06 傷の男とドリルの女

 帰って食事を終え、風呂などの諸々を済ませてストレッチ。それから再びSoul Linkerをつけてベッドで横になる。


 そして、氷華に連絡を入れてゲームにログインをする。


 一応探しているのだが、まだ良さげなソフトに巡り合えていないので今日も今日とて《Echo World》だ。


「あ、明太子くん!」

「ども、マスタードマスターさん。今からインですか?」

「いや、色々こんがらがってるから作戦会議中。明太子くんもどう?」

「一応聞いときます。まぁ基本脳筋なんで力にはなれないと思いますけど」


 そうして少し移動した所には、大きなモニターと十個ほどの椅子が設置されていた。こんな所あるのかー。


「じゃあ目標の10人が集まった所で、作戦会議……というか現状の確認をしたい。構わないね?」


 肯く皆。どいつもこいつも一癖ありそうな雰囲気だが、よく考えたらこんなインディーズゲームに初期からハマるような奴にまともな奴がいるわけもないわなと自己完結。


「それじゃあ、始めよう。まず、僕らはもう既に騎士団に出向いている王子を守ることを失敗した。彼は《群狼シリウス》という魔物によって殺されてしまったみたいなんだ。今日の夜すぐのことだね」

「質問良いか?」

「はい、明太子くん」

「王子が死んだのはどの門だ? 南門のクソ狼はキッチリぶっ殺したし騎士団にも目立った被害は出てなかったんだが」

「ほかの門に襲撃はなかった。だから南門だろうね。おそらくその少ない被害の中に王子がいたのだろう」


 まぁ、そう考えればあの妙に前に出てこない騎士団の動きにも納得ができる。王子サマを守っていたのだろう。その隙を突かれるとはなんとも情けない連中だことで。


「んで、お袋さんが泣いて喚いて結界が危ないって話?」

「……いや、巫女様は気丈に振る舞っているよ。少なくとも今日明日で結界が崩れるって事は考えられないと思う」


「だけど、問題はそこじゃあないんだ。今、王様が病床に附している今最高権力者は宰相だ。彼が王子を守れなかった事で騎士団に疑念を抱いている。というか、悪だと断じているといっても過言じゃあない」


 なんかまずい感じの流れだが、何がまずいのかわからない。とっとと本題に入ってくれないだろうか? 


『マスターは本当にいつも通りですね』


 そう褒めるな。


『……マスターは本当にいつも通りですね』


 何故に二度言ったのだし。


「という訳で、現在騎士団は政府への反発が根付いている。もしかしたらずっと前からあったもので、それが王子の件で表に出たのかもしれない。……コレって、世界が滅んだ原因に引っかかりそうじゃないかい?」

「つまり! わたくしはその騎士団をぶっ飛ばして改心させてあげればよろしいのですね!」


「なんだこの縦ロール」

『なんですかこの縦ロール』


 あ、メディと被った。


「縦ロールではありません! 金髪ドリルでございますわ!」

「え、ドリルって自分で言うの⁉︎」

強者つわものか……」

「キワモノだろどう考えても!」

「まぁなんでもよろしいですわ! 私はプリンセス・ドリル! その役目、引き受けましてよ!」

「あはははは……」


 マスタードマスターさん苦笑いしかできてねぇ。絶対に議論が斜め方向にかっ飛んでる感じだわな。


「ですが、武力という面で私が劣るというのは事実。そこの少年と顔に傷のあるそちらのおじ様、私について来て下さいますか?」

「……意外だな、“ついてくる事を許して差し上げますわ! ”とか言いそうな感じだったのに」

「あら、私をそんじょそこらの二流と同じに見るとはあなたなかなか見る目がありませんのね」

「そいつは悪かった。俺は友人を待ってるからそいつとの合意があれば構わないよ。用心棒やってやるさ」

「ありがとう、明太子くん。おじ様は?」

「……一切承知だ」

「では、行きましょうか!」


 そんなわけで、キワモノ面白お嬢様ロールのドリルさんと、顔にお洒落傷のある寡黙な長親ながちかさんが仲間に加わった。なんというか、不安である。


「ちょっと待って! 話はまだ終わってないから!」

「「「あ」」」


 だってブレーキがいないんだもの! 


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 そんなこんなで会議は終わり、騎士団殴り込みチームの俺たちと、巫女様守りたいチームの残りの皆という感じに分かれて動き出した。

 定時連絡などはなし。アバウト万歳なやり方である。


 高度に柔軟性を維持しつつ臨機応変に! 


『素敵な言い回しですね。マスターにぴったりかと』


 俺もそう思う。


 などと脳内で会話しつつドリスさんと俺が話すだけの時間がちょっと過ぎた所で氷華がログインして来た。


「……タクマくん。私というものがありながらそんなのに釣られるなんて信じ難いのだけれど、なにか言い分はあるのかしら?」

「いや、流石にコレに釣られる馬鹿ではない自覚はあるぞ」

「ふーん、私はかなりデレデレしていたように見えたけど?」

「誤解にも程があるわ」


 そうして、ミセスはドリルさんの身体を見た。


 自然に作られた違和感のないとても良いスタイル。そしてどこか気品が漂う美しい顔形。健康的で綺麗な容姿だ。


 それを見て何を思うかはとても良く理解できる。なので、ミセスの目をちょっと両手で塞いでおく。


「何をしているの? タクマくん」

「目隠し」

「それは分かってるわ。その理由を聞いているの」

「なんか羨んでいるように見えたからさ。馬鹿な方に思考が向く前に軌道修正をしようと」

「……否定はしないわ」

「最後の手術が終わって、お前が健康体になって、ちゃんと飯を食えば、ドリルさんに劣らない美人になるさ。きっとな」

「……ありがとう、タクマくん」

「長い付き合いだ。これくらいはな」

「ええ。同じ墓に入る仲ですものね」

「それはまだ認めてねぇです!」

「そう? どうせ近い将来認めるのだから今認めても同じだと思うのだけれど」

「弱みにつけ込むのは嫌いだって言ってんだろが」

「そうね、惚れたは弱みだもの」

「だめだコイツ強すぎる」


 ミセスへの目隠しを外す。その目ならもう大丈夫そうだ。


「ごめんなさい、タクマくんとのイチャイチャを見せつけてしまって。彼はどうやら私との関係にヒビを入れたくなかったようなの」

「あれー、なんか事実と違うような」

「気のせいよ。それじゃあ改めて自己紹介を。私はMrs.ダイハード。私を呼ぶ時には必ずミセスと付けて欲しいわ。ミセスだけでも構わないけどね」

「あら、どうしてミセスですの? まだ結婚はできない年頃にしか見えませんけど」

「理由は。一つ目はミスやミズよりミセスの方がカッコいいから」

「もう一つは?」

「乙女の秘密という事でお願いするわ」

「なるほど、素敵な理由ですね」


 なんか通じ合ってる女子二人。なんだアレ。


『私が答えるべきでない事は確かかと』


「して、行くのか?」

「ええ、参りましょう! 騎士団の方々をぶっ飛ばしに!」

「バイオレンスだね、好きだよ私は」

「ウチのチームの女子連中が強すぎる……」


 ⬛︎⬜︎⬛︎


 そんなわけでやってきた騎士団駐屯所。全員生命転換ライフフォースの起こしはできている。が、その強さを考えるとメインの戦闘役は俺だけだろう。ダイハさんは出力はあっても武術がクソ雑魚ナメクジだし。


 尚、ダイハとは彼女が言い出した新しい呼び方である。他人にミセスを強要しつつ俺には渾名で呼ばせる事で男避けにしようとの魂胆だそうだ。絶対嘘だけど。否定できる根拠はないのだし、受け入れるしかない訳だ。


 まぁMMOでコイツと付き合う機会はそんなにないのだし、そのくらいの遊びには付き合ってやらねばなーとは思ってる。


 閑話休題


 この世界の時間は、現実の時間と大体リンクしている。つまるところ、今は深夜なのである。


 そんな時に、騎士団の詰所に行ってどうするのか。


「起こしてぶん殴ればいいのですわ!」


 やだバイオレンス。


「なかなか良いわね。何人か首を晒しておけば快挙妄動を起こすこともなくなるんじゃないかしら」


 やださらにバイオレンス。


「……とりあえず待つ、というのはないのか?」

「「ありえませんわ/ないわね」」


「時をおけば、一手許してしまいます。その前に手を打たねばまたゲームオーバーでしてよ」

「そうね、出番を敵方に握らせるのは悪手だし、あまり好きではないわ」


「んじゃあ、とりあえず詰所の門をぶっ飛ばして後は流れにするか。最悪透明人間になりゃいいんだし」

『マスターは人のことバイオレンスとか言ってはいけないと思いますよ』


 というわけで詰所前で門番をしている二人を闇討ちしようと位置取りをし、剣を抜こうとすると後ろから物凄い勢いでそれを止められた。


「……そういやお前も騎士団員だったな、アルフォンス」

「何をしようとしているんだ、タクマ」

「ちょっと騎士団の方々にお勉強をさせようかとウチの姫様ズが宣ったので」

「恐ろしい勉強だな……済まないが私をその仲間の元へと連れて行ってくれないか。攻め込むのは今ではならないんだ」

「お、情報アリな感じか」

「ああ、僕は君に君が思った以上に命を救われていたという話をしようと思ってね」


 そんなわけで攻撃中止の合図を送る。舌打ちが二つ聞こえたような気がするがそれは気のせいだと思いたい。かこつけて暴れたいだけな危険人物じゃないよな? ……人の事は言えないけれどもネ。


「それで、そっちの金髪イケメン崩れは何者なのかしら?」

「いや崩れてねぇよガチのイケメンさんだよ」

「いや、顔隠しをしているのにどうして君はそう言い切れるんだよ」

「顔隠し?」

「まぁ、小細工だよ」


 そうしてアルフォンスの存在感がフラットになる。どうやら今までは生命転換ライフフォースの力を顔以外に送る事で顔の印象を消していたらしい。


 そこには、王子様オーラが凄まじい金髪イケメンが居た。いや、俺がイケメンって言ったのは内面の話だよ! なんだコイツ⁉︎


「アルフォンス……」

「そう、私がこの国の……」

「そのイケメンオーラの出し方を教えてくれ! 後生だから!」

「先に反応するのはそこなのかタクマ⁉︎」


 そんなぐだぐだな会話から、最後の王子とタクマとの交流が始まった。

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