第36話 疑問

勇士系列の属性の暴走は、止められないだろう。


いや、止められるかもしれないが、そんなこと俺が知ったことではない。


止める、というのはすなわち峰打ちのことだ。


殺すというのは、ただ殺すだけに過ぎない。


だから、殺す。生かす義理も道理もない。


「『共感覚』ッ!!!」


初めての試みだが。


地面に手を付き、彼の頭上、その直上。


「吹っ飛べッ!!!」


何度でも再生する蛭が体を構成しているのなら、死ぬまで燃え尽くせば良い。


閃光。











耳が、吹き飛んだ感覚に陥る。


嫌な耳鳴りが響き、頭がガンガンする。


手足の感覚も鈍っている。


体を起こし、目の前に広がる光景を文字通り目に焼き付ける。


彼の頭上に落としたのはナパーム弾。


簡単に言うと、ずっと燃える爆弾。


敵は燃え死ぬか酸素不足で死ぬ。


生物であれば、有機体であれば必ず倒せる。


魔法も意味をなさない。









「なんだ、これは…」


早馬が駆け、王都の防衛や直近で手の空いていた東部の部隊が着いた頃には悲惨な現場となっていた。


平原だった場所には肉の山が2つでき、大地は血に上塗りされたようになっていた。


腐臭は酷く、空には猛禽類が円を成して飛び交っている。


しかも、その手前には延々と燃え盛る火。


絶えず、何かを燃やし続ける音のみが平原に響いていた。






"王国軍、【槍】を破りたり"


その知らせは国内外を問わず広がり、帝国は旗印を失い急速に侵攻速度は下がり、もはやゼロにまで下がりつつあった。


しかも、かの【槍】を破った真の人物すらも俄にであるが広がっていた。





「…なんでこんなとこに俺は居るんだ」


「それは私も聞きたい」


「奇遇だな…しかも、完全武装で、だ」


「騎士だから、らしいからな」


「イメージをつけたいのか…」


王国首都での表彰式にて、【槍】とその騎馬隊を破った恩賞として信仰国の姫と帝国の姫が表彰されていた。


勿論、秘密裏にだ。


【槍】を破った人物とその主人(【器】にとっては護衛対象であるだけだし【器】の単独撃破ではあるが)と、その者達へ祖国を裏切り侵攻を知らせた者達。


その者達をぞんざいに扱えば、【槍】以上の者が敵にはならずとも味方には確実になり得ないのだ。


しかも、未だ帝国軍は山脈麓のセントスカヤ、という都市を占領中ではある。


もしも【器】が騎馬隊を失ったとは言え未だ7000の兵を持つ攻撃部隊と、占領軍、山脈を切り開き進み続けている大軍と手を組んだら。


旗印が【槍】から【器】にすげ変わったら。


「話が、長ったらいな」


彼はHK416を捧げ銃をずっとしているし、彼女は新調した長剣を体の前で地に突き立てる体勢をずっととっている。


ちなみに彼がわざわざ【闇縅】ではなく【器】の銃器を持たされているのは、彼のお姫様に命令されたからだ。


それは勿論、彼、彼女の主人が表彰を受けている間ずっと続く。


「しかし、まだ敵の侵略は続くらしいな」


「だろうな、騎馬隊で付け焼き刃の部隊を蹴散らしてから後方も引っ張ってくる腹積もりだったんだろう」


「これからまたあの平原で決戦か?」


「いいや、今しばらくは止まるんじゃないかね…騎馬隊を全滅させたんだ、忌み嫌ってもおかしくないし二の轍を踏むことは避けたいはずだ」


「増援が来るまでセントスカヤを防衛か」


「だな。ここまで続いてきた安寧を壊してまで攻めてきたんだ、奥の手がまだあってもおかしくない…俺は魔法を使うやつらと戦ったことは無いしな」


「魔法使い、か…あんなもの、対策は簡単だぞ」


「それは御教授願いたいな」


「ふん…盾で防げ。それだけだ」


「…は?」


「盾で防ぐんだ、ただそれだけだ」


「そんなもので防げるのか?」


「逆に聞くが、個人が多数を相手に虐殺できる便利な道具を扱えるとでも?

どこぞの【器】様じゃなかろうし」


確かにそうだ。だからこそ、戦いは数なのだろう。


「そうだ、それと1つ、お前に聞きたいことがあったんだ」


「なんだ?」


「…お前は、あんなに人を殺して、何も思わないのか?

いや、何も殺したことを詰っている訳では無い。先の戦いでの勝利は私たちとっては喜ばしいことだが…」


「……何も思わんさ」


「嘘をつけ」


「…本当に、何も思わないんだ


いや、分かる。理解はできる。彼等一人一人に人生があって、【槍】だって、俺と同じ世界か、どこからか飛んできて、何十年も修行して、俺に、殺された、なんてことは…


…だけど、何も、分からないんだ」


「…すまなかった」


「お前が、謝ることじゃねぇよ」


そう言って、彼女のブロンド色の髪の毛をぐしゃぐしゃと雑に撫でる。


「おまっ、今は礼典中だぞっ!」


すかさず、彼女は離れ、いつもの口調に戻っていた。


「今じゃなけりゃ、いいのか?」


「ッ〜!!! そういうことじゃないっ!」


「…やっぱり、お前はそんぐらいの方がいいさ」


目を細めて、まるで彼女を見ていて、それでいて見ていないような。


「…そうだな、私もそう思ったところだ。」


彼が、意外そうな目をすると


「二度とお前には謝らん」


「しおらしいよりそっちの方がマシだ」


「お前なっ…」




「あの2人、もう十分仲良いわね」


「僕達がどうこうする程子供じゃなかった訳だ」




これにて、戦闘は一段落した。




(今のが本当に【槍】の勇士…つまり、ランサーだったのかは未だ疑問が残るな…経験値も能力も敵を倒して得られないとは、有り得るのか?)



ひとつの疑問を残して。

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