小倉トースト

しーもあ

第1話 小倉トースト

小倉トースト


三年前から妻となった女と食事の好みが全然合わない。

妻は九州出身で頑固な性格だ。名古屋に来て10年以上になるが赤味噌が大嫌いで味噌おでんや味噌カツもなんで味噌を使っているのか意味が分からないと言う。

朝の味噌汁も白味噌で作る。ずっと赤味噌で来たのに妻は全く妥協してくれず毎日白味噌の味噌汁を飲んでいる。どうしても赤味噌が飲みたいときはインスタントを使っている。


そんな妻がいちばん理解できない地元の食べ物というのが小倉トーストだ、トーストにバターを塗った上に粒あんを塗った物だ。

2人でモーニングに行った時小倉トーストを頼んだら妻はあからさまに嫌そうな顔をした。

妻は頑固な上に感情をはっきり出す性格なので本当に絵に描いたような嫌な表情をする。

「そんなの食べて美味しい?気持ち悪い食べ物だね。ジャムなら分かるけどなんであんこなの?」

唇を歪めるという表現があるが妻は本当にそんな顔をして言った。妻のそんな遠慮のない言い方には初めは腹が立ったがだんだん慣れてきている。

「いやそれは、それぞれの人の価値観だから。君には不気味な食べ物でも美味しいと思う人も沢山いるから」

まともに反論して喧嘩になっても仕方ないので一般論じみた事を言ってみる。そもそもどうしても小倉トーストじゃないとダメだという程好きなわけではない。

「ああ、そう。そう言われたら話は終わるけど・・・」

妻は嫌がっている以上に小倉トーストの事を話題にしたいようだった。

「君だっていちご大福は好きだろう?小倉トーストもそんな風にあんことトーストが合わなそうで合う、ミスマッチってやつだよ」

「なんか言いくるめられた様だけどそう言われると分からないでもないかな?」妻は何か不思議な物を見るような顔をしながら言葉を継いだ

「あんたと結婚して結構経ったけど、なんだか分からない事だらけで、何考えてるか分からない事ばっかりだし、合わない所ばっかりで、正直疲れるし。でも我慢してでも一緒にいた方がいいとは思ってるよ」

「俺たちも小倉トーストみたいな物なのかな?」

妻はそれを聞くと少し優しい表情になって小倉トーストをじっと見つめた。朝の喫茶店は満員で回りはうるさいほどの会話の渦だ。みんながいつもより幸せそうに見えた。妻の頑固さも可愛らしく思えるようになったのだろう。

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小倉トースト しーもあ @kazumi692

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