第二十章

第二十章 バレンタインだと言うのに

 四人がすれ違った日曜日からひと月。あっという間に、二月も半ば。バレンタインである。世の中には、幸せそうなピンク色が溢れ始めたと言うのに、彼らは何も変わらない。状況は何も変わらぬままだった。


 あれから陽は、緋菜と頻繁に会い、彼女の今後について考えていた。陽が思っていた以上に、緋菜の意志は固く、熱意に燃えている。昌平とのことを心配するが、緋菜はそれよりも成長を望んだ。それを尊重して、陽も昌平たちと連絡を取らずにいる訳だ。演技をするのは上手くない。だから、隠れて会う訳にもいかないのである。

 そうしているからこそ、陽の中の問題も、大きくなるばかりであった。征嗣との関係のことである。会える時間が減り、会えてもいつもの通り。変わったところは見せないくせに、不意に何かを抱えた顔を見せる。それが今でも、陽を不安にさせているのだった。


 頼ってくれた昌平の為に、文人は緋菜への連絡は入れ続けていた。何時まで経っても返事はないが。そして同時に、陽を次のランチに誘っているが、なかなか上手くいかない。年度末になるにあたって、色々忙しいらしいのだ。それが上手くかわされているだけかどうかは、文人には判断出来ないでいる。

 作戦は進めていきたいのに、思い通りにいかない。そんな悶々とした文人の元へ、一通のメールが届いた。


 陽の手助けを受けながら、緋菜は色々な世界を夢見た。自分が出来ること、やりたいことを明確にしながら、未来を考える日々が続いている。

 バレンタインだから、本当は昌平に会いたい。だけれども、今はまだその時ではない、と自分に言い聞かせている。その気持ちは固く、陽も困惑する程だ。資格、それから専門学校。今まで考えていた漠然とした未来に、無かった物。そこへ少しずつ、緋菜は足を踏み出していた。


 緋菜と会うことが出来ぬままで、昌平はただ焦っていた。仕事も忙しく、ゆっくり考える時間もない。仕事中は忘れるように努めたが、その傍らで緋菜への気持ちは勝手に募っていた。

 そして、そんな昌平を見続けていたのは、瑠衣である。園児が帰れば直ぐに、溜息を吐く彼に話し掛けた。彼氏と別れてしまった瑠衣が。


 ひと月の間、それぞれの心には大きな変化はなかった。なかったけれど、微々たる新しい感情が生まれているのは確かだ。戸惑い、心が晴れず、不安で一杯になり、揺れ動く。春は近付いているはずなのに。桜色の幸せな春が。

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