん、俺、ドリルさん、メガネさんの4人。なんともまぁそれぞれやってるゲームが違う連中である。


 ペテンと推理、無双系入った対人、シミュレーション、ステルス。それぞれがそれぞれの強さでもぎ取ったGOPだった。


 それぞれポイントは1ずつであり、俺以外にポイントを使った奴はいないとのこと。まぁあの一見クソなラインナップならそうだろうなー。


 俺のような確信を持っていないのなら、時計も地図も買う気にはならないだろうし。


 まぁ、流石に3回連続で遭遇するなんて事はないだろう。あとはじゅーじゅんさんやジョー刑事がなんとかしてくれるさ! 


『流石の他力本願ですね』


 所詮中学生の俺に何ができるのだし。


 そんなことを思いながら、良い感じにお開きになって現実へとログアウトした。


 そうすると、時計の時間が進み出す。


 時間は、48時間後。これならとりあえずゆっくりできそうだ。

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