第85話 冬枯れのオープンカフェ
川岸さんの店の三軒先には、開店してまだ一年も経たない喫茶店がある。
最初の頃は、星野川市で初のオープンカフェスタイルが評判になり、店先に並べられたテーブルは、放課後の高校生や買物帰りの主婦、孫をつれた老夫婦など、多くの人で賑わっていた。
しかし半年を過ぎ、雪国らしい寒い寒い冬を迎え、今にも雪が舞い降りそうなどんよりとした曇り空に覆われると、店はありふれた喫茶店となった。客足は遠のき、テレビを見上げてぼんやりと座り込んでいる雇われマスターの姿が、よく見かけられるようになっていた。
その店のオーナーが、坪田という女性候補である。
経営状態は芳しくない。季節が変わって持ち直すまで、店を続けていくためにも当選しなければならない、そう噂されていた。
近所ということもあり、川岸さんはマスターとも親しい。坪田候補の応援を頼まれていても不思議ではない。
「同級生にも頼んでおく」という力強い言葉を期待できるはずもなく、「お知り合いの方にもお願いできませんか」と数枚の名刺を置かせてもらって、店を出た。扉を閉める前に川岸さんが言った「がんばってや」のひと言が、僕の胸に寂しく響いた。
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