第十二章

第十二章 新年の始動

 無事に新年を迎えた四人。それぞれ口にはしないけれど、真っ新な気持ちを携えていた。街中が新年の祝賀に浮かれている一月二日のことである。


 陽は、一人きり、部屋に山積みされた本を必死に読んでいた。征嗣が来るわけでもない。誰に会いに出掛けるでもない。いつ来るか分からない征嗣を迎えるための、準備をしているのである。

 一人で考え始めると、征嗣と別れるという選択が簡単に揺らいでいた。文人を信じてみようと、強く思っていたはずなのに。そう思ってしまうことが嫌で、どれだけ目を瞑っても、十数年一緒に居る現実が淡い期待を持たせるのだろう。陽は、別れる別れたくない、の両極を行ったり来たりしている。

 そして、そこへ電話が鳴った。


 昌平は、陽に言われたことを反芻していた。旅行のことを言い出したのは、実は陽だったのである。ただそれは、四人ではなく二人で、と言う話だった。文人と陽の様子を見ていたら、状況が変わってしまったのだ。昌平は、緋菜が乗り気なら良いか、と言い聞かせている。

 多分、今日は初詣には行かないだろう。あれは誘い易さから出た言葉だ。昌平はあれこれ考えながら、緋菜との待ち合わせに急いでいた。


 征嗣と陽を別れさせたい文人は、朝からその方法を考えている。伝える予定のなかった自分の気持ち。言ってしまったことは、今更なかったことには出来ない。ならば、後は真剣に向き合うのみだ。

 一番不安なのは、陽が一人で抱え込んでしまうことである。そうさせないために、昨日から連絡を入れているが返事はない。最善を考えて、文人は家を出て歩き始める。未だ、何の計画も見つけられないままで。


 緋菜は、部屋中に洋服を並べて、着る物を悩んでいた。いつものパンツで行くか、可愛らしい服を選ぶか。好きだと意識してしまうと、少しでも良く思われたいと考えるもの。だから、思い切ってワンピースを着る。昌平は笑うだろうか。その不安を持ちながら、待ち合わせ場所へ出掛けた。

 今日は、ランチをして、旅行の情報収集をする。それから、初詣に行っても良い。きっと今二人で過ごすことは、恥ずかしいし緊張するけれど、楽しいだろうと想像していた。もしかしたら、上手くいくかも知れない。そんな期待を寄せている。


 素直になれたら、きっと上手くいくだろう。そう皆が思いながら、前を向いていた。だけれど、上手くいく保証など、何処にもない。横槍を入れられて、ぎくしゃくしたり、絆が深まったり。全員が幸せになるのは、難しいことなのかも知れない。

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