04 第0回デブリーフィング

 そうして目が覚めると、そこは黒を基調にした空間だった。なにか分からずにキョロキョロとしていると、俺に気付いた青年が声をかけてくれた。


「やぁ、お疲れ様。君随分と生き延びたね」

「あー……はい。コイントスで表が12回くらい連続で出た気分です」

「それは幸運……なのかな?」

「所でここは?」

「とりあえずデスペナ待機場って呼んでる。あのばけものパレードで死んだ人達が集まってきてる感じかな? まぁ、あのボードを見てわかる通り、デブリーフィングが8:52分から始まるらしいよ。……まぁ、延長しまくってたからアテにならないけども」


 そう言って指し示されたボードを見る。そこには“第0回デブリーフィング! ”という明るい文字の下に開催時間と“一部のプレイヤーの生存能力が想定以上だった為にデブリーフィング開始をここまで延長してしまいました。デブリーフィングの内容は後に確認できる為、御用事のある方は自由にログアウトしても構いません。ですが、作った身としては参加して欲しいのです……”と言い訳がましく書かれてあった。


 ちなみに下の方はなんと手書き。なんだか切なさが伝わってくる。


「あー、わかりました。とりあえず自分は明太子タクマです」

「僕はマスタードマスター。所でなんで明太子?」

「いや、好きなんですよ」

「まぁゲームのHNに大した意味は持たせないよね、うん。僕もそうだし」


 そんなことを言っていると、死んだのかログインしたのか分からないがゾロゾロと人が集まってきた。どうやら時間のようだ。


 そして、表示される時間加速5.8倍という表示。マジで? とメディに確認してみた所、ネット同期にそれくらいの遅延が起こっていると述べてくれた。サラッとオーバーテクノロジーなーこの会社。


「皆さん、《Echo World》第一話、群狼シリウス(体験版)を遊んでいただき本当にありがとうございました。このゲームの管理AIをさせていただいていますマテリアと申します」


 ディスプレイの下に現れたのは黒いドレスに白い髪、そして紅い目をしている少女型のアバターだった。


「それではまず、このゲーム《Echo World》の簡単な説明をさせて頂きます。このゲームは限られた時間のループの中で、プレイヤー皆さんが世界を滅びから救い次のステージに進めるというのを目的としています。第一話においての滅びの原因は群狼シリウス。その特性については皆さんで話し合って解き明かして下さい」


 ふむ、あのクソ狼やっぱりボスだったのか。幸先が良いのか悪いのか……


「では、皆さんが時間前に送って下さった質問にいくつか答えていきたいと思います。まず、チュートリアルについて。このゲームのチュートリアルは、先ほどの第1話体験版がそれに当たります。触れないこと、見えない事、話せない事、それらはこのゲームの第0形態アバターの特性です。それらを体験していただきつつ、この世界がどういうものなのか、どうやってこの世界が滅ぶのか、この世界を滅びから回避する為になにが必要なのかを皆さん自身で考えて頂くことがこのチュートリアルの目的なのでした」


 なるほど、たしかにただシリウスを殺すだけではクリアはできなかった。つまり、調査的な何かが足りなかったのだろう。

 脳筋には難しいゲームだ。


「では次です。このエリア、デブリーフィングエリアについてお話し致します。このエリアは文字通りの作戦会議室。プレイヤー皆さんの認識したデータ、プレイ動画、そう言ったものが自由に閲覧できるようになっています。ただ、個人情報に関しては自動でマスクがかかるようになっているのですが完璧だとは言い切れません。自身のプレイ動画を見てこれは危ないという所があったのならご連絡下さい、修正致します」


 と、真面目そうな話が終わった所で突然にマテリア嬢のテンションが変わる。さっきまでの冷血モードが嘘のようにニッコニコだった。


「さて、デブリーフィングエリアの説明まで終わった所で! 皆さんにリワードポイントを配布したいと思います! リワードポイントはその名の通り、事件の対処、解決に貢献した事に応じてのポイントです。それらを使えば、特殊なアイテムと交換することが可能ですもっとも、今回の皆さんはほとんどが参加賞の100ポイントなのであまり良いものは買えないのですけどね。……ちなみに、このデブリーフィングエリアにおいて皆さんに周知させた作戦などが効果的であった場合もポイントが配布されます。なので皆さん頑張って作戦を考えてくださいね!」


 配布されたリワードポイントは、……2600。ちょっと数字おかしくないです? 


『詳細欄のモンスター討伐数に間違いがないのであれば正しい数字かと。もちろん、私の記録と討伐数は一致しています』


 とはいえ、交換できる物にあまり魅力を感じない。剣は透明人間モードこと第0アバターで盗むなり拾うなりすれば良いのだし、なんか見えるようになった時にはファンタジーっぽい服を着ていたし。


 ガソリンを入れる入れ物でも有ればいいのだが……


『掘るのですか?』


 できたら掘りたい。ガソリンと火炎瓶がないとVRパルクール民は禁断症状を起こしてしまうんだ! 


『流石に無理かと』


「じゃあ、再びの質問タイム! 口に出しても、メニューのフォーラムにメッセージを入れても構いません。ただ、誰からの質問なのかは隠させて頂きます。無理に話を聞いてしまってそれが人間関係のトラブルになるというのは嫌ですからね。……ジワ売れを期待しているので、そういうトラブルは無くしたいんですよ本当」


 良いのか管理AI、そこまでぶっちゃけて。


『よろしいのではないでしょうか。ゲームとしてのクオリティは高いモノですし、マスターも氷華様をお誘いになるのでしょう? この高度情報化社会においては、良きものは良く売れるものです』


 まぁ確かにそうやね。


 さて、質問タイムももうすぐ終わってしまうのであるが、やっぱり気になるので一言くらいは聞いておこう。感性の代物である生命転換ライフフォースについて。理論的な説明があるのなら、イメージしやすくなるのかもしれないし。


「第二回質問タイム終了! では、早速お便りを読んでいくぜー! ……さて、アバターの形態についての質問ですね。このゲームにおいて、アバターは基本的に3段階あります。透明人間モードこと第0形態。モンスターには見つかりますが、人間からは見つかりませんまた、薄い壁なら通り抜けることが可能です。次に第一形態。これは、第0形態の方が存在を表に出すことで発生する形態です。他の方の質問にも絡んでしまいますが、これは生命転換ライフフォースという技術を使うことで可能になります。いわゆるHPを燃料にしてパワーを得るみたいなものですので、練習中に死なないようにご注意を。……実際今回のラストワン最後の一人はそれで死んじゃいましたからねー」


 なんとも間抜けな奴がいたものだ。是非とも一緒に修行したいところだな、うん。お互いに監視すればなんか良い感じになるかもしれないし。


『マスターが最後の一人という可能性はどうですか?』


 その時は笑うしかないなー。


「では、お待ちかねの第二形態! と言いたいですがこちらについての説明はほとんど意味がないので概略だけ説明させて頂きます。第二形態はプレイヤーそれぞれによって違う能力の……強化変身? みたいなものです。ですが、時間制限があること、使用後はまともに動けなくなることは共通ですね。強力な力であるものの、とてもリスクのあるモノです。ご使用にはご注意を」


 その後、様々な質問への回答が発せられたが、正直戦闘疲れで眠いので若干聞いていなかった。というか10分くらい寝てた。


 まぁ、大体の質問は今回のシリウス関係なのだろうから、放っておいても大丈夫だろう。俺の役目は、とりあえずぶった斬る事で問題はないのだから。


「では、デブリーフィングを終了します! 時間加速は元に戻りますが、世界が巻き戻るまでの間は直接、あるいは掲示板やチャットなどを用いての作戦会議に制限はありません。むしろガシガシやって下さいな! ただ、一つだけ」


「滅んだ世界の残響があなた方の世界に響いてくることもあるでしょう。くれぐれも夜道にはご注意を」


 なんともまぁ厨二スピリッツに響く注意勧告である。カッコいい夜道には気をつけてネ! だ。


 けれど、その言葉が何故か心に引っ掛かった。何かの小説の引用だろうか? こんど氷華に聞いてみよう。


 そんなんで、デブリーフィングは終了した。

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