第101話 切なさに別れを告げて
二日後、香山さんに電話で当選を伝えた。
お母さんから聞いているであろうし、話をすることに迷いもあった。それでも、僕の口から直接伝えなければ、すべてが終わらないような気がしたのである。
「おめでとう。よかったね…」
電話越しの彼女の声は、涙で滲んでいた。
「これからは、倉知君にとって本当に大切なものが見つかるように期待しているよ。ずっと応援しているから。今度は絶対、手を離しちゃダメだよ。しっかりつかまえておかないと、青い鳥は逃げていくから」
吐息だけで笑う香山さんの後ろで、今度は赤ん坊が泣き始めた。
「電話ありがとうね。ほら、子どもまで嬉し泣きしているみたい。じゃあ、もうそろそろ電話切るね」
これが本当の最後になるだろう。長いあいだ胸につかえていた気持ちが、言葉となってあふれた。
「僕がそばにいて、幸せにしてあげられなくて、ごめん…」
落選と同じくらい、いやそれ以上に、ずっと気になっていたことだった。
数秒の沈黙が、無限のように響いた。静かに息をひそめて、彼女の言葉を待った。
「私なら大丈夫だよ。女の気合と根性で、壁を乗り越えたの」
涙の乾いた明るい声で、嬉しそうに笑う。
これでもう、後悔はない。たぶんきっと…、ないはずだ。
ただ少し、切ない思い出が、残っただけだ。
「お幸せに。今まで本当にありがとう」
心から礼を言い、そっと携帯電話を置いた。
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