第六章

第六章 クリスマスまでの二週間

 クリスマスまで二週間と迫ったある日。どうせ仕事が忙しい、と興味を示さない緋菜と昌平。その騒ぎを見て見ぬ振りをしている陽。それから、クリスマスという物をすっかり忘れている文人。ただそれでも、それぞれが年越しを楽しみにしている。それだけは、意見が一致していそうだ。


 休みの合った緋菜と陽。前から予定していた部屋の片付けをしていた。自分の部屋がみるみる綺麗になるのに、緋菜の気持ちは何だか気は晴れないでいる。理由は、昌平のこと。ルイ、って誰なのよ?と。結局それが気になって、昌平とあれ以来連絡を取っていない。良いことを思い付いたのに、結局あのまま燻っているのだ。

 二人は部屋の片付けをし終えると、キッチンに立つ。先日頼んだ料理教室である。オーソドックスな出汁の取り方ではなく、簡単なやり方を選んだ陽。これなら出来そうだ、と感動した緋菜は、彼女の言葉に一瞬耳を疑う。そうして、あんなに気が重かった昌平への連絡をするのである。


 陽は緋菜と笑いながら、文人のことを考えていた。元妻に会って、知られたくなかった過去を知られた彼は、絶望的な顔をしていた。あのままでは彼は皆と距離を置いてしまう気がして、自分のことを話した陽。あなたの秘密を知ってしまったから、気にしていた私の秘密も話します。これでお相子。そんな気持ちで話し始めたつもりだったが、そのうちに陽自身に対する決心へと変わっていた。

 征嗣と別れよう。あの時、陽の心の中には、そんな硬い気持ちが生まれていた。今は、何とか方法を模索している。簡単に終わらせられるのなら、とっくに終わっていたであろう関係。それなのに、征嗣は陽から別れを切り出すのを酷く嫌がる。自分の経歴に傷が付くとでも思っているのだろうか。


 緋菜からの久しぶりの連絡に、小躍りする昌平。また、それを瑠衣から指摘され、茶化されていた。分かりやすい程に機嫌を直して、昌平は考えている。文人と陽の背を押すこと。それが成功すれば、自分たちの関係も少し変わるかも知れない。文人には悪いけれど、昌平は完全に緋菜に手を貸す気でいる。

 今日の緋菜からのメッセージは、『緊急事態発生』とのこと。何があったのか、相変わらず分からない。それにブツブツ文句を言いながら、昌平は急いで仕事を切り上げる。いつもの通り。口元をニヤ付かせながら。


 陽に秘密を知られて、実はホッとしている文人。誰かに真実が話せることが、こんなにも心を穏やかにする。それを感じているのだった。だが、あれから彼女に会ってはいない。何となく連絡を入れられないままでいるのである。そうしてあの店に行くと、昌平と緋菜に会った。二人からクリスマスはどうするの?と聞かれて、文人は考え始める。陽はどうするのだろう、と。

 そうしてフッと思い出した陽は、あの時見た可愛らしい笑顔。それから、彼女の部屋で抱きしめた時の記憶が急に飛び出ると、気不味くなって酒を飲み干した。誰にも見えていないのに、一人勝手にあたふたしている。彼女の柔らかさ。匂い。それが思い出されては、つい顔を赤くした。そうして何かあの時感じた違和感を思い出す。彼女の白い肌と、何か。あれは何だったんだ?


 段々と近付く年末。その前のクリスマスを、彼らはどう過ごすのか。緋菜の不敵な笑みと昌平の下心。陽の決心と文人の困惑。四人の感情は、どう動くのか。


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