05 夜の廃砦は無理だよねという話
「……バイク欲しいな真面目に」
『推測、ゲートを開けば作り出せるかもしれませんよ?』
「流石にバイクは無理じゃない?」
『不明のゲームシステムに対して、ありえないはありえないかと』
「ま、想像するだけは自由だわな」
10分ほど、モヤを目印に走り続けている。周囲に狼の影はなく、しかし他の動物やモンスターの影もない。夜といえばモンスターいっぱいな気がするのだけれども。
『昼行性のモンスターが多いのでは?』
かもねー。
さて、モンスターが出て来ないのは結構困ったが、それ以上に困った事がある。あのモヤの行き先は山だった。それもかなり自然豊かな。
流石に夜なのにあそこに突っ込んだら死ぬわな。
『少なくとも遭難は間違いないかと』
つまりは死地だ。
よっしゃあ! やる気出てきた! 絶対お宝か情報あるぞアソコ!
『では、参りましょうか』
あいよ!
方向は今まで一定だった。つまりこの直線状の何処かにまだ狼がいるのだろう。そいつを殺せば、多分勝ちだ。
なので、今回はちょっとズルをする。
どうやって地面を踏んでるのかは疑問だが、そこは気にしない方向で。
そしてモヤを追いかけていくと、明らかに廃棄された山砦! という感じの建物にたどり着いた。モヤが入った瞬間を見かけたのでここが敵の巣、もしくは拠点で間違いないだろう。
さて、通路の幅はどれくらいなものか。この臆病者の剣はそこそこ長いので閉所での戦闘は向かない。こういう時に必要なのはガソリンであるはずなのにどうして手元にないのだろうか?
まぁ、いいか。思考を他所に流す必要はない。ぶらりとこの砦の中に行くとしよう。
命を起こす。最小限の力で。ここからはダンジョンアタックになるのだから、体力は温存しよう。どうせ死ぬだろうが、持ち帰れる情報は多い方がいい。
とはいえ、灯りがない。そりゃこんな廃砦にしっかり灯りがついていたらそれはそれで山火事とかの問題になるのだから当たり前なのだけれども。
……まぁ、目が慣れてくれば多少は見えるか? ……ないな。
『さて、どうでしょう。現実ならこの小さな窓からの月明かりでは光量が足りませんが、ここはゲームですから』
しまった、ゲームと現実の区別がついてなかったぜ。
『お気になさらず』
そうして目が慣れてくると、自然と大雑把に空間が認識できるようになってきた。さすがファンタジー。
どうせ隠れられたらどうしようもないので、堂々と足音を立てて歩き続ける。襲ってきてくれー、俺はここにいるぞー。
瞬間、前方から何かが飛んでくる。それを剣を盾にして防ぐが、どうにも感触が妙だ。生物が当たったような感じ。
そして、その悪寒に反応して自然と体は動いた。半歩下がって即応の構えを取ったが
瞬間、俺の上半身は何かに包まれ、暗闇の中で俺の上半身と下半身は泣き別れした。
二度目のデスペナである。わからん殺しかー。などと恐らく食いちぎられた胴の痛みを感じながら思う。結構しんどいぞこの野郎。
⬛︎⬜︎⬛︎
死んだことによりやってきたのは黒い部屋。デブリーフィングルームだ。確かに、死んでから話し合うのでデブリーフィングだな、うん。とちょっと納得した。
「ちわーす」
「あ、明太子くん。今ログインしてきたの?」
「ちょっと殺されてました。なんだ今の」
「へー、どこで?」
「南門から南南東に行ったくらいにある山の廃砦ですね。敵のアジトだったみたいです」
「気をつけるねー。じゃ行ってきまーす」
「いってらー」
さて、めでたくなくデスペナ食らった訳だが、このゲームのデスペナルティは重いんだか軽いんだかわからない。ワールドへの転移まで時間がかかるというものだ。
とりあえず今回のデスペナは60分。かなり重いものだ。コレは死に方によって時間が変わるという予想が当たっていたのだろう。マスタードマスターさん、さすが切れ物だ……
「あー、まだログは見れないんだ」
『そのようですね。今回の周が終わった時に解放されるというシステムなのではないでしょうか?』
「そんなもんかね? ……つーか1時間あるならそろそろ帰るか?」
『そうですね。とはいえメッセージ機能はありませんし、どうしましょうか?』
などと考えていると、ミセスが転移してきた。どうやらデスペナではないようだが何かあったのだろうか?
「やっほー、首尾はどう?」
「ええ、最悪ね。そりゃこの国滅ぶわ」
「へぇ、なんかわかったのか?」
「ええ、この国の最後の王子が、今防衛線で戦ってるのよ。病床の王様置いておいて」
「アレか? 士気が高まる! とかの理由?」
「違うわ、王子は死ねって話よ」
「うわー、エグい」
「まぁご愁傷様って話だけど、それだけじゃないみたいなのよ」
「というと?」
「その王子サマの母親が、なんかこの国の結界の巫女長だって話なのよ。だから、その心が折れたら国は滅ぶんだとか」
「……なんか機密みたいな話だけど、大丈夫なん?」
「ええ、ちょっと落ちていたナイフを使ってインタビューしただけだから。それに顔は見られてないわ」
「インタビューなら仕方ないな」
「ええ、快く答えてくれたわ。素敵なメイドさんね。……まぁ、警戒が強くてその子からしか話は聞かなかったんだけど」
「ま、その子のことは気にしない方向で。掲示板に投稿するのか?」
「するわよ。私たち学生よ? ログインしてないうちに王子サマや母親が殺されたらゲームオーバーじゃない。どうせなるなら一枚も二枚も噛みたいわよ」
そんなこんなで掲示板で情報共有。数人でつるんでアジトに向かう者、とりあえず城に潜入するもの達に大体別れていった。
「んじゃあ、結構な時間だし俺帰るな」
「あらそう、なら私も一旦ログアウトしようかしら」
「見送りありがとさん」
「構わないわ。あなただもの」
どういう理由だ? とは聞かない。でもこいつちょっとは俺離れしてくれないものだろうか。でないと弱みにつけ込んだような気がしてならないのだ。
いや、あの時の行動を後悔するつもりはないなだけれども。
「んじゃあ、またなー。家帰って色々やったら連絡するわ」
「ええ、よろしく」
そうしてログアウトして、面会時間ギリギリであることにいつもながらジト目で見られながら家に帰る。
婦長さんよ。「やることやってないでしょうね?」とか聞くなや。お互いの体調的に死人が出るぞおのれ。
『まぁ、思春期のお二人ですし仕方がない所はあるのでは?』
うるせー。
そんなことを考えながら、駐輪場からベビーカーを呼び出して乗る。
微妙に寄り道する時間はあるわけだけど、どっか行きたい場所はあるか? メディ。
『それでは、昨日の事件現場を』
.トラウマスイッチ押す気ですかいな
『その程度の心の人なら私はもっと模範的な健康管理AIになっているでしょうね』
なんつー皮肉だよメディさん。まぁ、気になるから行くけどさ。
『では、ナビゲートします』
そんな風にバイクを走らせると、路地裏になんか妙にくるくるする変な機械を持った青年が見えた。なんだあれ、風車?
『現在風はそうありませんね』
なんぞや一体。
「すいません、何やってるんですかこんな所で?」
「あ、ああ。ちょっと個人的な調べ物、かな?」
「……へーそうですか」
バイクを降りて近くの駐輪場まで送ってから、路地裏を歩き出す。
戦いの記憶はあっても記録はない。痕跡もない。ついでに言えばあの時の麻薬じみたパワーもない。
「……何がなんだかわからんな、本当」
『そうですね。ですが構いませんかと。ぶつかった物事が全て既知になることなどあり得ません。たまたま今回がそうだっただけなのでは?』
「そうだな」
なんとなく、落ちていた鉄パイプを拾う。それは自分の今の体には重くて、昨夜のように振り回すことなど不可能なものに思えた。
「……何やってるの? 君」
「あ、さっきの怪しげなお兄さん。どうも」
「……否定はしないけどさ。先輩にコレ持たされてこんなとこに行けとか言われたわけだし」
「そのクルクルはなんなのか聞いても良い奴ですか?」
「うん」
「これは重量子変化探知機……らしい。先輩が半日で作り上げたものだから全く信用はないんだけどさ!」
「……なんでこんな所に?」
「昨日の夜この辺りでなんか出たんだって。知らないけど」
「へぇ」
アレのことだろうか? だが、通信は遮断されていたのにどうして測定できたんだ?
謎だ。
「それで、君はどうしてこんな所に? もう暗いし、危ないよ?」
「まぁ、実は昨日ファンタジー狼とここで殺し合うことになりまして。それが夢であることを祈ってる感じですよ」
「……君って中学何年生?」
「もちろん2年生です」
「……うん、頑張ろうね!」
「やめろその目で俺を見るなや」
中二病の自覚はあるのだけれども、それをそうだと見られるのはまた別に恥ずかしいのだぞこの野郎!
「それじゃあ俺はこれで」
「うん、帰りは気をつけてねー」
そんなちょっとした出会いの後に、バイクに乗って家路に着く。
なんだか今日は炊き込みご飯の気分になったし、ちょっとスーパー寄って行こう。
『その心は?』
特にない!
『いつも通りで安心致しました』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます