08 再びの/初めての共闘

 一斉に襲いかかって来る3人。どうにも息ピッタリだ。チーム組んでたのかな? 


 それにしては、組み立てがお粗末だが。


 一人目が大上段でかましつつ、残り二人が避けたり防いだりしたのを狩る形だが、足の速さが人間レベルではどうにでもできるだろう。


 狼を操り続けた結果人を操るのは苦手になったのかね? まぁまだ決まったわけじゃあないけれど。というかどうやったら操れるのかとかさっぱりわからないけれども! 


 わかる? メディさん。


『さて。ファンタジー系列の法則は私にはわかりかねます』


 だよなー。


『せいぜいが、電気信号をコントロールして脳を操る程度の事でしょうか』


 簡単に頼む。ドイツ語はさっぱりなんだ。


『おそらく剣からの電気信号で、脳の短期的な目的意識を上書きしているのでしょう。どうやったらそれが可能なのかは聞かないで下さいね、私にはわかりませんから』


 つまり変わらない感じか、剣を弾き飛ばすか腕を切り飛ばすかの二つに一つだと。


『ええ、とはいえ両腕を切られたのです。副長さんももうすぐに死ぬでしょ……あれは何を?』


 副長さんは口だけで今日にその瓶を取り出し、傷口に塗ってからその他を腕をくっつけると、なんとくっついたのである。流石ファンタジー。なんでもアリ過ぎる。


『他がリアルな分、余計に際立ちましたね』


 ああ。本当にな。


 ……それにしても、騎士団とはこの程度の連中なのだろうか? 一人目を使ってうまく壁にしているだけであっさりと攻め手を遅らせていやがる。


 上の足音から察するに、そろそろロックスさんとイレースさんがやってくる頃だろう。ならば無理せず、イレースさんの射線に被らないように立ち位置を整えなくては。


 とか余裕を持っていた自分を殴りたい。聞き覚えのある嫌なワードが耳に響いてきやがった。いや、確かに使えないなんて誰も言ってないものね! 


■■■■ゲートオープン


 瞬間、弾かれる俺の体。出す場所を俺の正面にした事で俺の動きを阻害した上で一手動きやがった。


 使ったのは、右の奴! そして、左と正面は多段攻撃の構えを取っているッ! 


 ゲートを使った奴がアルフォンス並のヤバさを持っていたらヤバイというレベルではない。皆殺しだワン。


『何故に犬なのですか?』


 ノリさ! 


 という訳で、殺しの解禁である。いままでちょっと有利に浸り過ぎた。


 というわけで、どうしよう。


 とりあえず二人を壁にしながら様子を見るというのに一票


『二人での多数決には意味がないので心のままに動くのに一票で』


 それもそうやな


『そうやねん、です』


 というわけで再び襲ってくる大上段に対して動く。内側に入って片手で手首を受け止め、足を払って体勢を崩しつつ引き倒す。次に二人目の剣を受け止めて重心移動でゲート使いとの壁にする。


 しかし、それは二人目の剣を見て愚作と知る。


 反射的に二人目を蹴り飛ばしてみるが、奥にいる男に対して何が変わったわけではない。というかすり抜けてきやがりましたよこのお方! 仲間もろともスタイルより安心で安全ですね! 


 蹴りの反動を流さないで思いっきり体勢を崩し、ゴロゴロと無様に転がる事で攻撃をひたすらに回避する。


 漫画やアニメでは、こういった能力の敵の弱点は攻撃する瞬間! とかやるんだろうけど、無理やろこれ。だって攻撃手段が剣だし。


 剣に剣を当てることは不可能ではないが、敵の特性から考えると絶対にやりたくない。奴は生命転換ライフフォースのある命すらすり抜けて攻撃できるのだ。冗談も大概にせぇや。いや、その理不尽さがゲートなんだろうけども。


 そして、苦し紛れに透過系能力の例外のテンプレートである足の裏にかかるように剣を振るうが、普通にジャンプして躱された。ねぇ希望を尽く潰さないでお願い! 


「しかもお二人様起き上がってきてますし! どうすんのコレ⁉︎」

「こうするのよ! 生命転換ライフフォース風属性付与エンチャントウィンド。一矢入魂! 弾け飛べ!」


 そうして、3人の中心に矢が突き刺さり、それに内包された命の風が全員の体勢を崩した。そしてその隙を逃さずに上階から飛び降りてくるロックスさん。その手にはあの時の大盾が。


生命転換ライフフォース重力変換シフトグラビティ放出ディスチャージ!」


 そしてゼロ距離の大盾から放たれる力の波動により、透明野郎は膝をついた。重力操作とかなんでもアリだな本当に! 


「「ゲートを使わせるな!」」

「分かってますよ!」


 そして俺は体勢が崩れ、風邪で壁に叩きつけられた二人の剣を思いっきり叩き落とす。コレで排除の完了だ。仲間が居るって楽だね! 


 さて、二人をどう殺すかを考えなければ。


『精神に異常が見られません。私のバグでしょうか?』


 いやいや、マナーだよマナー。技を見せるってことはそれを破られて殺されても良いってことなんだから。


『剣道家のマナーは私には解りかねますね』


 安心しろ、俺も実の所そんなに分かってない。


『適当ですか』


 適当よ! 


 そんなこんなの後で重力に耐えきれなかったゲートの男がその両手を地面につく。そこをが射抜き、剣を落とし、ロックスさんがそれを蹴り飛ばした。


 うわ、この二人強すぎない? 


『洗脳がなければ互角程度だと思いますが』


 それもそうか。


「はいはーい。全員制圧完了です。ただ念のため剣には触らないで下さいな。洗脳されたくはないでしょう?」

「んで、あんたは誰なのよ不審者」

「明太子タクマ。まぁ色々あって新米騎士くんの友達をやってる人ですよ」

「……私は見ていたぞ。コイツが王子と肩を並べて戦っているのをな。惑わしの中であったが」

「副長⁉︎」

「霊薬を使った。死にはしないが、3日は動けんだろう。イービー、お前が指揮を代行しろ。この戦士二人も使って良い。元凶を探し出して始末するぞ」

「ハッ!」


 それに答えたのは透過剣士さん。


「じゃあ、俺はこれにて」

「我らを止めに来たのではないのか?」

「いや、逃げ込んだら虎口だったという最悪の奴でした、ハイ。そんなわけで俺は友人の所に向かいますよ」


 そうして、副長さんにだけ「“荒野の西風亭”に隠れます」と耳打ちしたのちに第0アバターへと戻る。消えたように見えるだろうなー。


 強キャラムーブできただろうか? 


『そうですね、58点と言うところではないかと』


 辛辣なー


『まず、幼い見た目で減点です。次に、ゲートを使ったイービー様に無様に負けかけたというのもマイナスです。せいぜいが“なんかよくわからない奴”程度でしょう』


 辛辣な! 


 なんで会話をしたのちに集合場所へと戻り、皆に状況を説明する。第0なので尾行の可能性はないと思うが、念のためいくつかのダミールートを通ってから西風亭の裏口から侵入させてもらった。


「ここがアテだよ。なんか皆洗脳されてるから今暇なんだってさ」

「あんたら、鍵かけてる裏口から入ってくるんじゃないよ。どうやったのさ」

「薄い壁ならすり抜けられるんで」

「悪霊の類いかい。やだね本当に」


「待てタクマ。彼女は叔母上様だぞ⁉︎どうしてこのような酒場におられるのだ!」

「何言ってんだいアル坊。働かないと食っていけないだろうに」

「いやそれはそうですが!」


「……まいいや。婆さん、コイツ泊まりなんで部屋貸して下さいな」

「構わんよ。宿賃もこのゴタゴタを収めてくれるってんならツケにしといてやるさ。6人だね?」

「いや、俺らは元の世界に帰るんでコイツの寝床だけで良いです」

「……やっぱ悪霊じゃないかい? あんたら」


 そんな話を間に受けてくれたのか、プレイヤーのことにそんなに突っ込まないように作られているのかは分からないが、まぁ匿ってくれるなら是非もない。


「じゃあ、話し合いにはこの辺を勝手に使いな。私は部屋を作ってくるよ」

「あざーす」

「……にしても、あんた以外の連中どうしてそんなに警戒してるのさ?」


 そんな話の中で、黙っていたドリルさんか口を開いた。


「……話が美味しすぎるからですわ。明太子くんが偶然知っていた所に王家に連なる方がいらっしゃるだなんて冗談か……偽物と決め打つのが自然だと思いませんこと?」

「ちなみにこの馬鹿坊主との出会いは人の店の前で男を蹴り飛ばそうとしたのを黙ってやった事からだよ。そんな面倒な政治なんてやってられるかいね」

「あ、タクマくんの奇運が原因なのね。なら私はもう信じたわ」

「奇運?」


 その言葉に頭を傾げる3人。


「だってタクマ、偶然逃げ込んだところが王子サマの逃げ込み候補の所だったのでしょう? そんなのが普通あり得る?」

「……ありえませんわね」

「そう。だから奇運なの。運がいいのか悪いのか誰にも分からない変なのだと考えておけば良いと思うわ」

「……その信頼っぷりを見ていると疑っているのが馬鹿らしく思えてきましたわ。レディ、あなたを疑ってしまったことに謝罪を。申し訳ありませんでしたわ」

「構いやしないよ。あんたらがあんたらなりに考えた結果なんだからね」


 そんなわけでひとまず休足兼作戦会議が始まった。


 ⬛︎⬜︎⬛︎


「なるほど、剣を媒介にした傀儡の術か」

「ああ、こっちじゃメジャーなのか?」

「……そんなものが行き渡っているのなら国など成り立つものか」

「なら、その術の使い手を探ればよろしいのですね」

「というより、使い手にした誰かじゃないかしら。群狼シリウスの大元と傀儡術師は別物よ」

「……なぜ、そうだと?」

「だって私が群狼なら、死んだはずなのにピンピンしてるタクマくんをもっと警戒するもの。それこそ、副長さんにあんな適当な指示なんてしないで数と詐術で速攻で殺すわ」

「確かに、タクマは妙に強いし、自由にさせておくと面倒な手合いだからな」

「照れますぜ」

「それ、褒められていますの?」

「ポジティブに捉える派なので」

「そうですの。なかなか良い心持ちをしておりますね、明太子くん」


「それで、霊薬とやらのおかげで生きてる副長さん以下5名が反乱戦士としてこっち側に付いてくれてる。だから、城に入ってる連中と協同させて動くのが定石か?」

「……まぁ、城の連中が生きていたらの話だけれどね」

「なんかあんのかよあの城」

「だって今門番洗脳下なのよ? んで、洗脳された連中は私たちの第0を見る事ができる。そんなの斬られて当然でしょう」

「あー」

「……ところで君の仲間が城に潜入しているということに対して王子の僕はどう反応したら良いと思う?」

「後で斬首な! で良いんじゃないか?」

「邪悪がいるぞここに」


 そんな話の後に『とりあえず掲示板での報告を待ってから動く』というゆるゆるな手でお茶を濁す事となった。というか、それ以外できる事はなかった。


 だって明日平日だし。リアルは捨てられないのだよアルフォンスくん。


「じゃ、明日の夜にな」

「ああ、待っているよ稀人の皆。君たちの明日……いやもう今日か。君たちの今日に良き響きがある事を祈ってる」

「……すまん、どう返せばいいん? ソレ」

「特にないよ。昔から父が使っていた、古典のさようならの挨拶なだけだからね」

「……素敵なお父様ですのね! ふるきをたずねて新しきを知る、上に立つものの鑑ですわ!」


「それでは、アルフォンス王子にも良き響きがある事を祈らせて頂きますわ。それでは、さようなら。また夜に会いましょう」


 そうして、《Echo World》の二日目は終了した。なんとも恐ろしいボリュームのゲームである。


 なんてのは、自分を騙せる嘘だと思う? 


『さてどうでしょう。ですが、とりあえず今は不思議なゲームという事にしておけばよろしいかと。ゲーム自体に害はないのですから」


 だなー。


 このゲームに疑問を持ちながらも、それはそれとしてゲームを楽しむのが良いだろう。うん。

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