第八章

第八章 土曜日の恋心

 緋菜と陽は、思わぬ形で過ごすこととなったクリスマスを思い出し、一人反芻しては何度も首を振っていた。だけれども、それを誰かに相談することも出来ず、ただ悶々と自分自身に問い掛けている。そして昌平と文人はと言うと、それなりに満足のいくクリスマスを過ごすことが出来、あからさまに上機嫌に過ごしていた。そして大晦日まで、あと数日……


 昌平に想像以上にドキドキしてしまった緋菜は、気軽に家にあげたのは失敗だった、と反省していた。昌平は仲の良い友人。いや、兄貴のようなもの。そう思って来た相手に、自分の感情が揺さぶられているという気持ち悪さ。緋菜は葛藤をしながらも、陽にも上手く相談することが出来ずにいる。それを見ている同僚に心配されるほどに、緋菜は緋菜らしくない日常を送っていた。


 陽は陽で、自問自答を繰り返していた。文人の優しさは、征嗣との関係を止めさせるためのもの。何度もそう言い聞かせる一方で、それは確かに陽の心を救い、支えていることにも気が付いている。いけないと分かっているのに、それの友人の温かみに甘えてしまう。ただ一つだけ胸を張れるのは、征嗣との関係を清算しようと、あれこれ模索していることだ。先手を打たれるように頓挫し続けてはいるが、陽にしては大きく舵を切ったつもりでいる。征嗣は命の恩人だ。無碍には出来ない。覆せない事実を並べては、陽は何とか藻掻き始めていた。


 クリスマスにアクションを起こしたことで、昌平は一時の満足を得ていた。あとは年末年始に向けて、陽と相談をして上手くやろうと思っている。ただ気になっているのは、文人のこと。クリスマスもあの二人は、仕事だった様子。会ったりはしていないようなのだ。彼の気持ちは一体どこにあるのだろう。一歩進んだ関係への高揚と、ライバルへの不安。次の一手を考えなければ、と焦る昌平は、今日も瑠衣に背を押される。


 思い切って誘って良かった、と文人は何度も思い返していた。自社製品の寄せ集めみたいになってしまったプレゼントにさえ、陽がとても喜んでくれたことも、一人ニヤニヤしてしまうような理由である。もう伝えてしまいたい気持ちもあれど、陽は今こちらを向いてはいない。あの男と別れるまで、大人しくしていた方が良いのか。それとも、強引に振り向かせるべきなのか。文人はそう考えながら、陽との待ち合わせ場所へ出掛ける。


 二〇一九年十二月二十八日、土曜日。新しい年までのカウントダウンは、もう始まっている。仕事をしながら自分の気持ちに向き合い、答えを探していた四人。それぞれが、自分なりの答えを見出そうとしていた。

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