14 王城奇襲作戦 彼の聖剣の目覚め
まず、全力で一歩踏み込んだ。すると着弾点はシリアスの目の前。隣にはアルフォンス。速度を基準にアバター性能を大体把握。ついでに無拍子気味に一太刀。シリウスの闇によって受け止められるが、切れ込みは入っておりそこから氷華の命は侵食している。
あいつのやったのは他人への生命の譲渡、
『その可能性が最も高いかと』
否定の言葉が欲しかったかな!
俺の剣が首の払いにより弾かれると、シリウスはアルフォンスの剣が届く前に分身を生成、噛み付きによる真剣白刃取りを実行してみせた。しかし、流石のアルフォンス。鎧モードの光剣の出力を上げることでその歯を蒸発させてシリウスに切り込んだ。
しかし、
群狼の時より、死体の回収が速い。というか一瞬だった。
「パワーアップ?」
「条件が不明だが、どちらにせよ長期戦は無理だ! 速攻でカタをつける!」
「だよな! ダイハードモードもそんなに保たなそうだし!」
『なんですかダイハードモードとは』
なかなか死なない奴の加護だ。死ににくそうだろ?
『確かに。今のマスターからは氷華様の生きる魂が乗り移っているかのようです』
つーわけで、コレ切れるまでは戦いまくる!
つーか殺す!
『マスター、敵が死ぬたびに強くなると言うのなら、面倒なことになるのでは?』
大丈夫、アイツは多分コアになってる1匹を殺せば残りも全員死ぬ。じゃなかったら幻痛事件の被害者の一人が生きてる理由にはならない。
『それは現実の話ですよ?』
混同しちゃ不味いか?
『いえ、理解しているのなら構いません。いつものように行きましょう。ゲームと現実の区別がつかない少年として』
わかってるじゃん相棒!
攻め手はもはや変えられない。俺もアルフォンスもアクセルを踏みぬいてニトロを点火しているような状態だからだ。俺の今の状態は疑似ゲートというに足る状態なのだろう。アルフォンス同様に命がバカみたいな速度ではじけ飛んで輝いている。
だから、攻めて攻めて攻め続ける。パワーアップの原理など、アップしたパワーの上から切り殺せばどうでもいいのだぁ!
と、冗談のような思考を吹き飛ばす敵の妙手がやってきた。3体に分身し、いったいずつによる俺たちの対応。そして残った一体は
「2体引き受けた!」
「暗殺任された!」
即時に自分の役割を宣言。地面を抜かせるわけにはいかない。そうなれば内向きの結界とやらの中にいる魔物たちがあふれ出てバッドエンドだ。だから防御力はないが殺傷力のある俺が前に出て穴掘りを殺す。
そのために、ステップフェイントを混ぜて一匹を抜き去り穴掘りの前に出る。
地面に向けていた爪が俺に向けられるが、そんなものは今更だ。空間を削られようとどうでもいいくらいには今の身体能力は馬鹿げている。
その一太刀は、確実に狼の頭蓋を貫いた。
「また、強くなった!」
「分身の死亡がトリガーか!」
そうして剣をとって返すも、奴は一瞬で回収した死体でもう一体分身を作っている。無限ループの無限強化パターン!
「大技あるか⁉」
「まとめてやれるかもしれないが、溜めが要る!」
「条件!」
「高さ! 、5秒!」
つまり、一閃で切り裂くので狼たちのバイタルパートは剣筋の直線状に高さを合わせなければならないと。そしてその溜めには5秒必要だと。
なかなかハードなオーダーだ。
『ですが、やるのでしょう?』
当然!
3体の狼を速度で翻弄することはできない。阿呆みたく速いのだから。だから3体にするべきは、虚実入り混ぜた牽制による位置調整!
殺気を一体のシリウスにぶつける。上段からの首狩りだ。
しかしそれは当然ブラフで、横薙ぎによる爪への攻撃を行う。それは当然防がれるが、それにより一匹はほかの2匹の近くへと吹き飛ぶ。無駄に硬いからそうなるのだ。
続いて、3体すべてに対しての連撃のフェイント。それはただのフェイントだと
今度はそれに対して脇を抜けながら殺気を乗せずに放つ無拍子もどき。それは先頭のシリウスの足を切り裂き、玉突き事故により3匹を転倒させた。そうなればやるのは当然の同化と別部位の分身再現。奴は固まった3匹がまとまりながらその背中に狼の4本脚を生やして異形のまま距離をとる。
しかし、そこに向けて俺の剣の殺気を乗せた一閃を放っている。そして、今までの奴の俺との戦闘経験からその
何せ今の奴は体が狼型ではなく完全な異形。目で俺の動きをとらえることはできない。
そして叩き込んだ上段からの一撃。それはシリウスの生命の
だから、その剣は鈍器としての一撃をシリウスに与えた。床にたたきつけたのだ。
そして、そこからはシリウスに何もさせない。分身噛みつきをいつでも回避できるように反応できる距離は取りながら、ひたすらにシリウスを叩き続ける。
だが、それの抜け方は実は簡単だったりする。おれは別にマウントをとっているわけではないのだから、俺の連打の間に大量に分身して群れになって逃げればいい。
それに気づくのはそろそろだろう。何せシリウスは
『カウントゼロです』
さすがメディさん! わかってるぅ!
そうして分身回避されるように少し大振りに振りかぶった瞬間に奴は大量に分身した。その数は数えるのが馬鹿らしいほどだ。
だが、この大振りには叩きつけは存在しない。振り上げた勢いのまま跳躍し、バック中のようなさなかアルフォンスの振るう光の、生命の剣を見る。それは一瞬で20メートル近い長さへと変貌し、すべてを切断する鋭い輝きを放たせ。
ゲートを開いた身体能力のすべてを用いて、すべてのシリウスを一閃の元に切り裂いた。
瞬く間、動体視力に優れる俺でも“振った”という事実しか認識できなかった、絶殺の一閃だった。
だから安心してしまったのだろう。たった一瞬。時間にして0.05秒もないその隙に
極小サイズの
「タクマァ!」
「アルフォンスゥ!」
もはや言葉で説明するのも放棄し、二人での一撃によりシリウスの開けた穴を大穴にする。
そこで見えたのは。
命を無残に散らされながらも、少しでも仲間たちの命を長らえようと反射でシリウスを止めようとあがいていた熟練の巫女たちと
たった一人になっておびえている少女が、それでも内側にいるモノたちを解放させないように全力を尽くしている姿だった。
そして、その背中にシリウスが襲い掛かろうとしている。
それに対して、俺はアルフォンスのことを全力で蹴り飛ばし、アルフォンスはそれに合わせて俺の足から跳躍しシリウスを叩き切ろうとして
ゲートの時間切れにより、無力化したアルフォンスと少女は無残に食い殺された。最後の一瞬で、動かない体を使ってそれでもシリウスから彼女を、この国を守ろうとした誇り高き王子は、ここに死んだのだ。
……時間は、まだあっただろ。
『おそらく、大技に使った時間が響いたのでしょう』
そうして、茫然自失となった俺が見たのは
“あとは任せた”なんて無責任に思いやがっているこの世界の友人の目だった。
メディ、残り時間は?
『あって3秒かと』
ならば、一太刀は放てる。
アルフォンスを飛ばした反動で天井に着地した俺は、すべての技を加速状態での突きにかけて天井を蹴る。
そしてその神速の突きはシリウスの
そうして俺の命が消えかけるその時
アルフォンスと似た温かさの、命の光がシリウスを両断した。
「……勝手に死ぬな、アルフォンス」
そう呟いたのは、アルフォンスによく似た顔立ちの、青白い顔色をした寝巻の中年だった。
魂で理解できる。彼こそがアルフォンスの父親なのだと。
「少年、まだやれるか?
「……やります」
「じゃあ、私が死んだら頼む。ここから先は地獄だ。封印が消えれば結晶からアレの子供たちが出てくるだろうが、私が生きている限りは皆殺しにする。そして、私が死んで尚アレが出てこないのなら、君に続きを頼みたい。これから続きやってくる、私の国には過ぎた騎士たちに戦いをつなぐために」
「何言ってんですか。そんな、
「やるのさ。これが今の私の聖剣だからね」
「この国では、聖剣を信仰している。けれどそれは伝説の剣を指しているんじゃないんだ」
「守ると決めたその時に、持ってるそいつが聖剣だ」
「そういうことなんだってさ」
「だから、君は君の思いでその聖剣を振るってほしい。それが息子のための怒りであることが、私には誇らしくてならない」
「さぁ、ラズワルド=S=エコーリア。最後の舞台だ!
そうして現れたのは、アルフォンスに似た鎧の剣士。
彼は、結晶から溢れ出た数多の魔物を火かき棒で切り裂き殺し続ける剣の鬼。剣王という異名がするりと頭に入ってきた。
そして、5分間の聖戦が終わり、ラズワルド王は殺された。
俺の目に、しっかりと
その背中を見ていたから、俺は剣を投げ渡す事も、隣に飛び出す事も出来なかった。
それが、命を燃やしている王への礼儀だからだ。
だが、もう王は死んでしまった。
なら後は、回復に努めていた俺が立つ時だ。
『準備はよろしいですか?』
ああ。最後のピースは王様が埋めてくれた。抜くぞ、俺の聖剣を!
「
そうして、俺は初めて俺の聖剣を抜いた。
俺の姿を後で確認した所によると、それは緑のマフラーが追加されただけのチンケな変身だったらしいが。
時間切れ以外で負ける気は、しなかった。
「風よ、荒れ狂え!」
ラズワルド王の刈り残した雑魚を、纏めて風の刃で斬り殺す。
俺のゲートは短期戦型には長い。中期戦タイプのゲートだろう。能力は、風の操作。とりわけ風で作られた刃の操作が能力だ。
そうして出てくる次の魔物ども。まだまだ奴とやらには遠いようだ。大蛇やら大鬼やらワイバーンやら、雑魚がまだ多い。
『推定カウントは、20分です。大技は抜いての力の消費の最小化を続けて下さい。……この戦いに限ってはマスターに正義の理由があると信じられます。私の作られた心でも。ですから、勝ってそれを証明しましょう』
一切承知!
まず、自分への追い風によって加速して大蛇に近付き、風の刃を口の中に入れて爆発させる。そして俺の背中を襲おうとしている大鬼を局地的向かい風で崩し、返す刀で首を跳ねる。そしてワイバーンは火を吹いてくるが、それは俺へは意味がない。風で逸らして、1匹ずつ身体能力を生かした斬撃で斬り殺していく。
そうして現れるのは、次の陣の敵。そこにはこの地下の半分を統べるような巨竜が現れた。なので、その口の中に侵入して内部から体をズタズタにして殺す。そして腹を破って次を見る。
そこには、金属でできた体のゴーレムが数十体。近づいて関節部を風を纏わせた刃で斬って分解する。それを数十回。次
現れたのは背中に翼を持つ剣士達。加速した意識の中で聞く限りではゲートを使えるようだ。なので開く前に風を使って崩してまとめて風で削り殺す。次
現れたのはよくわからない光の生き物達。炎や風などさまざまな属性の
すると、炎が俺の腕を焼いてみせた。反射的に力を込めて払えたものの、ダメージは大きい。初見殺しが混ざってるのかよモンスターども!
距離をとって風の刃でコアを狙い斬り殺す。今ので腕の大事なところが壊れた感触がある。もう細やかな技は使えないだろう。だが、次
現れたのは、闇に纏われた鎧の騎士達。
アレが生命の
そう悩んでいた所で、足音が聞こえてきた。おそらく騎士達がやってきたのだろう。ならば思い残す事は何もない。
「残り火、全部使い切る!」
『マスター、出力を全て推進力と切れ味に! 剣を振るう技がないのなら!』
「『ただのスピードだけで切り裂き続ける!』」
そうして風に乗った俺は固めた腕の剣の風によって騎士達を斬り殺した。だが、最後の一人にゲートを使われた。能力は恐らく重力系。
おれの足は自重を支えきれずに折れ曲がった。
だが、まだだ。剣を奴に向けて最後の技を放つ。圧縮した斬撃の風を爆発させる、必殺の自爆技。
「後は、任せた!」
そう言い残して騎士を道連れに俺は死んだ。
それが、《Echo World》における、俺の二度目の死であった。
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