第28話 星野川の城下町にて

 木曜には、雪が舞い降り始めた。

 前日の曇り空から、少しずつ天気は崩れてきている。そんな灰色の空の下を、ゆっくりと選挙カーは進む。

 星野川の市街地を南北に走る縦筋は、西の本町通りから始まり、東へ順に二番、三番と呼ばれ、五番の次の寺町通りで終わる。寺町通りはその名の示すとおり、たくさんの神社仏閣が連なる道である。また東西の横筋は、街のメインストリートである大路通りに始まり、朝市の立つ一条通り、それから北へ二条、三条と続き、最後の北堀通りには城を守るための堀がある。これが、江戸時代から続く星野川の城下町である。

 大路通りから寺町通りへと曲がったところで、手を振るおばさんを見つけ、ワゴン車から飛び出した。

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 駆け寄って元気よく声をかけ、握手を求める。

 すると、おばさんは

「やっぱり、いい男や。写真見たんや。いい男や。がんばってな」

 と強く手を握り返した。

 驚きながらも、

「ありがとうございます。応援お願いしますね」

 と笑いかけ、ワゴン車に戻った。

 車が走り出してもまだ、

「いい男やー、がんばってのー」

 と大声で手を振ってくれていた。

 そんなことを女性から面と向かって言われたのは、初めての経験で、かなり面映い。自分の顔が大したことがないのは十分知っているし、もてた経験もない。

 アイドル歌手でもない限り、なかなかできない面白い体験だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る