第五章

第五章 年越しまでの波乱

 二〇一九年十二月三十一日。四人は楽しく年越しをしようと、予定を立てた。職種の全く違う四人は、それまではきっと会えないだろう。メッセージアプリで連絡を取りながら色々決めていくことにした彼らの翌日――十二月七日、土曜日の昼頃の話である。


 文人だけでなく、陽にも褒められたことで上機嫌の緋菜。昼休みに思い立って、陽とメッセージのやり取りが始まった。掃除は自分なりに頑張っている。年末の休みに家に来てもらったら、料理を教えてもらえないかと思ったのだ。料理が出来たら、きっと何かが広がる。そう期待をしていた。

 急にこんな思い付きを頼んでも、陽は優しく包み込んだ。母親から教わる気がなかった緋菜は、ちょっとだけ後悔している。昌平みたく立派な物が作れなくてもいい。

ただ、自慢出来るものが欲しい。陽の優しさに、感謝をする緋菜。

 それと同時に、昨夜の『面白くなさ』を思い出していた。あれは、何だったのか。


 陽は文人と会う為に、準備をしていた。デートではないのだから、着飾る必要はない。地味なワンピースを着て、これが一番何を食べても楽な服だ、と思っている。おばさんになったなと自覚した自分が、鏡の中で苦笑いをした。文人に散歩に付き合ってもらおう。今は気分転換も大事だ。

 ワンピースを脱ぎ捨てた体を見て、溜息を吐く。情けない体。もう過ぎたことは悔やんだって仕方ないのだから、もう前を見るしかない。長い髪をクルッと纏めて、仕事とは違う黒縁のウェリントン型の眼鏡を掛ける。文人には何か言われるかもしれないけれど、その時はその時だ。もういい加減、覚悟を決めなければいけない。


 昨夜慌てて帰っていた陽を、朝になっても文人は完全に疑っていた。絶対に何かあったんだ、と。「大丈夫、大丈夫」、彼女はそう言った。きっと、仕事なんて嘘だ。あぁいう時に「大丈夫」を二度繰り返す人を、文人は信用していない。

 けれどさっきの電話では、特に変わった様子もなかった。寧ろ『天気もいいから、作戦会議の後にお散歩しませんか』と、文人を誘うのだ。どんな気分の変化があったのかは分からない。ただ、散歩の方が面と向かって聞くより、きっといいだろう。いつもよりもカジュアルな服を手に取る。スウェットとジーンズ、モコモコした黒のパーカー。ジャケットを着て大人ぶらなくても別にいい。最近は着ていなかったような服を着て、文人は家を出た。


 昌平は陽に感謝している。何とか年末の予定を立てることに成功したのだ。次は、どうするか。告白は自分からしたい。年末に距離を縮めて、年明けにそういうタイミングが出来ればいい。文人のことも気になりながらも、頭の中は年越しのことで一杯だ。子供たちとクリスマスの準備をしながら、そうやって別のことを考えていた。

 ところが、そんな昌平を見て何かを感じている人物が一人。瑠衣である。バレてないと思っている昌平は、口元が何度もニヤ付いた。瑠衣の気持ちはどうなのか。彼女は昌平のその姿を見て、何かを計算し始める。


 昨日の昌平の大胆な行動で、皆ちょっとずつ何か動いた。年越しまであと半月ちょっと。その日まで、四人は何も変わらずにいられるだろうか。

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