第47話 公と私の狭間で

 その後、茶話会の話は立ち消えとなった。

 それまで毎週のように会っていた香山さんを、一ヶ月以上も見ていない。それでも僕は空虚な心を埋めるために、電話で香山さんと連絡を取り続けていた。

 これからは親しい友達としてではなく、支持者として協力してもらいたい。そう体裁を取り繕っても、本当の気持ちは違っていたと思う。一つの活動が中断する、それ以上にひとりの人間を失うことがつらかった。

 選挙まで全くの私人だった僕が、落選したものの選挙運動によって有名になり、「公」の顔を持ったために、公私の使い分けに常に迷っていた。

「私」の自分に、すぐ嘘をつきそうになる。

 素直な気持ちを打ち明ければ、選挙運動のために香山さんを必要としていたのではない。彼女が好きだったのだ。

 活動を利用して、会う機会を作っていたとまでは言わない。悔しい思いをさせた多くの人に恩返しをしたいという気持ちは、確かに存在する。

 落選後、何の見返りもない活動に邁進する「公」の自分にとって、彼女は大切な心の支えであった。そしてまた「私」の僕にとっても、香山さんは本当に大事な人だったのだ。

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