第二十一章

第二十一章 バレンタインの夜に

 立ち止まり、決意し、行動を起こしながらも、未だ彼らはすれ違っていた。噛み合いそうで、なかなかそうもいかない。迷いながらも、歩くしかない。それが今の四人だった。


 陽に背を押され、新しいチャレンジに踏み出した緋菜。動き始めた実感はないが、その高揚と緊張で満たされていた。ただその一方で、昌平のことを強く想っている。それは、今日がバレンタインだから。堪えている焦る気持ちが、つい溢れそうになるのだ。けれど、今の緋菜は違う。だからこそ、自分を鼓舞するのだ。恋の為ではない。自分自身の為に、と。


 そんな緋菜の決意を知る由もない昌平は、瑠衣と並んで酒を飲み始めた。こんな日に呼び出されたが、彼女はいつもと何も変わらない。それに安堵した昌平が、二杯目の酒を頼んだ時だった。瑠衣が打ち明けるのである。彼と別れた、と。そして瑠衣から伝えられた言葉。それを聞いた昌平は、また深く頭を抱えることになる。


 一通のメールを受信した文人。それに静かに苛立ち、陽を想った。会いたい。一目会えればそれで良い。その想いを胸に、文人は陽の家に向かっている。鞄の脇には、チョコレートの入った紙袋を携えて。迷惑かも知れない。いつもならそう考えられるのに。今はただ会いたくて、触れたくて、仕方がなかった。


 緋菜の成長に驚かされながらも、微笑ましく思っていた陽。自分も何かしなくては。きちんと征嗣と別れて、歩き出さなくては。そう決意はするものの、緋菜のような固い意志が持てないでいる。相変わらず、征嗣が心配なのだ。いつもと違う様子ばかり見せる彼。なかなか小さくなってはくれない。今夜も溜息を吐きながら、コーヒーを飲んでいる陽。そして、部屋のインターホンが鳴る。


 行動を起こす人。それを受け止める人。それぞれが幸せな未来を思い描きながら、踏み出した一歩だ。何が正しいかは分からない。それでも、前を向いて進んでいるのだ。例え、それが絡み合わなかったとしても。

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