07 傀儡の騎士

「つまるところ、あの騎士団の連中だ誰かに操られているだけの木偶だと?」

「ああ、そうだ。だが、その木偶たちでは王城の結界を抜けられない。だから私の体……というかゲートを使ってその辺りをどうにかするつもりなのだと思っている」


 なるほどなー。


「それでアルフォンスはこんなところいても良いわけ? 探されてると思うんだけども」

「灯台下暗しだ。……いや、なんか外を異常に警戒してるのさ。心当たりあるかい?」

「んー、あの廃砦に行った連中がなんかやったかね?」

「廃砦……そこから群狼は来ていたのか」

「そ。そこでわからん殺しされたから人柱を送り込んだのよ。もしかして、あの連中が成功しやがったのか?」

「しれっと外道ですわよね明太子くんって」

「昔から戦うとか殺すとかに思考が回るときはこうなの。そこも結構好きなところだけれどね」

「……愛されているな?」

「俺はもちっと外を見て欲しいんだけどなー」

「とにかく、この辺りでしばらく騎士団を見張りたい。君たちの寝ぐらに案内してくれないか?」

「「「「「そんなもの、ウチには無いよ」」」」」

「全員が根無草⁉︎」


「まぁ、ちょっと心当たりをあたってみるから、この辺で隠れててくれや。もしかしたら婆さんなら匿ってくれるかも知れないし」

「あー良かった! ちょっとでもまともな選択肢があって良かった! 流石に操られているだけの仲間を切りたくはなかったからね」

「ちなみに、今日どこで寝るつもりでしたん?」

「詰所だね。やってくる連中を全員倒せば安全な訳だし」

「ヤベェこと考えてる化け物がいやがるぞ」

「ええ、先に全員切ってからじゃないと不安だものね」

「そうですわ。少なくとも四肢をへし折り拘束くらいはしてあげませんと」

「……女性陣は、生まれる世代を間違えてやいないか?」

「ダイハはともかくドリルさんは予想外すぎて笑うしかないですよね」

「まぁ、そういう連中とつるむのもMMOの楽しみだ……と思うことにしよう」

「ですね」


「君ら自己催眠を始めていないかい?」


 そんなわけで、この世界の唯一の伝手を頼りに俺は一人“荒野の西風亭”へと向かうのであった。


 ⬛︎⬜︎⬛︎


「こんばんわー」

「冷やかしなら帰っておくれ……と言いたいけど、生憎暇なもんでね。なんか面白いネタを持ってきたんだろう? 坊や」

「坊や呼ばわりは御免だよ! ……って言えるほど何かしてきた人生ではないんで、今は受け止めさせて頂きますよ」

「ほう」

「ちょっと確認したい事があってここに来ました。自称やんごとなきお方が寝ぐらを探してるんですけど、ここの宿今は空いてますか?」

「空いてるよ、最悪なほどにね。いつもは防衛戦の後なんざ娘達の声で眠れないってのにさ」

「……あー、ガチに操られてるパターンかー。怖いな」

「原因を知ってるのかい?」

「知ってる奴を知ってます。ただ、厄ネタですよ?」

「構いやしないよ。腐っても紋章付きの紹介なんだから」


 この鞘の紋章マジでなんなのだろうか。権力強すぎない? 便利だけれども。


「じゃ、連れてきますね」


 そんな話の後でアルフォンスたちのところへと戻る。第0アバターはこういう時便利でならない。なにせ面倒なステルスアクションをしなくて済むのだか……メディ。


『はい、見られていますね。右前方の3人です』


 迂回する。マップは……ないんだったな


『はい。ですが合流地点までの方向と距離はマークしています。迷う事はおそらくないかと』


 さて、どうするか。


 ……と、おもったが別段困る事じゃなかったわ。第0ならアレができる。


『最新技術での古典的行動ですね』


 タンスとかツボとか漁らないと(使命感)


 というわけで、尾行についてきた一人の目線が切れる瞬間に


 当然ながらこの辺りの建物は壁が薄く、抜けられるのだ。


 透明人間万歳だな、こりゃ。


『それで、探索はするのですか?』


 うかつに動きたくはねぇが、建物内部くらいは把握しておきたいなコレは。外からはわからなかったが、アパート的なののようだし。


 敵方の奴が入り込んでいたら危ない……ってもう来てるッ⁉︎


『見られていますし、剣を抜かれていますね』


 やめろや畜生。制圧とかガチに苦手なんだよ。


『いっそ殺してしまうのはどうでしょうか?』


 んー、個人的にノーで! 


『では?』


 ノープランで行くさ! いつも通りだ! 


 そんな思考と共に生命転換ライフフォースを起こし、臆病者の剣を抜く。


 現在位置はアパートのロビー。広さはそこそこだが、壁が背にあるので下がれないし振りかぶれない。


 アレ、割とピンチでは? 


 などと考えていると最適化されている剣が真っ直ぐに俺を襲う。


 とりあえず受け流すが、力負けしている感じが強い。


 壁に刺さってくれればよかったものを。


 ……だが、妙だ。


 力を見誤って受け流しはした結果体幹を崩せてはいなかったのだし、体格差を考えれば剣を手放してぶん殴りに来てもおかしくなかった。しかもそれをやられた場合回避方法はなかったのだ。


 あの綺麗な剣を振るう人がそんななまっちょろい戦い方をするわけもないので、何かカラクリがあるのかもしれない。


 が、手首を狙おうにもそこにあるのはとても頑丈そうな籠手だ。いいなー、欲しいなーそれ。


 なんで剣への打撃を中心に組み立てていこう。手が痺れてくれるかも知れないし

 そんな思いから切り上げを受け止めつつ、その力により体が少し浮く。


 それを、そのまま上方向へのベクトルに変えて、背後にある壁を蹴る。


 かなり無理やりな首狙いタックルだ。まぁドタドタうるさかったから相当にまずかったのだけれど。やばいぜー、コレから多分千客万来だよー。


『楽しそうですね、マスター』


 だってほら、アルフォンス見てからこの世界の剣士の技に興味津々なわけよ。狙ったわけじゃないけどこの状況なら仕方ないよね! 


『本当に狙っていなかったのですか?』


 ああ。さっきのタックル、防がれた。本当はタックルの勢いで、刃を立てた剣での首狩りを狙ったんだけど、あの人自分からバック宙じみた回転をして剣を躱しやがった。なんだあのチグハグさ。あんなんが相手だったら俺6手くらいの詰めで殺されてる自信はあるぞ。


『洗脳の影響でしょうか?』


 だと思う。本能的な体捌きは自然に出るんだ。理詰めの攻撃は指示待ちで繋ぎがおざなりになるけれど。


 というか、そうであってくれ。


『では、どうするおつもりで?』


 思いつくか! あの体捌きだけでもランカークラスだぞこの騎士さん! 罠もないのに勝ててたまるか! 


『つまり、現実は非情であると』


 そゆこと。なんで戦略的には出来るだけ綺麗に死んですぐにリスポンすることかね? 


『その気はさらさらないようですが』


 わかってんじゃんメディさん。大物狩りは、VR剣道家の花よ! 散るならば、食らいついてでも相打ち取ったらぁ! 


『カミカゼスタイルですね』


 歴史家さんにごめんなさいしようなー、メディさん。否定はしないけどさ! 


 という馬鹿な脳内会話をしながらも現状の把握と体勢の立て直しをする。

 普通ならここで追撃の3つや4つ飛んでくる所だが、やはり攻撃については剣だけを学んだ甘ちゃんだった。汚さがたりねぇぜ。


 現在俺がいるのはロビーの中央部、右手には入り口、正面には敵さんがいる。敵さんは壁との距離は十分にある。地の利は特にない。


 左手側には申し訳程度に置かれたテーブルと椅子がちらほらと。頑丈そうだが、生命転換ライフフォースの乗った剣ならバターのように切れるだろう。壁としては使えない。



 そして、外からは具足の足音がガシャガシャと聞こえてきたりする。コレもしかしなくても増援だろうなー。3人組じゃなくて、ここの一人とバックアップ3人の4人組だったのだろう。目的は王子の来そうな建物の監視か制圧か? ……どっちにしても俺運悪すぎない⁉︎


『結論、やはり現実は非情でしたね』


 ならば攻め込むだけよ! 


「あんたら! ガタガタうっさいのよ! 今何時だと思ってんのよ馬鹿どもが!」

「何故に暴れているのか、聞かせて貰おうか少年」


 あ、しかも現地人の乱入だよ。しかもイレースさんとロックスさんとかいう死亡フラグブレイカーズ。これはどうしようもなくない? 背後からズドンだよ俺。


「ていうか副長サマはなに子供に手こずってんですか。それでよく“戦士団は騎士団の元支援をしていろ! ”とか言えますね!」

「副長なら問題もないだろう。寝酒の肴にするか」

「あんたら良い性格してんなマジで!」


 などと言いつつじりじりと間合いを詰める。こちらの勝ち筋があるとすれば、それは磨かれた技の欠点にこそある。


 最適な剣は、躱しやすい。何故ならその剣は一本の線だからだ。それがどんなに綺麗でも、本当の理詰めの殺し方に基づいていなくてはただ速いだけの剣なのだから。今は先ほどと違い自由に動ける。一手躱すのは不可能ではない! ……はずだ。


 小細工込みで半々くらいかなー? でもやるしかないよなー。


『では、いつものように?』


 ああ、いつものようにさ! だってもう、こっちが抑えておく必要はないもんな! 


 殺気を、研ぎ澄ます。その意思全てを副長さんとやらに当ててこちらの攻め筋をいくつも見せる。

 すると、自然に構えが最も強い殺気を乗せた攻め筋に対応したものに変わった。下段の攻めに対応する構え。そこからの剣筋は限定できる。つまり、ここが命の張りどころ! 

 下段への殺気と共に一歩踏み込んで半歩下がる。殺気と足音によるフェイントだ。それに対応した副長さんと、対応できなかった操りマンの動作のブレによってその剣は最適な剣筋を、最高速に達さないままに振り抜いた。

 そして、その剣筋から逃れた俺は身体全体を使った加速で副長に近づき、その両腕を肘から切り飛ばす。


「無作法ながら、一本だ!」


 そうして腕ごと剣を落とした副長さんは。「……見事」との一言と共に座り込んだ。


「副長⁉︎」

「イレース! 武器を持って来い! この階段は通さない!」

「馬鹿どもが。敵を間違えるな。だから貴様らは騎士になれんのだよ。この少年は味方で、敵は……」


 その言葉と同時に入り口が蹴破られる。そこには先ほど俺を監視していた3人が抜剣したままにやってきている。


「こいつらだ。悪いが俺の両腕はこの通りでな、こいつらを止めてやれ。でなければ王子もろとも貴様らは死ぬぞ」

「……何がなんだかわかんないけどやってやるわよ! その代わり、私を騎士団に推薦しなさいよ!」

「俺のも頼む。こいつとのコンビは悪くない」


 そうして、俺にとっては二度目の、イレースとロックスにとってははじめての変な組み合わせ3人共闘が始まった。

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