10 進撃!ハラスメント9!(のうち5人+1)
黒い部屋にログインして掲示板を確認しつつちょっと散策する。が、一人ではこれといって面白そうな機能は発見できなかった。うーん、なんだろなー?
「……それにしても早く来過ぎたな」
集合時刻は午後20時。現在時刻は16時。なんと4時間もフリータイムである。
氷華は検査でちょっと遅くなり、ドリルさんはまだ学校で、長親さんはまだ会社とのこと。とすると、皆が集合するときにこっちに転移しておけばいいか。メディさん、アラームお願いね。
『はい、お任せ下さい』
ちなみに、掲示板にはあの砦クソゲー! という愚痴の数々が流れていた。とてもよくわかる。そしてニートと思わしきマスタードマスターさんは今でもアタックし続けているとのこと。やべぇよガチだ。
「む、君は!」
「噂をすればなんとやら。マスタードマスターさん。お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様。僕ら休日組は交代交代で敵を寝かせなかったけど、君らは?」
「地獄の連戦の結果、5人の騎士が仲間になりました。やったぜ」
「あー、NPC動かす系かー。今からそこに?」
「いや、俺はちょっと砦覗こうかと。今なら明るいですし」
「なら一緒に行こうか。中を少しは案内できるよ」
「あざーっす」
「軽いなー」
そんなわけでマスタードさんの共に行く事になった。ちなみに当然走り。だが、やはりフォームやらの関係で俺の方が良いスピードを出せるようだった。
「ちなみに何人体勢です? 今」
「9人だね。何人か計画寝落ちしてるから今現場は2組。2人1組が二つと余り一人で動いてるのさ」
「へー」
「ちなみに結構狼の動き荒くなってるよ」
「楽しそうな事やってんなーこの人ら」
そうして、おそらく真っ当なMMOなら速攻でBANされているだろう精神的邪悪の数々の一端を聞きながら走る。そうしていると、山砦までのところに
「ヤベェぞこの人ら」
「
「マジで尊敬します。今度明太子に辛子かけてみますよ」
「限界突破チャレンジャーかい? 君は」
「Yes I am!」
「古いネタにさらに古いので返してきたねー」
そうしていると、何故か転がっている武具のうち棍棒を手に取ってマスタードさんは砦を指差した。
「あの中からパクったのや、その辺のを加工したのとかだよ。この辺にあるのは、砦から投げて返却するからだね」
「すげぇ攻略スタイルだ」
「
「ええ、大変好みです」
『魂の故郷ですものね』
「だなー」
「? ……誰かいるのかい?」
「あ、すいません。健康管理AIと話してました」
「嘘、このゲームAIサポート入れられんの⁉︎」
「ああ、メディの場合は入れ方が特殊ですから。本体は脳にインプラントされてて、それをSoul Linkerとリンクさせてるって感じなんですよ」
「かなり便利そうだね」
「いやいや、なかなか愉快な相棒で難儀してますよ」
『心外です。私ほど完璧にマスターの相棒をできるAIなど存在しないと言うのに』
さて、無駄話はこれくらいにして砦へと攻め込む。
とりあえず、入り口を増やすところから始めよう。
「2階のあの辺って安全圏でしたよね?」
「まぁ、徘徊連中がいるから完全にじゃないけどね」
「じゃあ、入り口開けてきます」
そう言って砦のレンガの出っ張りに足を引っ掛けてそのまま登る。そして高さを稼いだらそのまま
実に見事な曲芸だった。我ながら惚れ惚れするネ。
「うわぁ、このアバター性能でアクション映画やってるよ……」
「これくらいできなきゃ動物園は走り抜けられませんて」
「……所で君、ガソリンはあるかい?」
「探してるんですよ。最悪掘ろうかと考えます」
そうして無言の握手。やはり同士とは巡り合えるものなのだ!
『テロリズムが助長されなければ良いのですが』
流石にポリスロボからは逃げられねぇよ。人間スペックじゃ。
『逆説的に、人間スペックじゃなければやりかねないと言う事ですね』
だって爆発は浪漫的解決方法なんだもの。
『そう言ったことは遠隔発火式などの安全性を保持してからやってくださいね。まぁ私は準備の時点で通報をする気ですけれど』
メディさんの監視を掻い潜らなくては!
「じゃあ、どっちから行きます? 俺上から行きたいです」
「あーじゃあ僕は下からかな? ちょっと煩くするから気をつけてね!」
そういえば、ハラスメント9人集の中でマスタードさんだけは手口を聞いていなかった。どうやって狼使い(又は人語を理解する狼)を挑発するのだろうか?
なんて考えていると、正面入り口から巨大な歌らしきものが聞こえてきた。それも、絶望的に下手くそであり、なんだかナメクジが耳の中に入ってくるような不快感を伴うものだった。やべぇ。これが9人の戦い方!
兎にも角にも精神的消耗戦を仕掛けて大元を動かさないという覚悟の現れ! 流石に即興で官能小説を語る人が最強だと思うが、他の連中も負けていない。恐るべし。
そして、もう隠す気すらないのか狼がどこか疲れた表情で音源に向かって走り出している。
ならば、戦闘役としての仕事をしよう。
走ってくる狼に対して角で待ち、最小限の力で一閃。ついで後ろのもう一体に対しての切り返しでもう一閃。梅干先生の逆風の太刀(命名者不明)には及ばないが、やはりそれなりにやれるようになっているみたいだった。
ちなみに、本人にその技名を言うと怒られる。普通に流派の技として別の逆風の太刀があるそうなのだ。鎧を抜いて傷をつける類の剣技らしい。
「さて、BGMが消えないうちにステルスゲームと行きますか」
『こういった状態でのマスターのステルスゲームでの傾向的に、やることが分かりきっているのですが、どうするので?』
「当然、目撃者をゼロにすれば良い。サイレントキリングだよ」
『走った後が
「つまりミッションの成功は確定的に明らか」
『では、頑張って下さい。聞いた話から作成した簡易マップを使って抜けられる道は探しておきますから』
「流石メディさん」
さて、早速だが階段を探すのも面倒なので、適当な部屋に近道を作ろうと思う。アテはあるか?
『では、ここから左に二つ目の部屋からならどこからでも、どうやら寝所のようなので2段ベットなりがあるでしょう。利便性を考えるならそこが良いかと』
あー、なるほど。あの番号は管理用の部屋番号と見えるね
『はい』
じゃあ、せっかくだから俺は一番の部屋を選ぶぜ!
『珍しいですね。罠とは思わないのですか?』
いやだって、狼の動きが遅いもん。砦が抜かれるのは想定外だったと思うのさ。だから考えるよりは早く動いたほうが良いかなーって。兵は神速を貴ぶのだ。
『では、拙い策で手痛い結果にならない事を祈りましょうか』
Let’s pray!
『とぅぎゃざー』
そうして入った中には、ものすごく疲れた顔の狼人間さんが項垂れていた。
自然と剣が走る。自然体からの抜き打ちは鍛えられたものだ。
その抜き打ちに反応したは良いものの項垂れていた事で、体を起こすには一瞬あった。それだけあれば、剣が胴に致命傷を負わせるのは当然だった。
けどやっぱり怖いのでもう一度力を込めて剣を振り、しっかりと首を跳ねる。再生とかされると嫌だからねー。
という感じにお互い何が何やら考える前に、結着は着いてしまった。なんだコイツ?
まぁ、狼の群れに混ざってしまった人狼って感じなのだろうけど、この項垂れウルフが大将だったり?
『可能性はありますね。現に彼の死体は消える気配がありません』
……もうちょい刻んどくか?
『では両足を。再生には時間がかかるでしょうし、それなら一手稼げるかと』
りょーかい。
そうして刻んで、ついでに何かないかと持ち物を漁ってみたりしたが大したものはなかった。せいぜいが2000G相当のものが入っている財布くらいだろう。おまえどこで金使うの?
『案外人狼の隠れ里などがあるのかもしれませんね』
嫌な話だ。
⬛︎⬜︎⬛︎
「いやー、突然狼がクソ雑魚になったからびっくりしたよ」
「だよねー」
「あんたはセリフに熱中して変化に気付かずに殺される所だっただろうに」
「生きてんだから気にしなーい」
そんなこんなで集まった6人。ハラスメント部隊の精鋭アンド俺だ。
「それで、コイツがボス?」
「分からん。くまなく砦を探してみたが、残った狼はだいたい少年が殺したし、そうじゃないボスのような奴は居なかった。空振りではないか? ココは」
「……かもねー。あるいはフラグ足りなかった?」
「むしろ先に折った感じじゃないか?」
「んー、よくわかんないし私たちはこの辺で警戒してるよ。明太子くんは掲示板に作戦終了だって書いてくれない?」
「了解っす」
「……やっと終わるのか。この苦行が」
「またまたー。お話聞いておっきくなってたじゃん、君も」
「VRでデカくなってたまるかよ」
「え、なってたよ」
「「「「「え⁉︎」」」」」
そうして己が股座を触る男性陣。ゲームなのに、あるッ⁉︎
「これもしかしてNPCにセクハラできる奴では?」
「マジでやめとけ、試そうとしたやつは皆触る前に殺されてる。この世界の警察めちゃ強いぞ」
「あんな連中だからなぁ……」
そんなわけで、山砦攻略戦は終了した。なんとも微妙な幕切れである。
⬛︎⬜︎⬛︎
そうして掲示板に作戦のあらましと終了のお知らせをマスタードさんの画像つきスクショと共に貼り付ける。
だが、まだ集合時間には微妙に早い。どうせだし街でも回ってみようか。まだ日は出ているのだからさっき調達した小金を使って買い物はできるだろう
『金使いが強盗のソレでは?』
人じゃないしセーフセーフ。
では、出店巡りだ。
昨日はだった20Gだったが、今日はその100倍。ちゃっちい籠手とか買えないだろうか?
『中古品に命をかけるのは推奨しませんよ?』
まあねー。
そんなわけで武器屋探しの旅である。
広場のプレイヤーに聞いてみたところ、装備とかが置いてあるのは南区の商店らしい。しかも中古品があるのだ! と腰にぶら下げた剣を見せながら教えてくれた。
ありがとう親切な人。多分その剣折れるから死ぬだろうけどあなたの事は忘れるまで忘れない。
そして、商店に入った所で
中古の武具を懐かしげに見ていた、台無し師匠がそこに居た。
「昨日ぶりです、自称師匠」
「ん? ああ、馬鹿弟子か」
そんなちょっと尖った社交辞令から、俺の籠手探しは始まった。
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