第一章 春

未来から届いた写真I

高三の春、始業式前日――――


『なーがれる季節の真ん中でー♪ふーと日の長さを感じますー♪


せわしーく過ぎる日々の中にー♪私とあなたでー夢を描くー♪』


レミオロメンの三月九日、俺はサビよりも出だしの方が好きだ。上手く言えないが、春という文字が一文字も入っていないのに春を感じることができる。一緒に夢を描く人がいないのが残念だけど。この日、朝から俺はこの曲を口ずさみながらベットに横たわり春休み最終日を怠惰に過ごしていた。


 夏休みの終わりより、春休みの終わりの方が嫌いだ。新学年の始まり。それまで積み上げてきたものが全てリセットされるような気がするからだ。でも、言うほど大したものを積み上げていないよな。強いて挙げれば人間関係くらいだろうか。ただ、今年はクラス替えはなく、そんな心配をする必要もない。多分、夏休みの終わりには今と逆のことを言っているだろう。結局、長期休みが終わるのが嫌なだけ。そんな救いようのない結論に達してしまった。


春はいつもこうだ。ぼーっとしていると自分の世界に入ってしまう。現実世界が遠くなる感じ。何かの助けを借りないと戻って来れない時もある。今日はスマホが助けてくれた。


 スマホが鳴っている。ただ、それは聞き慣れたラインの着信音ではなかった。枕元に置いてあったスマホを手に取り、画面にタッチするとそこには新着メールの通知。今どきわざわざメールを送ってきそうなのは、、、やっぱり学校くらいだよな。そう心の中で呟き自らテンションを下げる。しかし予想とは裏腹にメールの送信元は、


『にっしー(PC)』、西のパソコンからだった。


メールを開いてみるとこんな内容だった。


『写真のサイズが大きいので、一枚ずつ分けて送ります。

いんちょ、夏川のこと覚えとる?』


「夏川?そんなやつ知らんし」と俺は思わず独り言を漏らした。


夏川、、、聞いたことのない名前。まぁ、一学年400人もいれば知らないやつが一人くらいても驚くことじゃない。ただ、少なくとも四つある理系のクラスにはそんな苗字のやつはいなかったはず。西の送り間違いかいたずらかだろう。そう思いつつも、好奇心から添付されていた写真も見てみることに。これがエロ画像でウィルスでも入っていようものなら、マジでぶん殴ってやる、なんてことを考えながらファイルを開いた。


 意外にもそれは普通の写真で、ぱっと見、二年生に上がってすぐにクラスで撮った集合写真のよう。ただ、写真の右上には別撮りで撮られた女の子の顔が。顔はよく見えないが、黒髪のロングヘアってことは分かる。それが俺には遺影のように見え、突然背中に氷を入れられたようにぞくっとした。やはり西のいたずらで、ネットからとってきた赤の他人の顔を集合写真にただ貼り付けただけかと思ったけど、そう言えば、、、


去年は集合写真の日って雨で校舎の中で撮ったような。


考えれば考えるほど写真が薄気味悪く見えてくる。こんな時は本人に聞くのが一番だろう。俺はベットから起き上がり、窓にされていたカーテンを開けた。

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