第13話 証人喚問のように

「いったいあんたは、うちらの町内のために何をしてくれるんや」

 最初から詰問口調で話し合いは始まった。

 どうやら、ここに来ている人たちは、白鷺町の整備を約束してほしいようだ。そう聞いた郵便局員の禿げた頭には、汗が浮かんでいる。夜の屋外は零下だが、室内は三十度くらいあるようだ。二年前にオープンした妹の店はまだ新しく、エアコンもよく効いた。そばではさらに、ストーブの火が赤々と燃えていた。

「星野川市の将来を見据えながら、白鷺町のことも考え、市全体として調和の取れた町づくりを進めていきたいと考えています」

 そう切り出し、年明けの総会で話したことを説明しようとすると、

「わしらは、そんなことを聞くために、ここに集まっとるんじゃないんや。あんたにもっと、白鷺のために働いてもらいたいだけや」

 呟くように誰かが遮った。

「やってもらいたいことは、いろいろあるんやで」

 大きな顔の男がニヤニヤしながら言う。この人は、設計事務所を経営している。議員の身近に接していれば、公共事業で自分のところに直接仕事が入ってくる。そのため、今からすでに県議選の候補者に付いて、運動に回っているようだ。

「やってもらいたいことって何ですか。それを実現できるように努力します」

「いっぱいあって、ここでは言えん」

 個人的な要望は、ここに集まる全員の前では言えなくて当然だろう。一本の道の拡幅工事は、ある人には利益でも、他の誰かにとっては土地を削られるという不利益になる。

 利益が一致しないことは、公にできない。ここにいる人たちは、それぞれが個人個人の要望を持って集まって来ている。その思いを口にはできないが、それを候補者に求めている。

 個別の思いを満足させられるような、全員に共通する答えなどある訳ないじゃないか。そう思って口籠もると、

「本人は町内のために働きたいと言ってるんや」

 隣に座っていた中畑のおじさんが、穏やかな口調で弁護してくれた。

 そうだ。それが、ここにいる人たちの要求に応える模範解答なのだ。市議候補でありながら、星野川市のことを語ったのでは、この場では全く通用しない。

「当選したら、町のためにがんばってもらえばいいんやで」

 父の幼馴染である白石さんが何とか話し合いをまとめた。

「これからは、ちょくちょく話し合いに顔出すようにしてや。聞いてもらいたいことは、いくらでもあるんやで」

 設計事務所の男が、チェシャ猫のようなニヤニヤ顔で締めくくった。

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