第73話 志学館修了式
早いもので志学館に申し込んでから二年が経つ。
三月の春分の日、ツーリズム学科の修了式が行われ、四十名の受講生が集まった。終了式の後の交流パーティーには、講師として呼ばれた全国各地の地域おこしの活動家らも招待されている。志学館の担当である平山さんと田村係長も出席していた。
学科一年、実践一年の志学館で、実際に地域振興の活動をともにした学科生が揃う。これまでに、着物で城下町を歩くイベントや稲刈り後の田んぼを使った運動会など、いろいろなイベントを皆で企画し、活動してきた仲間である。
パーティーの途中、ひとり離れた場所で酒を飲んでいた僕のところへ、田村さんが来て、
「倉知さん、もっと講師の先生方と話してきてや。私は女やし、恥ずかしがり屋やで、よう行けんで。私の代わりに」
と背中を片手で押した。酒に酔った声はいつもよりも高く、普段から元気な田村さんが余計に明るく陽気に見えた。
「行ってきてくれたら、私が応援して倉知さんを市長にしてあげるで」
と嬉しそうに笑いながら、急に声をひそめる田村さんに、
「遠慮しますよ。僕がもっと優秀な人を探してきますから」
とだけ答えて、ビールを一本持つと先生にところに向かった。
田村さんの言葉は素直に嬉しかったが、自分の答えも嘘ではなかった。そんな理想がないわけではない。自分には、星野川市の将来に対するヴィジョンがあると自負している。
一方で、政治家には、専門に政治の勉強をした人がなるべきだとも考えていた。できれば、自分はその人の志を支える側に回りたい。
しかし、そのような人材がこんな田舎に戻ってきて、理想を抱いたまま現実の壁に阻まれ、悪戦苦闘するとは考えにくかった。
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