第九章

第九章 願い

 思わぬことが起きるのが人生である。何かにぶつかり、立ち止まって、また何かを受け止めていくしかない。時は止まってはくれないのだ。


 陽は、必死に藻掻いていた。その日の夜のうちに、『今日のことで話がある』と征嗣から連絡が着ていたのである。文人が何を言ったのかは、正確には分からない。でもこうなってしまった以上は、陽の別れの意志は固かった。それが例え、苦しい犠牲が必要であったとしても。


 文人もまた、自分が身勝手にしたことを後悔している。自分の気持ちを確認し、彼女を助け出したい一心でしたこと。それが彼女にとって良いはずだと思い込んだままに。その結果、陽は電話に出てくれない。それからメッセージも既読にならない。文人は最後になるかも知れない手を、慎重に慎重に考えている。


 緋菜は、二十七歳で初めて片想いを知った。その気持ちを伝えるべきか。いや、昌平に言われるのを待つか。一つも楽しくない片想いというものに、頭を抱えている。恋ってこんなに胸が苦しくなるものだったか。そんなことすら思い出せずに、ただ昌平に会えるのを楽しみにしていた。


 そして、昌平は瑠衣と買い物に出掛けた時、色々アドバイスを貰っていた。先ずは、お兄ちゃん、から抜け出す方法。違った一面を見せてみたら?という提案である。服装や髪型を変えてみる?いや、今更変だろうか。そんな押し問答を繰り返し、陽に泣き付いていた。


 いよいよ、明日は大晦日。四人の表情、それぞれに緊張の色が見え隠れしている。そして、胸に秘めた願い。二〇一九年を上手く締めくくれるのか。幸せな新年を迎えられるのか。胸を高鳴らせながら過ごす、十二月三十日の話である。

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