第十七章
第十七章 四人の歩む道は
見えている物が、少しずつ変わり始めた。それは、それぞれがそっと実感していることだ。一歩踏み出した先が、苦い世界か甘い世界か。進んでみなければ、分からない光景である。
文人との待ち合わせに、心躍らせる陽。浮かれている自分を上手く隠せないままに、待ち合わせ場所へ急いだ。ラフ過ぎない格好を意識し服を選んだが、変じゃないだろうか。人目を気にしながらも、ガラスに映る自分を確認している。デートのようなことなど、何年ぶりだろうか。周りを気にせずに堂々と歩けるなんて、夢みたいだ。陽は口元を少し緩ませながら、文人の到着を待っていた。
年下の後輩が出来た緋菜は、一人唇を噛み続けていた。若さ、という強力な武器は、自分の専売特許だったのに。あの場所はもう、別の子がスポットライトを浴びていた。なかなかすんなりと飲み込めない現実を、誰にも打ち明けられず藻掻いている。このままじゃいけない。どうにかしないといけない。そう思えど、思い浮かぶのは自分を叱責した人たちの顔ばかり。苛々と不安を混ぜ合わせながら、緋菜は少しずつ何かを探し始めた。
デート、ということを意識し過ぎた文人は、一人勝手に緊張している。いつもならケラケラ笑ってくれるだろう陽は、ニコッと微笑むだけ。またそれが、恋心を擽るのである。どこかで征嗣が見ているかも知れない。だから陽は、親しい関係性を表に出さないのだ。分かっているのに。繋ぎたくなる小さな手。文人は数センチの距離に、悶えている。
自分の感情に戸惑っているのは、昌平である。水曜日の瑠衣への感情は、一体何だったのか。彼女と、園で会ってもいつもと変わらない。ただあの時、自分は一体何を考えていたのか。それが、ずっと心に引っ掛かっているのだ。緋菜に感じたことのあるような感覚なのか。いや、それは少し違うか。一人思い悩む昌平は、いつもの店で頭を抱えていた。
何かが動き始めた土曜日。絡み合っていたはずの四人は、少しずつ解けていく。そして悩みながらも、自分の歩く道へ進み始めるのだった。
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