第十五章

第十五章 それぞれの思い

 そこは、ただの修羅場と化していた。

 良かれと思ったことが仇となり、結果として、互いに受け入れることが出来なくなった女たち。その間で、男たちもまた葛藤を抱えていた。


 陽を追いかけて行った文人の背を見ながら、緋菜は苛立っていた。彼が傷付く前に教えてあげたのに。どうして彼は分かってくれないのだろう、と。

 暫く黙っていた昌平が、口を開く。でもそれも、緋菜の望んだ言葉ではなかった。陽と同じようなことを言われ、緋菜は面白くない。陽の真実を知って欲しかっただけなのに。昌平も文人も、理解してくれない。そして、一人、殻に籠り始める。


 店を飛び出した陽。泣きもしないまま、早足で歩き続けた。早めに緋菜に気付いて欲しいと思っていたことを口にし、結局は受け入れられなかった現実。詐欺師とまで言われ、自分は友人ではなかったのか、とグッと抉られた胸が痛んだ。征嗣と別れようと思わせてくれた人たち。陽にとって三人は、本当に大切な友人になっていたのである。もう会えないのだな、と薄っすら瞳を潤ませていた。


 文人が出て行った後の緋菜の様子を見ながら、昌平は決心をしていた。緋菜をきちんと叱ろう、と決めたのだ。元カレが言っていたという言葉も、結局は同じこと。緋菜は同じ失敗を繰り返しているのに、成長出来ていない。それに気付いた今、自分が出来ることを考えたのである。

 きちんと伝えてやらねば、彼女は成長しないだろう。解っていたけれど、面倒がって逃げてしまっていた。本当は自分が伝えてやるべきだったのではないか、と思っていたからだ。あの日、冷静に言えば、少しは響いたかも知れない。そうすれば、彼女たちは喧嘩などしなかったのかも知れない。そうやって昌平は、心のどこかで自分を責めていた。


 陽を落ち着かせ送り、文人は店に戻った。緋菜へ真実を伝えようとするも、彼女は既に帰った後。待っていた昌平にも心配され、文人は陽の真実を伝えることにした。勿論、征嗣のことは触れずに。

 昌平はただ黙って話を聞き、文人は必死だった。どうにか緋菜に面倒を掛けないで欲しい、と思っているのだ。陽にこれ以上のごたごたを抱えさせたくない。今は一番大切な時だから、と。


 喧嘩になった女たち。真実を共有した男たち。それぞれが違った思いを抱きながら、長い夜を過ごしていた。


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