13 王城奇襲作戦 天狼シリウス
「敵の能力にアテは?」
「彼のゲートは長期戦型、雷属性、神経の反応を操る力と聞いている。使えないとは思わない方が良いだろう」
「あのコアで能力を拡張してうんぬんかね? って事は、傷の治療はそのついでか」
「いや、違う。アレは生命の属性の力だ。心を闇に染めているとああなる」
「へぇ、二重属性ってのか?」
「生命の属性は本来皆が使えるのだ。それが強い者が居ないだけでな」
「今度教えてくれよ、便利そうだ」
「わかったが、そう期待するなよ?」
「随分と余裕だな、貴様ら」
「「お前の強さは理解した」」
「未知がないのなら」
「だいたい
「ほざくな、小僧共!」
そうして、シリウスは駆けてくる。だが、やはり自由さがない。
アレほどの身体能力を持っているのに、それに見合った力技が磨かれていない。当然だろう。彼は長期戦型の使い手、今のような適当な一撃が必殺の状態などそうそう出会えないのだから。
突くなら、そこだ。
トップスピードに乗るその直前に、踏み込んだアルフォンスが光を纏った剣により衝撃を叩きつけ、そこにすかさず俺が踏み込む。
コイツの総合スペックは俺よりも強いアルフォンスもゲートを使わなければまず負けるだろう。
だが、そんなのは向こうが全力を出せた場合だ。
単純に、1vs2であることによる手数、光と風による攻撃力。そして、必然の連携。
それが、
シリウスは、生命の
まぁ、そんな楽には行かないのだとは理解しているが。
瞬間、シリウスの
切って少しは衝撃を和らげたが、その一手が奴に最悪の手を打たせた。
「
「決死の覚悟か!」
そのゲートはアルフォンスとの直線上にあり、その足を止めている。今なら首を跳ねることが出来るかもしれないが、あからさまに罠だ。
なので、ちょっと緩く前に出る。そして殺気だけ飛ばして攻撃を匂わすと、そこでは狼の爪が空間を削っていた。やっぱ罠かー。
削られた空気に乗って距離を詰めるが、向こうはゲートを潜り終えている。
見た目の変化は、頭部が兜に覆われたくらい。狼型の兜とかオーダーメイド?
『魂でのオーダーメイドかと』
たしかにそうな!
そして、反射的に背後に剣を振ってしまった。聞いてはいたが厄介な力だ。
先程の一瞬、背後からの奇襲を体が察知したからだ。
アルフォンスはギリギリ堪えてくれたようだ。ありがたい。
だから当然シリウスの狙いは俺であり、そこに振った剣の勢いを殺さないで放つ回転切りを叩きつける。あいにくと爪に防がれたが、それで良い。そのまま押し込もうとして
しかし、何かの鬼みたいなゲート。出来る事はそう多くないとは聞いているけど、多くないからこそ厄介だ。一度でも傷を負えば終わりだとひしひしと伝わってくるのだから。
アレは間違いなく
本当に本当に剣を持たれなくて良かったッ! ありがとう両手の爪さん!
というわけで死ね。
合わせた剣だが、当然そのままでは力が足りない。だから操るのは風の力。剣が風を纏っているのならそれをある程度操る事もできるはずだ。
直感に任せて、剣の風をより鋭くする。そしてその刃はするりとシリウスの片腕を切り落とした
切れ味を伸ばす風。恐ろしい使い勝手だ。
そして、こんなチャンスは次には来ない。
「アルフォンス!」
「
そうしてシリウスの背後に出されたゲートは彼の逃走を封じ、そのままアルフォンスの光の剣が胸にあるコアを貫いた。
……貫いてしまった。
瞬間爆発するモヤ。その中の怨念と意志がシリウスへと纏わりついて3メートルほどの巨大な狼へと化身した。
そしてそれがさらに蠢き、2メートルほどの高さを持つ
ヤバい、これはヤバい。
「なぁアルフォンス。一旦逃げね?」
「タクマ、背中を奴に向けられるか?」
「死ぬわな、普通に」
「あら、勝機は見えたわよ」
「ダイハード!」
「今のを第0でよく見ていたの。体の色の変色や動きの変化をね。あのシリウスの中の男は死んだわ」
「クッ護衛長殿!」
「だから、生き返らせればあの黒いのは離れる。そうなったらボコれば終わりよ」
「「は?」」
「王子サマは知らないでしょうけど、私は死にかけのプロなの。蘇生可能かどうかは見ればわかるし、
「……とんでもないな、君の奥方は」
「その辺の事は微妙な間柄なので追及はやめて欲しかったり」
「決まりね。どうにかしてシリウスを止めなさい。あとは私がなんとかするわ」
スッと闇の剣を構えるシリウス。
それに対しての構えは、俺もアルフォンスも正眼の構えみたいなの。名称? ロングソードの流派とか我流だからわかんねぇよ!
『プフルークという構えが近いですが、細かく違っていますしね』
だよなー。動画見たけど殺意が足りなくて参考にならんのよ。
そんな自然体でゆっくりと近づいていく3人。摺り足の文化はあるのな。不思議。
と、そんなのはファンタジーだからで済ませてしまえばいいのだ。目の前の奴を殺すことに集中集中。
……しっかし見れば見るほど勝てる気がしないんだが
『技量で負けている上にゲートも使えませんものね』
もうだいぶ見たからあとなんかのきっかけがあれば使えそうなもんなんだけどなぁ……
そうして、誰も仕掛けることなくあと一歩の間合いまで入った。
「一つ聞く」
「なんだ? 狼男さん」
「貴様の、名前は?」
「タクマ。明太子タクマだ」
「……メンタイコ?」
今だ! とは言わない。どう見ても誘いの隙だし。
そしてなにより“行ける! ”という錯覚が自分の中にある。これが彼の本来のスタイルなのだろう。エグいことこの上ない。
「アルフォンス」
「ああ!」
そうして、俺とアルフォンスは小細工のない全力の一閃を最高の踏み込みと共に放つ。俺は切り上げ、アルフォンスは上段切りだ。
どうせ小細工や策など大した意味をなさない。一流とは往々にしてそういうものだ。
そうしてその二つの剣は、ゆっくり速いという意味のわからない綺麗さの剣術によって振り払われた。手への反射的な痛みとともに。相変わらずやってくれるが、まだ想定内だ。
俺とアルフォンスはそのまま剣を捨て格闘戦へと移行する。
だが、そんなものは見られている。だから今まで向けていなかった方向に殺気を向けた。
それは地面。砕ける自信などはない。しかし、無駄に鋭いともっぱらの噂である俺の殺気を地面に向けられたのなら奴は反応してしまう。
彼の殺すべき、巫女達の存在があるために。
貴様! と叫ぶ声の出る前に、アルフォンスの拳が届く。その拳は顔面にある兜を吹き飛ばし、俺にトドメを任せてくれた。
単に俺が半手遅れたというだけなのだけれども。それは任せてくれたと思うべきだ。
「
竜巻を、右腕の籠手の上に作り出す。それは自分のいま唯一作れる風である“切り裂く風”をひたすらに回転させたもの。
その拳はアルフォンスのダメージを負ったシリウスの、顔面へと闇を切り裂き突き刺さった。
「「今だ!」」
「わかっている、わ!」
そうして突っ込んでくる光り輝くダイハード。そして、闇の吹き飛んだ顔面を両手で掴み、その命の光をたたき込んだ。
「
その、生きるという意志そのものの輝きはシリウスの、いや護衛長の体の中から闇をはじき飛ばし、護衛長さんの命に再び火を灯した。
「あなた、根本的には死人にしか取り付けないのでしょう? だから今回は便利な力を持っただけの護衛長さんを最後まで利用した。本来は途中でアルフォンスへと乗り換えるつもりだったのでしょうけど、ご愁傷様ね。私のタクマくんに会ったのが運の尽きだわ」
「キ、サ、マァ!」
そうして自信満々に彼女が天狼シリウスに放った攻撃。
そこには、今まで感じていたどんな命よりも凄まじい存在感を感じさせる、当たればどんな化け物だろうと一撃で倒せるだろう命の輝きがあった。
そしてそれは。
あっさりと躱されて、致命傷を負わされた。
「……流石ボスキャラね。私の攻撃を簡単に防ぐだなんて」
「あのテレフォンを防げない奴はこのにはいねぇと思うぞ」
「まぁ、いいわ。タクマくん、私がデスペナる前に伝えたい事があるの。顔をこっちに」
「……なんだ?」
そうして氷華は、俺の頬にキスをした。
残り全ての、生命の力と共に。
「じゃあ、任せたわ。派手にぶっ飛ばしてやりなさい」
「キスである意味はあったか?」
「その方が、気合が出ない? 男の子」
「ノーコメント、だ!」
そうして死を迎える彼女、その身体はログアウトのエフェクトと共に宙に消えた。
そして、アルフォンスから
「行くぞ、タクマ! これで終わらせる!」
「ああ!」
「
「
「「ぁあああああああああ!!!」」
そうして、後先を考えることをやめた俺とアルフォンスの剣が、再び狼の形を取った天狼シリウスへと襲いかかる。
シリウスは自前の高速移動で退避しようとしているが。いまなら俺もアルフォンスもそのスピードに追いつける。
大広間全てを使った超高速戦闘が、今始まった。
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