20 第一話攻略RTA 前座の前座

 生命転換ライフフォースに慣れた者達は下がり、ゾンビアタック部隊は率先して雑魚を散らす。そこまでは変わらない。


 だが、そろそろこっちが息切れしてきた。デスペナや転送からの移動時間のために、常に一定の人数が前線を張れないのだ。


 だからこそ、力を見せる者達がいる。


「マスタード! コンビネーション行くよ!」

「ああ!」


 そうして始まるハラスメント9による連携攻撃。


 それは、省エネでは面倒くさい奴筆頭の大鬼の足を切り、崩れた体へと刃を突き立てる最小限の殺し方。


「正面は、苦手なのだが、な!」


 などと言いながらしっかりとゾンビアタックに味方が専念できるように弓や投げ槍使いを崩して回っているメガネさん。


 その崩れた敵を必ず射抜く、(多分無断で)やってきたイレースさんの狙撃、そしてイレースさんを護衛するロックスさん。


 そして、おそらくもう8回はデスペナを食らっているのに全く衰えないミスターゾンビアタッカーのフーさん。


 様々な人が、様々に己が力を発揮し始めている。


 そうしていると、だんだんと戦いを無理なく援護する形で地下に入ってきてくれている騎士達が来る。それぞれが“死んでも死なない変な奴ら”を疑問視しながらも、とりあえず敵対したら殺せばいいやなんて考えで援護してくれている。


 というか、実際に口に出す奴もいる。まぁ怪しいもんなー俺たち。


 なにせ、戦いながら裏でドリルさんが生命転換ライフフォースの起こしをできるようになった人たちに指導をしているような軍団だもの。


 指導法は、かなりのスパルタだけど。


 そうしていると、大蛇が群れでやってくる。ラズワルド王は一振りで薙ぎ払っていたが、省エネで戦うには面倒な奴らだ。


「そろそろ時間切れよ」

「……ですわね! 攻撃部隊に抜擢された皆さん! 行動を開始します! 攻撃対象は大型! 大蛇、大鬼、ワイバーンなど消費無しに倒せないモノ達! 細かくは言いません、個人プレイでぶちのめして下さいませ!」


 大声で叫ぶ皆。当然俺もノりたいが、あいにくと俺はまだ援護程度にしか動くなとは言われている。援護ならしてもいいのだろうが、後々の連中の相手をすると考えると力も時間も使えない。あの最後の黒騎士達、俺の焼けた腕を見て舐めプしていたのだ。


 絶対殺す。


 しかし、敵のゲートは重力使いが1人という事しかわかっていない。なので、騎士達全員のゲートをまとめて相手にするくらいの覚悟は必要なのだ。


 ちょっと泣きたい気分である。まぁせっかくなので楽しんで殺すつもりではいるのだけれど。

 それはそれで今暴れられている皆が恨めしい。だって新しい力に馴染んで楽しそうなのだ。


「らぁあああああ、ぁあ!」

「気合入れても、あんまり力は変わらないよ!」


「ああ妬ましい! なんだよ拳闘グラップルスタイルでの燃える拳とか主人公かユージさん! 普通に暴れられてるのがマジで妬ましいぞじゅーじゅんさん!」

「ははは! 負け犬の声が心地いいなぁ!」

「タクマくん。流石に今出られると困るのだけど」

「あ、ちょっと待って」


 そう言って、透明になって近づいてきていた奴を斬り殺す。この混戦の中で正面からの暗殺に踏み切るとか凄い度胸だなコイツ。


「あら、守ってくれたのね。お礼は私の半分でいいかしら?」

「駄目です。シャークトレードは認めません!」

「つれないわね」

「あなた達⁉︎ちょっと落ち着きすぎてはいません事⁉︎」

「だってタクマくんを近くに置いているのは暗殺警戒のためなのよ?」

「……それもそうですね。良く役割を果たしてくれましたタクマさん」

「あざーっす」

「適当! 傷つきましたわ、謝罪として結婚式には呼んでくださいませ」

「まさかの援護射撃⁉︎」

「根回しは万全なのよ」

「……お前ら、表面上は真面目にやれ」


 普通に大鬼をぶっ殺して帰ってきた長親さんがそんなことを言う。やってることがあまりにも普通だからか、気にも止めてなかったぜ。


「怒るぞ明太子」

「え、俺だけ?」

「……俺は、影が薄い訳では、ないッ!」

「あ、気にしてたんですか。すいませんお洒落キズの長親さん」

「……おのれ!」

「言った本人が遊んでるんじゃあありませんよ、長親」

「それもそうだ」

「ですね」


 などと言いながら、しっかりと仕事を済ませる。


 暗殺型のゲート使いは、どうやら他人を透明にできるタイプだったようだ。なんかマスタードさんについでに殺されてた。流石にVRパルクールテロランやってる人は違うわ。


 なので、残った輩は長親さんと一緒にしっかり殺しておく。周りはうるさい事この上ないが、普通に殺せる程度の隠密性と実力でしかなかった。弱くはないが、コンビでやれればめんどうになることもない。


「何かと実力者なのね、長親さん」

「でなければ誘いやしませんわ」

「見る目があるのね、ドリル」

「私の勘は当たりますの」

「……勘なのね」


 勘すげーな。


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 戦いも中盤に差し掛かった時から、死に落ちのリスク抱えつもガンガン攻めていく。


 ここからが、本格的な時間との勝負だ。


 何故なら、生命転換ライフフォースの残量は人それぞれに差があるが、限界を迎え始めてる人が増えてきたという事。戦い続けてもう30分が経っているというマイナスの原因。

 そして、がプラスの原因だ。


 切り札、切るなら今だろう。


「いくわよタクマ。ダイハードモード」

「あいよ。何分だ?」

「2分くらい。ラズワルド王にどれくらい使うのかわからないしね」

「じゃあ、護衛長さん! お願いします! 断ったら殺しますからね!」

「……事ここに至ってどうこうできる立場ではないのだ! せめて散る意味はまかり通す!」


聖剣抜刀ゲートオープン!」

「タクマ!」

「受け取った! ダイハードモード、スタート!」


 握ったその手から、力を受け取る。それを自身の命の起爆剤にして、擬似的なゲートを作り出す。それがダイハードモード。


 ゲートに比べると俺自身の燃費がとても良いのでる。凄まじいモノだ、この生命の属性という奴は。


「遅ればせながら参上した! 騎士アルフォンス! ここからは助太刀に入る!」

「ゲートは使うな! 大物が残ってる!」

「わかっている! 私をゲート一本の三流と見まごうな! 閃光剣レイブレード!」


 そのアルフォンスの声と共に、これまで静観を保っていた騎士達が動き出す。


 その理由は、ただ一つ。


 ラズワルド王の説得が終わったのだろう。実際、背中に気高い王気を感じるのだから。


 フル装備ラズワルド王へダイハードの生命の属性を叩き込んで、限定的に動けるようにする事。それがこのRTAの最後の切り札だ。

 騎士軍団に関しては俺でもアルフォンスでも確実な勝利を掴めない為、そんな死人に鞭を打つような事をしでかす訳である。そうでもしないとあの連中は殺せない。それほどに強いのだ。


 数では勝っているために油断も誘えない。うざったいものだ。


「2人! 暴れろ!」

「「はい!」」


 そうしていると一陣が終わり、ワイバーンの群れが現れる。残った雑魚どもの数も考えると結構な手間になる。普通なら。


 この辺りは、もう対策済みなのだ。


 アルフォンスと目配せをして、俺が地下空間を高速で飛び回りながら俺が叩き落とし、蹴り飛ばし、一箇所に纏めてそこをアルフォンスの閃光剣レイブレードでトドメを刺す。12秒、次。


 ドラゴンが出てくる直前に今使える最大の力で斬撃を置き、ドラゴンの口に傷を作る。そこに副長さんのゲートが響き、ダメージからの強い反射で口が開き、そこから脳髄へと向けて風と光の剣を突き刺す。

 4秒、次。


 現れるはゴーレムの群れ。ただの剣では太刀打ちできない難敵だが、アルフォンスと分かれて左右から解体する。


 関節を断ち切り動かなくなったゴーレムは無視して次に行く。場所取りが面倒で時間をかけてしまったが、それでもアルフォンスの存在により予定タイムよりプラス。

 58秒、次


 現れる翼を持った戦士達。ゲートなど開かせてたまるわけはないので、ここからは全力の支援を受ける。


「クソガキ! 王子! 適当になんとかしなさい! 生命転換ライフフォース風属性付与エンチャントウィンド! 吸い尽くせ、風よ!」


 そうして放たれたイレースさんの支援射撃。

 それは翼で風を受ける翼人達には効果が覿面であり、完全に何をすることもできずに矢の刺さった場所に吸い込まれ、俺とアルフォンスにより切り刻まれた。

 16秒、次


 現れるのは光のクソども。ネタはもう割れているので、きっちり時間をかけて遠距離攻撃によりコアを破壊する。


 30秒、ちょうどダイハードモードが終了。

 だが、まだ余裕はある。ダイハードモード切れとは、結局のところ外付けのブースターが切れただけなのだから。今回のようにセーブした量の力なら、終わった後でもまだまだ動ける。


「さ、こっからが本番だぜアルフォンス」

「ああ、だが君の隣なら負ける気がしないな!」

「へぇ? どうしてだ?」

「心が、そう言っている!」


 なんだか、嬉しいものだ。潜在的な好感度とかがデータとしてあるのだろうか? まぁそういう考察は後でいいだろう。


 今は、共に戦う時だ。


「俺が先に崩す! アルフォンスはギリギリまで見極めろ!」

「わかっているとも!」


 そうして現れるのは闇に纏われた鎧の騎士達。


 数は9人。前は認識できていなかったが、陣形を組んで完全に殺す気で出てきているこいつらは明らかな強敵だ。空気でわかる。


 だからこそ、戦うことに意味はある。

 コイツらよりも俺が強ければ、守れるものは必ずできる。かつて守れなかった人々やアルフォンスのような手の届かないことで納得してしまえる自分を殺す事ができる。


 それができるなら、現実で何が現れても対処ができる。


 人でなしは人でなしなりに、命をかけて戦わなければならないとわかっているのだ、今は! 


 だから俺は、強くなる! 


聖剣抜刀ゲートオープン!」


 首に巻かれる緑の、風のマフラー。


 体全体で感じる風。


 それらは全て、俺の殺しに繋がっていた。


「改めて名乗ろうか! 俺は我流、明太子タクマ!」


「ダチの信じた願いのためと、俺自身の我欲の為に!」


「貴様らを、殺す」


 純度100%の殺意が自分のなかから湧き出でる。

 それを束ねて剣にする。


 さぁ、最後の前座の始まりだ。


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