11 台無し師匠と拾い物の籠手

「お前さん、もうあの剣に嫌気が差したんか?」

「いやいや、あんな名剣そうそうないでしょうに。石をバターのように切り裂くってどんな魔剣ですか」

「ん? アレ切れ味クソなんだがな」

「ん?」


 なんだか話が食い違う。どういう事だろうか。


「よし、ちょっと抜いてみろ」

「店内でです?」

「大丈夫だっての。ここは実戦用の獲物を買う店だからな。力を流さないで獲物の具合が分かるかよ」

「へぇ、やっていいんですかそういうの」

「ああ、便利だろ?」

「はい。便利ですね」


 というわけで臆病者の剣チキンソードを抜く。そして力を込めてみると「うわ、引くわ」とか言われた。ふざけんなオッサン。


「どういう話だコラ。叩っ斬るぞ。多分殺し返されるけど」

「いや、盛大に我流を突っ走ってるなって思ってな」

「へぇ?」

「それ、風属性付与エンチャントウインドが恐ろしく鋭くかかってるぞ」

「マジです?」

「ああ。普通の付与できないのによくもまぁそんな殺す気満々な力の出し方覚えたもんだな。何か? 殺し屋なのかお前さん?」

「学生兼VR剣道家だよ。あいにくとまだリアルで人殺しはしたことはない」

「まだってあたりがおっちゃん不安なんだけど」


 あ、しまった。……まぁ厨二病と受け取ってくれるだろう。多分。


「それで、なんか問題あるのか?」

「まぁ、特にないな。お前が生命の属性なら大問題だったが、風って基本戦闘にしか使われないからな」

「生命?」

生命転換ライフフォースの属性だよ。まぁ、めっちゃ珍しい奴だ」

「適当なのな、そこ」

「まぁな。お前には関係ない話だし」


 というわけでち力を抜いて鞘に戻す。もしかして力を抜かないで鞘に入れたら鞘ごとぶった斬れていたのか? 

 何気に危なかったなー。


「それで、なんでオッサンはこんな所に?」

「癖だよ。戦いがあったあとには、ここに剣が売られるんだよ。お前の臆病者の剣チキンソードがな」

「んで、それを見て売ったやつは馬鹿だなぁと笑い話にすんのか」

「そ。あとはまぁ、実力が伴ってなかったら借金こさえさせても買い戻させたりな」

「大変だなそれ。売値と買値に相当差がでるんだろ? 知ってる」


 ゲームのテンプレやしね


『同意です。けれどたまに同じ価格のゲームもあるので忘れないように』


 そこそこ普通に楽しかったロボゲーなー。


『あれは素晴らしいものでした。私のAIとしての自覚の始まりでしたしね』


 それに影響されてたまに“疑問”とか言ってるのよなー


『はい。憧れとはそういうものだとマスターから学んでいるので』


 厨二病ってか? 言い返せねぇわ真面目に。


「それじゃあついでに聞きたいんだけどさ。捨て値で売られてる中古の籠手とかここにあったりする?」

「お前、防具はちゃんとしたの買えや。死ぬぞ」

「金がないのにデカイ戦いが近いんだよ」

「なら、あの棚だな。前の持ち主の“生命の残り火”が強すぎて扱えない類の武具だ。ちょうど籠手があるし、サイズ試してみたらどうだ?」

「あ、良さそう。サイズいいかん……ジ⁉︎」


 ヤバい、これは重いぞ。


『ですが、乗りこなせれば良い武器になりそうです』


 だな! 残り火ってんなら! 


生命転換ライフフォース!」


 自分の色で、塗り潰せ! 


「……っらぁ!」

「あ、やりやがった」

「失敗望んでたんか? アンタは」

「借金で首が回らなくなる奴とか楽しそうだなってな」

「やっぱ最悪だわこの人」

「そう褒めるな」


 そうして、籠手をしっかりと装着する。手に馴染む、良い籠手だ。


 前に使っていた者か、手入れをしたものが良かったのか、状態は良好。細かいメンテナンスなどは必要だろうが、時間的にそろそろ合流なのでそれは無理だろう。


 けれど、やはり籠手があれば今までよりかなり無茶な動きができる。いざという時に腕を剣を持つ手を(ちょっとは)守れるというのは結構違ったりするのだ。


「店主さん、これ幾らです?」

「……お前さんみたいなのに惜しむ金はねぇよ。どっちにしろ棚を占拠しててうざったいと思ってた所だ。調整込みで2000……いや、1980で良いさ」

「あざーっす」


 そうして細かなサイズの調整や可動域の確認などでちょっと時間をかけた結果、そこそこ良い籠手を買うことができた訳である。やったぜ。ありがとう人狼さん。次のまでその命は忘れないよ。


「しっかしあり金全部籠手に使うとか、お前割と大雑把な奴なのな」

「そりゃ泡銭ですし」

「……何やったんだよお前」

「出会い頭にちょっとあって、つい」

「本当に何やったよ馬鹿弟子」

「弟子ってほどなんか教えられてねぇよ台無し師匠」

「なんじゃそりゃ」

「強さとか格好よさとかをなんか色々台無しにしてるから台無し師匠。どーよ?」

「……なんか偽名作らなきゃなーと思ってた所だ。ちょうど良いしダイナにするわ。今から俺はダイナ師匠な」

「“し”が一個消えてんじゃねぇか」

「“死”は離れた方がいいだろ?」

「それはちょっと思うわな」


 そうしていると、店員さんが籠手の調整を終わらせてくれた。


「お、いい感じ。良い仕事ありがとうございました」

「ただ対人やるらな気を付けろよ? ミスリル純度がそこそこ高い分生命転換ライフフォースの通りが高いからな。雷や炎はめっちゃ通るから」

「そもそも籠手でんなもん防ぐかよ。避けるか死ぬかだよ普通」

「ま、わかってるから良いさ」


「じゃ、頑張れよ馬鹿弟子」

「そのうちシアイでも頼みますよ、ダイナ師匠」

「シアイね。おっかねぇことで」


 そんな言葉を最後にオッサンは店を去って行った。なんでサマになってんだろなぁ、あの落ち武者のフリ。

 あの人、普通に副長さんより強いと思うんだけど。


 ていうか、正直、シアイってだけで死合いだと判別するあのオッサンも相当だと思うの俺だけかね? 性格の不一致で騎士団を追い出されたのかな? 


『マスターと同じレベルの破綻者ですし、あり得ないことではないかと。というかもしかして、あの方が事件の黒幕なのでは?』


 それはそれで楽しみだな。気圧されただけで死ぬかと思ったのは久しぶりだし。梅干先生の殺気には慣れちまったからな。


『慣れたというか、絆されたのではありませんか? お互いに。私にはマスター達は孫と祖父という関係に思えるのですけれど』


 先生が爺ちゃんとか最高じゃねぇか。


 という話をメディとしながら店の裏で剣を振る。


 籠手による動きの阻害は特になし。滑り止めにより握りも安定した。そして何より、軽い。


 良い拾い物をしたものだ。今度から金を手に入れたらこの店で荒らししよ。


 そうして動きの確認をした所で良い時間になった。店員さんに挨拶して転移する事にした。


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 デブリーフィングルームに来た所で、ちょっと早くに来ていた長親さんとドリルさんがいた。


「こんにちはトリルさん。お金ください」

「藪から棒になんですの⁉︎」

「人の顔を晒して稼いだ再生数は美味しかったですか⁉︎どうせ撮るならもっとカッコよくして下さいよ!」

「あ、動画を見ましたの? それはどうもご贔屓に」

「……動画?」

「この人昨日の件動画にしてやがったんですよ。しかもなかなかの再生数」

「ええ、中学生カップルというのは絵になりますからね。あなたは妬まれてばかりでしたけども」

「それは嬉しいな。ダイハさんのことを良く思ってくれてるって事だし」

「へぇ、では視聴者の方々の中にミセスに声をかける人が出てきたらどうするので?」

「特に何もしないって。まぁ軽い気持ちで“付き合おうぜ! ”とか言う奴がいるなら何度か剣道するつもりだけど」

「おっかない話ですわね」

「だが、それだけ彼女を大事に思っているという事だ。良い男だな、君は」

「ありがとうございます」


「「それで、どこまで行ってんの?」です?」

「残念だけどAまでよ」

「唐突にやってきて何を言うだ貴様は⁉︎やった覚えとかないんですけど⁉︎」


 ふらっと現れてとんでもないことを曰うダイハさん。え、俺のファーストキス大丈夫だよね⁉︎


『推測、意識がないときに奪われてしまったのでは?」


 怖い事言わないでメディさん! 


「で、本当の所どこまでなのです?」

「ええ、呑気に寝ている顔を見ていると我慢ができなくなってしまってね、つい」

「ねぇいつの話? ねぇそれいつの話⁉︎」

「8年前ね。それを見た義父様に、我慢することの大切さを教わったわ」

「ありがとう親父! 信じてたぞ親父!」


「そういうのは、大切な時にやるから心に残るんだと。慣れさせてはいけないのですって」

「ブレーキじゃなくてジェットエンジンへの換装だったのか……」

「愉快な仲ですのね。素敵ですわ」

「.年相応に甘酸っぱくはないがな」


「ああ、それとドリルさん、動画を見たわ」

「お二人とも、無断での投稿申し訳ありませんでした。慰謝料ならきちんと払いますわ」

「そんなことはどうでも良いの」


「私とタクマの仲を広く周知させてくれるのなら、願ったりだわ」

「外堀をさらに埋めにくるかこの女」

「ただで転んでたまるものですか。私はそれなりに強いのよ」


「では、そのように」


 あれ? 俺の意志は? 


『古今東西、こういった場に置いてそんなものはないかと』


 男女平等主義はどこに行ったよこの野郎。


『AIに性別はありません』


 ですよねー。


 ⬛︎⬜︎⬛︎


「んで、どうして無断で投稿なんてしたんだ? そういう不義理な事する人じゃないでしょドリルさんって」

「……動画の編集や投稿は妹がやっているのですわ。昨日は個人用の録画を投稿用の録画と間違えてしまったようで……」

「なんだ事故か。面白くない」

「そうね。もっと邪悪な理由ならこっちも邪悪に振る舞えるのに」

「ですわね。私も少し大人しすぎましたもの」


「……お前らは、自分達が善良だとおもっているのか?」


「「「当然」」」


「……真の邪悪か!」


 そんな感じに長親さんが覚悟を決めた顔をしたが、気にせずに噴水前に転移する。


 監視の目はない。リスキルはまだないようだ。ありがたい事である。

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