第四章

第四章 動き始めた歯車が

 仕事の調整が付かず、それぞれが予定していたことを出来ないままに半月。ようやく緋菜と昌平が猫カフェへ向かったのは、十二月六日のことだ。猫を見ながら漫画を読んだり、おもちゃで遊ばせたり。二人は何だか良い雰囲気で、楽しい時間を過ごしている。

 だけれど、その十七時過ぎ。一人の動きによって、四人が絡まり始める。


 猫カフェで楽しそうな緋菜を見て、昌平は安堵していた。待ち合わせて、一緒に電車に乗って。デートみたいだなぁ、と一人でドキドキしては、緋菜と馬鹿を言い合って。久しぶりに楽しい休日を過ごせていた。

 それなのに。緋菜はまだ文人を心配し続けている。あれから時間も経っていると言うのに、「成瀬くん大丈夫かな」と何度も言うのだ。彼が店に来なくなったのも原因のようだった。今日はデートじゃない。だから別にそう言っていても構わないのに、毎回小さく苛ついている。それが意識的なのか、どうなのかは分からない。唯一言えるのは、昌平には面白くないことだ、ということだけ。


 終業時刻間際に、陽の携帯に緋菜から連絡が入る。チラッと目に入ったのは、可愛らしい猫の写真。今日は、以前から話していた猫カフェに行っているはず。昌平くんと休みがなかなか合わず、ようやく実現したのだ。夕べは、何着て行こう、なんてメッセージが着たっけ。何でも良いような気もしたが、彼女のワードロープは知らない。短いスカートなんかは良くないんじゃない?って言ったけれど、参考になったかしら。

 こうして緋菜とは連絡を取りながら、文人からの連絡はあやふやにしたまま。何度か学校へも来ているようだが、陽の仕事とは関連がないし。あの人から聞くこともない。それを良いことに、『成瀬くんも忙しそうですね』と逃げるような文面で誤魔化しているのだ。それでも、そろそろ社会人としてズルいな、と陽は思い始めていた。だからと言って、何か積極的に連絡をするわけでもないが。


 文人はずっと、陽に適当にあしらわれていることに気付いている。自分に会いたくない、ということが、どういう意味を指すのかも理解している。所詮他人のプライベート、と分かっているものの、これだけは見て見ぬ振りが出来ない。あれからもうひと月。陽はひたすらに文人を避けていた。

 本当は昌平のことも気になる。緋菜にも、先日の詫びを入れたい。けれどどうしても楽しく飲む気にもなれず、あの店に行けないでいた。そんな時に、文人の携帯が鳴る。


 緋菜は悩んでいた。勿論、文人のことだ。あれから会えていないし、余計に心配なのだ。何だか疲れているようだったけれど、大丈夫だろうか。昌平にそう相談をするが、なかなか親身になってくれない。猫カフェは楽しいし、癒されるけれど。友人なんだから、もっと心配してあげても良いと思う。昌平って本当は、優しい奴じゃないのかも知れない。

 このままあの店に二人で行きたい緋菜。金曜だし、文人が来るかもしれない。そう淡い願いを持ったが、昌平は用事を思い出したと言って帰ってしまった。どうしようかな。陽さん、忙しいかな。



 四人の動き始めた歯車が、ちょっとずつズレて、噛み合わない。並んで歩いても、速度が合わない。それでも皆、誰かのことを思って、誰かの為に動いていた。

 その最初の行動が始まる――


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