15 第一回デブリーフィング
「それでは! 記念すべき第一回デブリーフィングを開始します! ……アレ?」
AIのマテリア嬢が叫ぶが、場は冷え切っていた。
具体的には俺の隣にいるダイハさんのせいで。
まず、あれから起きた事を語ろう。ラズワルド王と俺の決死の時間稼ぎにより、あの結晶の中にいた護衛のモンスターは壊滅した。それは、辿り着いたプレイヤーのうちの最初の犠牲者が、「影っぽいのが喋って良くやったとか言ってた」という事を吐いていたし、他に敵も居なかったので本当にソイツが王の言っていた奴とやらなのだろう。
そして、当然のように騎士達とプレイヤー達は戦いを始めた。俺たちが命懸けで繋いだレイドバトルだ。それはもう派手な戦いだった事だろう。騎士達はゲートを出し惜しみせず。プレイヤー達も死力を尽くして戦い抜いたのだろう。
そして俺は今回のプレイヤー大勝利の踏み台になる。まぁそれも良いかとか考えていた。
だけどこのゲーム、ちょっと頭がおかしい。
騎士達と数合交え、現状を把握したその奴とやらは。
ガン逃げに徹したのである。
そうして、ゲートが切れるまで逃げ回った奴は短期戦型、中期戦型、長期戦型と順番に時間切れになった奴を殺して周り、そのあとまるで理解しているかのようにプレイヤーをズタズタにして殺し始めたのだ。そうしなければすぐ戻ってくるのだと。
実際、俺はズタボロ(自爆)かつ生命の使いすぎで再出撃可能時間は12時間を超えていた。それほどに死体の状況とは重要なのだろう。
まぁ、つまりだ。
今この空気を作り出しているダイハさんの思いとは。
“なんであそこまで詰めといて負けてんだこのクソ雑魚どもが。ウチの鉄砲玉はちゃんと仕事したぞ? なのにどうしてだ? ”という感じだろう。
「えー! 第一回! デブリーフィングを始めまーす! ……だから、この空気をなんとかしてくれないかな? ダイハードちゃん」
「ミセスをつけてくれません?」
「ごめんなさいミセス」
管理AIすら謝るこの事態。誰が収集を付けるというのか!
“なんとかしてくれ! ”と長親さんが目で訴える。ドリルさんは申し訳なさから自ら率先して正座しているので意志の疎通は不可能だ。
ハラスメント9は、仕方ないよなーみたいな空気で傍観しており、メガネさんはその知的なメガネをクイっと上げつつ特に何もしていなかった。あいつ絶対
だが、俺も思う所が無いわけではないのだ。
命をかけて希望を繋いだぞ? 俺は。最強クラスの勝利フラグを立てただろう? 俺。
なんでそっから負けてんだコイツら。それでもこのインディーズの腐海に足を踏み入れた猛者かよと説教を始めたい気分なのだ。真面目に。
『同感です』
まさかのメディさんからのゴーサイン。止める理由は何もないな!
「……まぁ、少し大人気なさすぎたわね。ごめんなさい。あなた達の主人公補正のなさを見縊っていた私の間違いだったわ」
そんな言葉を最後に俺の手を握ってその威圧を留めた。止めたではなく留めただ。チッ、もう少し連中は地獄を味あっていれば良いものを。とは少し思ったが、隣の彼女がそれを許してはくれない。
隣の俺にはとても良く伝わってくるのである。彼女の隠した内心が。ひしひしと。やめいこの馬鹿娘め。
というか主人公補正とかお前以外には誰も待ってねぇよ畜生め。
「で、では! またまた改めて! 第一回デブリーフィングを今度こそ始めます! 皆さん、あと一歩でしたね! よく頑張りました!」
その一歩って巨人サイズのじゃない? と思ってる感じのプレイヤー達。実際に見てないから分からないが、多分逃がさないように動けばそう難しい敵ではなかったと思う。だってそいつのゲート間違いなくモンスター生成が能力だし。
「えー、では! 恒例の質問タイムに移りたいと思います! 前半の質問者は
では一つめ。“デスペナの回復時間は、死亡時の
デスペナルティは、
それを聞いてニヤリと微笑むこの女。何か酷えこと思い付いたな。
めちゃ楽しみである。
『率先して巻き込まれに行くのですね』
だってそっちのが楽しいし
『この刹那的思考は止めるべきなのでしょうか……』
まぁいいじゃない。友人と馬鹿やるのも良いものだ。
「それでは! 次のお便り! “仲間が一線を超えそうで心配です。このゲームでのハラスメントによる垢BANはあるのでしょうか? ”。
勿論ありますが、プレイヤー同士では申告制となっております。他の少年少女などの清いプレイヤーに見つからなければ現地住民には何をしてもBANはありません! 思う存分セクハラをやってみると良いですよ……できるものならね!」
随分と緩いな。
『そうなのですか?』
いやだって、このゲーム股間のアレ感触があるんだぞ。なら、擬似的な行為も出来るだろうし。
『ですがレーティングは全年齢でしたよ?』
多分、その辺本気で気づいてなかったんじゃないか? 審査員もここまでの化け物ゲームとは思わんだろうし。
『かも知れませんが、一つだけ懸念が』
なんぞ?
『
さてな。何にせよ俺はこのゲームのおかげで命を繋げたわけだから、その辺はどうでも良いさ。あんな事とはもう関わり合いは無いだろうし。
「それでは! 質問タイム1回目が終わった所で! リワードポイントの配布を行います! 今回は皆さん頑張ったので、沢山入ってますよー! また、商品ラインナップは皆様の冒険によりアンロックされていきます。強い装備が欲しい方は、皆と協力してたくさんの冒険をしましょう!」
そうして、俺は自分のポイントを見る。
そこには、2万4600ポイントの大量のポイントがあった。やった億万長者!
と思った所で、隣で愉快な顔をしているダイハさんのポイントを見る。そこには10万を超える凄まじいポイントが表示されていた。
上には上がいるのよねーうん。
だが、違うと腕を引かれる。そこには“現場における最適指揮”という項目での大量のポイント獲得があった。
どうやら、このゲームで金を稼ぐのはダイハさんに任せた方が良さそうだ。
さて、となると質問だ。せっかくなので現実に現れた狼について聞いてみよう。
当然のように、全く返答はなかった。
けれど、マテリア嬢はどこかホッとしたような目で俺を一瞬見つめた。てっきり殺意を向けられると思ったので、意外である。
⬛︎⬜︎⬛︎
「では、第二回質問タイム終了! 皆、今回は本当にお疲れ様でした! 正直1回目の試行でここまで食らいつけるとは思わなかったから、制作者共々本気で驚いています。ですが、王国の奥に眠るあの影は強者です。皆さま、知恵と力を振り絞って頑張って下さい!」
その言葉と共にマテリア嬢は消えていった。
そして、今度は背筋が凍るような冷たさをした隣の彼女は、近くでまだ自主正座をしているドリルさんに耳打ちをした。
手には、ドリルさんの動画があった。俺と同じように、死んだ後のボスとの戦いを調べるためだろう。
少しすると、パッと輝きを取り戻し、ドリルが回転しているように見えるほどやる気を取り戻し、不遜に高笑いを始めた。
「皆様! 私達のチームの参謀! こちらのMrs.ダイハードから作戦の提案がございますわ! 一度お聞きになって頂けませんこと?」
そうして上に立つ者の威厳により静まる空気。そこに彼女が凛とした声を放つ。
「単刀直入に言うわ。今回のシナリオの攻略法がわかった。だけどそれはこのワールド全体で協力しないと不可能よ。だから貴方達」
「最短最速で王国を救済するわ。ワールド単位での
その不敵な言葉に、皆は燃え上がった。面白そうなのに食いつくのがゲーマーだものな。
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