12 王城奇襲作戦 プランB開幕

 第0アバターで西風亭へと赴き、路地の横から侵入する。便利だなーコレ本当。


「ちわーす」

「ああ、タクマ達か。よく来てくれたね」

「あれからどうだ?」

「……それは、少し妙なんだ。今までは僕がここに残ってイービーが変装してる騎士を護衛する形で敵をあしらっていた」

「だが、2時間ほど前から連中の動きが鈍くなり、城から遠い連中は意識を取り戻すこともできている。なんだか分からんが、弱くなっているぞ」

「つまり、反撃開始?」

「そのつもりで、私のゲートを使った。私のゲートは遠くに声を繋げることができる長期戦型だ。あいにくとこの連絡が終わってからは寝るしかできんが、どんなのが来ようと王子が正面で戦えるなら余裕だし、そうでなくても王がいる」

「……病床に伏せってるという話ではありませんの?」

「ああ、そうだ。だが、どうせ治らず助からぬ命ならと平然と燃やすお方だ。いざとなれば王は動ける」

「……そもそも、何故王が動からことが大事なのだ?」

「このソルディアル王国の最強は王だからだ」


 何その冗談。


「生命の属性はそれほどの力を持つのだ、と認識しておけばいい。稀人達の文化は分からぬが、我が国が少しおかしいとは理解しているからな」

「そうなの。生命の属性ね……」

「そんなんなくても強化版アルフォンスだろ? そりゃ強いと思うの俺だけか?」

「……その答えは、王国が出来てからずっと多くの学者が議論しているが! 分からぬのだ! 何故王族があれほどの剣才を持つのかなどということは!」


 そう叫ぶ副長さん。そりゃ守るべき人が自分より強いってもにょるよなぁ……


「……父上のことは置いておこう。城に行くぞ、皆!」


 ものすごく慣れない感じに誤魔化すアルフォンスの鶴の一声で、俺たちは城へと進軍を開始した。


 当然ながら、正面衝突である。城に侵入しようとていた皆には最終作戦コードを伝えてある。それぞれがチーム、あるいは個人で動いているだろうけれど、最終的にどういう作戦にするかだけは決めていたのだ。


 そうして噴水前にて生命転換ライフフォースの練習をしている皆について来い! と言う。大体が俺かドリルさんを見て察して動き始めた。


 そうして、数を集めて城の警備の類にぶつかろうと言う時に、イービーさんと一人のプレイヤーがやってきたのを見つける。


「監視要員の無力化は完了した。プレイヤー側の指揮官は誰だ?」


 “何このできるメガネ? ”とイービーさんに目を向けると、“お前達の仲間だろ? ”と返された。マジか。プレイヤーなのかこの人。


 スパイ映画とかに出てきそうなタイプのイケメンだった。滅べばいいのに。


「んで、俺たちの指揮官って誰なの?」

「ドリルで良いんじゃないかしら。人の上に立つのは得意でしょう?」

「ならば、私が。これよりプランBを開始致します。皆さま、存分に」


 そうして湧き上がる「ヒャッハァ!」という声。メガネさん⁉︎


「良い事言うじゃねぇかお嬢! なら、俺は行くぜ! 上からな!」

「なら騎士団は王にこのことを伝えよう。念のため護衛は必要だからな」

「イービー先輩、地面に転がりながら言っても威厳とかないですよ」

「……辛辣だなビーツ」

「なら僕……私たちは巫女達を護りに行こう。万が一があっては事だ」


 そうして始まる城攻め。


「所でプランBとはなんなんだ?」

「犯人を見つけ出す作戦です」

「それは頼もしいな」

「ええ、誉めてもらっても構わないわ」


 プランBとは、「第0を見れる怪しいやつ全員ぶん殴っておかしな反撃をしてきた奴が犯人よ」というどこぞのバイオレンスダイハードが二日目に“これまともに推理するより暴れ回った方が効率いいのではないか? ”という暴論をそれっぽく飾り立てて打ち出した方針である。この作戦を知った時、顔に傷のあるだけでめちゃ常識的な長親さんは「人は、ここまで邪悪になれるのか……」と項垂れていた。なんでこの人こんなゲームやってんだろ? 


「では、行こうか!」


 そうして号令をかける王子。しかしその頃にはもう敵方の騎士達はやってきていた。


 こちらの想定通りに。


「ナイスですね、メガネさん」

「ハハッ! 俺は適当にやっただけださ! あと俺は一応メガ・ネビュラな」

「明太子タクマです。てか絶対メガネに繋がるように付けたなそのHN」

「そりゃそうさ」


 そう言って笑う俺たち。


 眼前では、集まった騎士達の事を、騎士のビーツさんが押さえ込む。


■■■■ゲートオープン! 痺れて止まれ!」


 彼のゲートは、無差別放電の能力。本人は色々頑張っているらしいのだが未だにコントロールはできていないのだとか。というわけでの爆弾じみた特攻である。


 そうして騎士達が痺れて動かなくなった所で号令もなく皆が攻め込む。


 技が拙い者、巧い者、様々がいたが皆が一手で剣を弾き落として味方を増やしていった。






 そうして勝てるぞ! と誰かが言った時、アルフォンスが震えた声でこう言った。


「どうして……


 そう、それは前提の崩壊。ここは巫女の結界があるから騎士を操れない。そのはずなのに


 それはつまり、結界がなくなったということ。


「作戦変更! タクマ! アルフォンスくん! 巫女さんのところに最速で! メガネさんは騎士達と王様の安否確認に! 残りは第0でタクマを追いかける! 駆け足!」


 そう叫ぶダイハさんの声に、俺とアルフォンスは心で反応していた。


「最短経路は⁉︎」

「床を抜く! 大広間へ!」


 そうして大広間までの道を走り、扉を蹴破った先には。


 一人の、闇を纏う騎士がいた。


 そうして、その男から。正確にはその男の胸にある金色の球体からは


《天狼シリウス》と。


 目を合わせる事もなく、言葉を交わす事もなく、全開の生命転換ライフフォースでシリウスに斬りかかる。そして俺にさきんじてアルフォンスの光の剣による突きが着弾するが。


 闇を纏ったその爪にて、その剣はかき消された。


 そしてそのままの回し蹴りにて俺の首を跳ねに来たのを殺気のフェイントで半歩ずらして潜ろうとしたが、完全に読み切られて致命のはずの一太刀を斬撃による防御に使わされた。


 そして、俺の剣は奴の足を切り裂けなかった。単純な硬さ故に。


「何故ですか? 何故あなたが大魔の下僕になっているのですか!」


「護衛長殿!」


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 その男は、アルフォンス達との作戦会議にて真っ先に容疑から外された者であった。


 品行方正、というのを最も体現しているその生き方がその理由だ。


 彼は、純潔である(とされているだけでかなりの肉食の)巫女達に幾度と無く真摯に言い寄られていた。しかし、彼は一度たりともその想いに応える事をしなかった。


 “愛した者が居るからだ”、と。


 もう亡くした方に操を立ててどうするのですか! と叫んだ巫女もいた。しかし、彼は決して頷かなかった。


 そういう、クソ真面目で堅物で、しかし巫女の皆を深く思いやっている男だ。故に彼には数多の巫女の分けた命による護りにがあり、巫女の結界の最も近くに存在して、そして彼自身王に次ぐほどの剣の腕を持っていた。


 それが彼、護衛長エディという男だった。



 ⬛︎⬜︎⬛︎


「私の目的はただ一つ。彼女達を安らかに眠らせる事だ」

「それはどういう⁉︎」

「巫女達は、半年前の戦線崩壊からずっと死に続けている。内と外に結界を張り続けているからだ。しかし、我らにはもう力はない。そうなれば訪れるのは終わりだけだ。ならせめて、その終わりを安らかなものにしたいというのは間違いか?」

「間違いだ! 彼女達の献身は必ず身を結ぶ! そうさせる! 私が必ず、その術を見つけ出す!」

「できるものか!」


「己が母の死すら知らぬ、若輩が!」


 そうしてアルフォンスが惚けた一瞬で、シリウスになった彼は襲ってくる。狙いは当然アルフォンスだ。


 どうにかカバーに入る事ができた俺は内心冷や汗を掻く。狼としての身体の変化が理由で剣を持てない手になった事は救いだろう。こんな化け物じみた身体能力で振るわれる剣など面倒な事この上ないのだから! 


「何故邪魔をする! 小僧! 貴様には関係ないというのに!」

「いや、事情がわかんないんだから友達の味方するだろ普通」

「タクマ?」

「異邦人風情が……」

「ああ、俺は異邦人だ、稀人だ。この世界が滅ぼうが関係なんてないよ。けどさ」


「だからってムカつく奴を切らない理由にはならないだろ」


 その言葉に唖然とするシリウスを見据えながら、小声でアルフォンスに声をかける。


「それくらいシンプルで良いんだよ、アルフォンス。幸いあいつは硬いから、殺す気でいってもそう死なないだろうさ。だから、奴を倒すぞ」

「……全く、年下の君には救われてばかりだ!」


 さて、それじゃあコイツをボコボコにするとしますか。


『切るのではないのですか?』


 だってあいつ硬いんだもん。切れないんだよ。ストレスだよ。


『面倒な手合いですね。それではあのあからさまなコアを狙いますか?』


 とりあえず身体的か精神的にダメージを与えたいな。そこからのあのコアの動きを知りたい。治すのか、犯すのか。身体を犯してくれるってんなら、技がなくなってりやすくなる。治すってんなら俺が体張ってアルフォンスがトドメだな。


『ですが、良いのでしょうか? 何やらこの戦いは突飛に思えます。巫女を殺すのが目的なら、一人でやれば良かったではありませんか? というか、犯人発覚がどうにも唐突ではありませんか? これは推理ゲームだというのに』


 さぁ、その辺のことは氷華が推理してくれるさ。だから、今は。


『ええ、戦いに集中しましょうか』



 爪による斬撃により空気が削られる。それにより引っ張られる俺とアルフォンス。しかしアルフォンスは光の剣で、俺は風の剣でその勢いに乗って殺しにかかる。


 跳躍しての大上段を放つアルフォンスの足元を潜って関節部を狙う俺。だがシリウスはそれを受け切れないと見るやすぐに引き、


 それに対して再び振るわれる剣。アルフォンスが光の剣をその脳天に叩きつける。しかし闇で受け切られる。とはいえ速度は落ち、シリウスは地面に落ちたのでそのまま俺の剣を膝に向けて振り抜く。


 その剣に乗る風の刃は、闇を切り裂き狼の膝に深手を与えるに至った。

 そして、それによる威力で狼の弾道は変化したことでアルフォンスはシリウスの攻撃から逃げ延びた。


「まずは」

「足一つ!」


 戦いは、まだまだこれからだ。しかし、どうしてか負ける気はしなかった。

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