転校生ー夏川雪妃ーII

 どこの高校でもそうだと思うが、始業式の日は午前中で終る、普通は。でも何故か俺は教室にいる。西のせいだ。昨日俺の机の上から勝手に持って帰った春休みの課題を西がごっそり忘れたからだ。運の悪いことに、


その中に今日が締め切りの『夢と目標』


という小論文が入っていた。この小論文はうちの高校独特のものみたいで、一、二年の頃にも書いた覚えがある。


 夢かぁ、、、元々俺は脚本家になりたかった。脚本家と言っても色々種類があるけど、特にこれっていうのはなく、漠然となりたいと思っていた。頭の中でアイデアを膨らませるのが好きだったからだ、よく言えば。悪く言えば、妄想バカ。まぁ、俺の夢の話はこれくらいでいいとして、この状況は一体何なんだ。西と俺は居残りは当たり前だけど、立花と、、、


夏川もいる。


立花は夏川の真横、西は夏川の真後ろの席。大体、完璧主義者の立花が課題を忘れるはずがない。


「チェンコ、お前、夏川と話したいだけだろ?」


と俺はつい心の中で叫んでしまった。でも、改めて見ると、夏川って目鼻立ちが整っていて長い黒髪がよく似合っているよな。アイドルというより女優といった感じだ。立花が積極的になるのも分かる気がする。笑えばもっと可愛いんだろうけど、立花と話していても楽しくないのか一切笑顔を見せない。まぁ、俺も他人ひとのことは言えないか。


というのも、ついさっき――――


一応、委員長として挨拶しておこうとホームルームの後に声を掛けたんだけど、


「夏川さん、委員長の秋月です。よろしく」


夏川は頭を少し下げただけで、


「・・・」無言。俺はめげずに、


「東京のどこから来たん?新宿とか?」


「・・・」無言。


さすがに心が折れそうだったので、用事だけ済ませようと思って、


「副委員長はこの学級日誌を付けるんやけど。毎日やなくてもいいから、学校の行事とか気になることがあった時とかに書いてくれんかな?」


と日誌を差し出した。日誌と言っても普通のキャンパスノート。これも小原が思いつきで始めたが、学校の公式なものではなかったので、これまでの副委員長はらくがき帳や計算用紙として使っていた。俺もとりあえず夏川が受け取ってくれれば良かった。


一応受け取ってはくれた、、、が、やはり無言で。


 その時は単に男と喋るのが苦手なのかと思ったけど、立花とは話しているよな。てことは、俺が嫌われているってことか。何もしていないけど。まぁ、いいや、とりあえず気分転換でも行こう。と思って西に声をかけた。


「にっしー、ジュースでも買いに行かん?」


俺が突然声を上げたせいだろうか、三人が一斉にこっちを向いた。


「オッケー、行こうや、チェンコはどうする?」


西はご丁寧に立花も誘ったが、俺からするとその返事は聞く前から分かっていた。案の定、立花は、


「俺はパス。あっ、やっぱり、アイスコーヒー買って来て、カップの」


と予想通りの返答。やっぱり立花は夏川と二人きりで話したいんだ。立花に聞いて夏川に聞かないのは悪いと思った俺はよせばいいのに、


「夏川さんは何にする?」


と尋ねた。多分、さっきみたいに口は聞いてもらえないだろうけど。ただ、夏川は予想外にも、


「私はイチゴジュース…」


と声は小さかったけど確かに喋った。少し嬉しかった。が、夏川はその後すぐにしまったみたいな表情を浮かべる。きっと立花が俺についてあることないこと吹き込んだに違いない。そうでないと転校して来て早々、この嫌われようはないだろ。それか生理的に嫌われてるか。性格的にこういった類のことを考え出すと止まらないので、とりあえず、俺は西を連れ教室を出た。

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