19 第一話攻略RTA 巫女詐欺/群狼暗殺/ゾンビアタック

 途中昼食休憩を挟みつつ、ぐだぐだ喋ってるだけで時間を過ごす。


 そうしていると、徐々に寝起き組や休日組、サボり組などのさまざまな人々が集まったきた。作戦会議の必要はない。それぞれの作戦自体は簡単にできているからだ。


「あら、お早いですねお二方」

「サボりは感心しないぞ」

「私は学校行ってないから関係ないわね」

「うるせぇですよ、そういうお二方こそどうしたんです?」

「私は少し頭が痛くなりまして」

「俺は半休だ」

「オイこのクソドリル人のこと言えねぇじゃねえかよ」

「私はともかくドリルを馬鹿にするならば出る所に出ていただきますわよ」

「財力アタックは卑怯じゃないっすかドリル様。あ、靴をお舐めしましょうか?」

「変わり身⁉︎」

「冗談はやめてよねタクマくん。そんなことを私以外にしたならソイツを破滅させなければならないじゃない」

「ご心配なく。靴も足も舐められるのは好きではありませんの」

「「やられた事あるのかよ⁉︎」」


 そんなんで集まった4人。そして、まともな時間にログインしてきた2人組。子育てサイコとユージさんだ。


「おい、僕はじゅーじゅんだからね? そんな呼び方をすると怒るからな明太子」

「へいへい、悪かったなサイコ野郎」

「わかりゃいいんだよ」

「子育ての部分が駄目だったんですか⁉︎」

「そだよ。彼らは戦士になるんだから」

「独特の世界観してるよなー」


「して、こちらは?」

「VR剣道家とニュービーだよ。リアル友達? になる」

「ども、じゅーじゅんです。配信ちょっと見たよドリルちゃん」

「あ、ユージです。最近自分の常識を疑い始めています」

「安心しろ、おかしいのはコイツらだ……」

「「「「誰がおかしいって?」」」」

「自覚があるくせに青少年に絡むな奇人ども!」


「てか、なんで長親さんまだ仲間やってんです?」

「まぁ、ゲームだからな。常識人と絡むよりこっちの方が面白い」

「俺この人もそっち側だと思うんだけど」


 一瞬のうちに始まるぐだぐだトーク。だが、もう時間だ。


 ワールド開始は18:30分。


 作戦の最終確認は18:15分から。


「それではお集まりの皆様! このRTAへと参加していただき感謝を申し上げますわ! 特別な扱いをする者たちはいらっしゃいますが、皆様の基本の仕事は雑兵の排除です。そのことに不満のある方は申し上げて下さい。一瞬で首が飛ぶようなスリリング狼とのバトルへと回してあげますわ」

「作戦は簡単。中ボスを暗殺し、ボスの軍勢を足止めし、大ボスとやれる奴を届ける。その過程で見せる“数の力”が大切になるから、皆に戦いに貢献することは求めていない。だから、相打ちを取ってくれれば私たちの利益になる。戦いが苦手な者はそれを忘れないで、自分にできる最善をその場で頑張ってほしい」


 そう言うドリルとダイハさん。見目麗しい美少女が、堂々と言葉を放つだけでこれだけよく通るとは本当に魅力とは強い能力である。


「それでは、武器の配布を行います! 皆さまお並びになって下さいな。私たち6人が配布を行います。そして、現地でそれに電池役の生命転換ライフフォースを注ぎますわ。それまでに使い心地を確認しておいて下さい」


 そうして、今回のRTA協力のメリットである200ポイント武器、上質な剣を皆に配布する。


 今いるメンバーは、初期より多少増えて60人ほど。その中で自前の武器を持っているのは1/3程度。40×200ポイントで8000ポイントの大出費である。


 その程度の出費が気にならないほど馬鹿みたくポイントを持っているのが彼女なわけなのだが。


「では、各自武器に慣れて下さい。システムアシストはないので、握りをちゃんとすることを心がけて」

「あ、完全素人って人は僕のところ来てー。簡単な相打ちの取り方くらいは教えてあげられるから」


 やはりじゅーじゅんさんは変わらない。恐ろしいな。


 そして、18:29分、全員が同時にメニューを開き転送準備を行う。


 そして、マテリアさんが「開始です!」の“か”を口にした瞬間に全員で転移を行った。


「鉄砲玉部隊! 南進して山砦へ! 潜入部隊! 行動開始! 対雑兵部隊! 私に剣を触らせなさい!」


 そうしてRTAが始まる。


 俺は当然鉄砲玉部隊。今回はハラスメント9の皆さんも一緒だ。


 とにかく山砦へと急がなければならないのだ。シリウスの分体が行動を起こす前に止めるために。


 それと同時に、対雑兵部隊は武器にダイハさんの生命転換ライフフォースをかけて動き出す。すると剣だけ見えるようになり、自分の力を使わずとも戦えるようになる。そしてなにより、デスペナ条件を考えるとこれが最速でゾンビアタックができるのだ。


 そうして全員分付与を行ったダイハさんは、ドリルさんとともに正面から堂々と王城の門を叩く。


 ここからは、完全に別行動だ。俺は俺の仕事をするとしよう。


「行くぞ! 特攻部隊Aチーム!」

「地味に危なくないか⁉︎それ!」


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 南門へと走り去っていくタクマくんを見送って、ポイントで買ったドリルの“貴族のバトルドレス”、私の“巫女の戦衣”と無駄に強い生命転換ライフフォースを見せびらかしながら行く。


 当然門番たちは動揺しているが、ドリルのあまりにも堂々とした姿に見惚れて動きを固めていた。


 その隙に、メガネを筆頭にした潜入部隊が侵入する。彼らの役割は内側から門の閂を開けること。


 そうすれば。


「私たちは! 未来から来た稀人です! このソルディアル王国を最悪から救う為にやって参りました!」

「な、たしかにその服は貴人のもの! そしてその強大な生命転換ライフフォースは間違いなく巫女のもの!」


「私達の話に信憑性がないのはわかります。事が終わり、私たちが事を謀った者だとわかったのなら当然切り捨てて構いませんわ。故に、今ここに第一の証明を」


 そうして、私は門に手をかけ、ゆっくりと押し上ける。身体能力の強化により高まった力は、本来10数人で開ける正門を真っ直ぐに押し上けた。


「いまこの門には閂は空いています。その事がわかっているから私は扉を開けたのです」


 こういう演出があれば、勘違いして色々納得してくれる。本当に美人とは得なものだ。


「待て」

「なんでしょう、部隊長さま」

「お前たちが未来から来たというのは今のところ信じよう。攻め込んできていないからな。しかし、そうであるからと通しては筋が合わん。貴様らの後ろにいる剣の精霊たちの強さを見たい。1人、前に出ろ」


 一応想定していた問題だ。が、今回は棚ぼたによりこの問題は解決している。前の作戦ではタクマを前に出す予定だったが。


「ではじゅーじゅんさん。力をお見せして下さいな。しかし、生命転換ライフフォースは使わないように。部隊長さまも、どうか」

「これからの戦いのためか。承知した」


 そうして構えるじゅーじゅんさんと部隊長。


 その交錯は一瞬で終わった。


 じゅーじゅんが、メイスにより剣を巻き取る奇術のような一合で彼の剣を上に飛ばしたからだ。


 そして、その剣を手で掴み、彼に返却する。


 そこには、器用に手だけに力を入れた彼の姿があった。さすがタクマくんと争っていた人物だ。もう力の使い方に慣れたのだろう。


「戦鎚の精霊よ、良き技であった。……これからは俺が同行する! お前たちは門の警護を続けろ!」


 まさかの援軍にちょっと嬉しい誤算。プランをさらに上方修正。


「では、真っ直ぐに巫女の間へと赴きます。皆さま、手筈通りに」


 その言葉で、もう動き出していた潜入部隊がさらにスピードを上げる。


 本当にあのヒャッハーメガネは有能だ。とりあえず見えるかどうかの確認だけで良かったが、これならば現場を押さえられるかもしれない。


 そうして巫女の間まで行く過程でさまざまな騎士達がやってくるが、部隊長さんの言葉により私たちを巫女の間へと通してくれた。まぁ見えているのは私とドリルだけなのだけれど。


 そしてたどり着いたそこには


 息も絶え絶えな女性、恐らくはアルフォンスの母親の巫女長、地面に固められている護衛長、そしてその体を古風な拘束術により捉えているメガネがいて


 そして、シリウスのコアの黄金の玉が転がっていた。


「これは⁉︎」

「……どう⁉︎」

「まだ余裕で助かる! だから先はこっち!」


 そうしてコアを握りしめて、そこにそこそこの量の生命転換ライフフォースを叩き込む。


 どうしてか私が使えてしまっている、生命の属性の生命転換ライフフォースを。


「何故、何故だ⁉︎貴様ぁ!」

「何故? それは単純よ」


「あなた、相手が悪かったのよ。死んでも死なないダイハードな女なんてね」


 そうして、黄金のシリウスのコアは破壊され、その命はモヤになり南の方へと向かっていった。


 そして、次の動きに移る。


「足軽太郎さん! 帰還からの転移で方向の確認! 間違ってないならそのまま追いかけて下さいまし! ミセスは!」

「わかってます。巫女長の治療をさせて頂きます」


「な、なんなんだお前たちは?」

「未来からこの国を救いに来た稀人だそうだ。先程の大魔の核を見るに、誠のことだったようだな」

「……アレは、結晶の隙間から転がってきた。彼女の命が尽きかけたのが原因だ」

「だから、内側の結界は。その内側のシャドウサーバントごと。その為には貴方にも動いてもらいますけど構いませんね? エディ護衛長さん」

「馬鹿な! そんな事をすれば!」

「結界の出力が半分で済み、この国の決定的破滅は遠のきますわ。内側のを倒す戦力はもう整っていますもの」


 そう言って、堂々と背中にいる第0アバターたちを見せる。そこには、私の生命転換ライフフォースにて強化された強力な武器を携えた者たちがいた。


「では、皆さま。予定通りに。今の穴から漏れ出す雑魚は、ローテーションで殺して差し上げましょう」


 そんな事を言うと、結晶から1匹のゴブリンが飛び出してきた。それは結晶の穴をこじ開けようと動くが、その前に踏み込んだユージくんが斬っていた。

 判断が速い。生命転換ライフフォースを覚えれば即戦力に間違いはないだろう。


 良い人を連れてきてくれたものだ、と今は天狼を殺しに動いている彼の事を思う。


 彼がいるのだから、作戦の前段階はすぐに終わるだろう。

 そうなってからの現地協力者との交渉が肝だ。だから、アルフォンスくんのお母様には生き返って貰おう。

 死ぬ気がない人は、適切な処理をすれば割と命を繋ぐものなのだから。


 ⬛︎⬜︎⬛︎


「伝令! 第一段階終了! 到着まであと5分くらい!」

「りょーかい。て言ってももう人狼以外殺し終わってるけどね」


 ここの配置された10人は、このゲームにおける精鋭中の精鋭だ。ロクに武器もないのに狼を狩り続けた9人と、キルスコア連続1位を誇っている俺。


 そんなのが囲んで奇襲をすれば、狼をいくら出せたとしても使群狼シリウスではどうすることもできなかった。


 それに気付いたのは、誰かの掲示板での書き込み。


 “群狼シリウスになる時は、絶対に夜の時だよな”という当たり前のことと、“なんか育成ゲームの進化エフェクトみたい! 夜にしか進化しないかタイプなのかな? ”という若干のネタ。


 そう、進化だ。


 群狼になった時も、天狼になっていた時もそれぞれ条件はあったのだろうが、その根本には夜があった。推測を交えて話すなら、死んだ数と、夜であることの二つが条件じゃないかとダイハさんは言っていた。


 今は夕暮れには早く、シリウスはまだ生命転換ライフフォースによる防壁を出していない。


 結構な数の狼を殺したのにだ。


 つまり、だいたい合ってるということなのだろう。


「キサマラァ!」

「そろそろだね。明太子くん、トドメ準備して」

「あー、やっと終わる。さっさと合体してくれよ面倒だな」

「ナンナノダ、オマエタチハァ!」

「ゲーマーだよ、僕たちは」


 そうしてコアから戻ってきた人狼たちの魂を受け止めて一つになったシリウスの首を跳ね飛ばし、さっぱり殺して終わらせる。

 数秒待機したが、もう生き返る様子はない。モヤになってどこかに飛ぶような事もない。


 全く、全員死ねばそれで良いみたいなのがわかってればここは短縮できたというのに。面倒だ。


 が、これはもう大丈夫だろう。


「じゃあ俺は本陣の方行ってくる皆もコイツを確認したら助けに来てくれ!」

「今度はクライマックスまでに行くからね! 前回の地味に根に持ってるから!」


 グッと親指を立て、その声に応える。

 そうして転移を行う。すると、「しゃあ! デスペナ3分!」と叫ぶ人がいた。


「了解! 現場に伝えてくる!」

「任せたぞ明太子くん!」


 そうして、第一の犠牲者さんを置いて再び転移を起動する。そして噴水前広場へと降り立ってからまっすぐに王城へと向かう。


 そこには、精鋭の騎士達がもう詰めていた。内側狩りを終わらせるという稀人たちの力になる為に。


「しゃあ! 騎士への推薦勝ち取るわよロックス!」

「イレース、あまり無茶はするなよ?」

「……壁から失礼!」

「あ、抜け駆けするなガキンチョ!」

「まて、あの鞘の紋!」

「……まさか⁉︎」


 だからなんだよこの紋章のヤバさは! ありがたく使わせてもらうぞコレ! 


 そうして、大広間の下にあるその封印の間へと向かう。


 そこには、第0で雑魚を殺してる人々、第一で生命転換ライフフォースを使って大鬼や大蛇をぶちのめしている人々が居る。


「戻った! 1人目のデスペナは3分! 第0の人たちのゾンビアタックは可能だ!」

「最高ですわね! タクマくん! 皆さま! この作戦ならやはり死んでも問題はありませんわよ! 戦士として存分に経験を積むのです!」


 そうしていると、2人同時に第一形態に変わる人達がいた。そこには、メイスを自在に操るじゅーじゅんさんと、荒っぽく剣を使っているユージさんがいた。


「じゅーじゅんさん! ユージくん! 一旦下がって! タクマくんはその穴埋めを!」

「あ、なんか出来てる⁉︎」

「これが命の力ね! やりやすい!」


 そうして剣を投げて攻め込んできた大蛇の目を貫き、そこに追撃の打撃を加えて仕留めたユージさんと、大鬼の攻撃に完璧にカウンターを合わせて頭を吹き飛ばしたじゅーじゅんさんが戻った。


 そして、空いた穴に俺が入り、風の刃でケンタウロスを切り刻む。


 そして起きるこの感じ、第一陣を超えたようだ。


「さぁ、ここからもチャンスタイムですわよ! 戦いに慣れれば力が馴染み! 力が馴染めばより強くなれる! レベリングのボーナスタイム、惜しんではなりません!」


 そうして、かつてはラズワルド王の死闘において最も時間をかけた雑魚ばかりの第一陣は、プレイヤーのゾンビアタックと覚醒により安全に終わらせることができた。


 上等な滑り出し。戦いは、ここからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る