第34話 決死隊

左手に居た、兵士が吹き飛ぶ。


そのまま馬ごと倒れ込み、まるで列が空いた用に後ろに居た者達を巻き込み倒れ込んで行く?


「なんだッ!?」


そのまま流れるように、左翼最前列の騎馬隊はなぎ倒される。


前方では、何かが轟音と共に輝いている。


「魔法か!!」


そのまま更なる防壁を貼る。これで、大丈夫のはずだった。


精々敗残兵の生き残りの魔法だと、侮っていた。


「前戦った時にはそんなもの無かった」というのに。






騎馬隊が、馬ごとバタバタと倒れて行く。


ドミノ倒しのように、後続は馬が暴れたり、転んで落馬していたりと地獄絵図だった。


規則的な銃声。弾き飛ばされる薬莢。火薬の匂い。


アモ缶から巻き上げられていく50口径弾。


その全てが、彼にとっては心地よいものであった。






前進する騎馬隊は、既に半数になっていた。


突撃陣形、左翼壊滅。


…これが最前列のみなら、まだ再構築はできた。


しかし、物理的にも精神的にも不可能だった。


50口径に吹き飛ばされた最前列に躓き落馬して首が折れる者や馬の下敷きになる者は勿論、それでも意識を残し進み続ける者はその惨状を諸に見たのだ。


首から上が吹き飛ばされた動かない馬、胸から下がない騎士が這いずり、片身が切断された遺体。


その諸々を、彼らは見たのだ。


魔法の防御は勿論していた。突撃は、その安心感によって勢いを保っていたと言ってもいい。


それが、打ち破られた。








昔、聞いたことのある歌を口ずさみながら撃ち続ける。


近くには放り投げられたアモ缶が何個かあり、既に相当な数が発射されていた。


「右側は大体片付けたか」


銃口からは硝煙が吐き出され、銃身は溶岩のように赤熱していた。





土煙が半分消える。


「敵部隊、左翼壊滅…」


望遠鏡を下げ、部下が報告する。


「なんなんだ…あれは」


「…【器】の勇士であり【闇】の黒騎士」


「【闇】の、か」


「そうだ…【闇】の力を得たんだ、彼は」


「…飲み込まれなければいいのだが」





「さてさて…」


M2の銃口は、狙いを定める。


中心から少しズレた左手。


次は右翼を潰す。





「総員ッ!魔法防御!!」


この場で馬に乗り、駆ける者達はある程度の実力は併せ持っている。


しかし、地球的物理攻撃と、この世界の物理攻撃では理が異なる。


つまり、この世界の「魔法」が存在する前提の物理攻撃を防げる魔法であっても、魔法が存在しない違う世界の物理攻撃では、違う。


この世界の物理法則は魔法が存在する時点で魔法に干渉しているしされている。


だが、地球的物理法則は魔法の存在なぞ許さない。





【槍】の右手に居た兵士は、肉塊となった。


言葉も発せずに吹き飛ばされただけマシだろう。


50口径弾は体を両断し、貫通して行く。


既に重機関銃陣地への突撃の時点で詰んでいる。


キルゾーンへと、入り込んだのだ。


また、バタバタと倒れて行く。


掠るだけでも、致命傷なのだ。


【槍】の背後では、馬を捨て極小数ながらも立ち上がり前進する部隊もあった。


左翼最後尾の連中だろう。馬で駆けても躓き死んで行くだけだと気付いたのか、仲間の死体を足で踏みながら前進していく。


だが、前進する騎馬隊の右翼が吹き飛ばされるのを見て、先程の光景が蘇る。


足を、止めた。


その瞬間に、銃口は彼らに向けられていた。


「伏せろッ!!」


誰かが言ったのか分からない。


その声は、途中から銃声が占めていたから。


立っていた者は須らくどこかを吹き飛ばされ、倒れ伏した。


死体の山が2つでき、駆けるのは数騎。


【槍】とその後列のみ。


「散開しろッ!!的を絞らせるな!」


そのまま横に広がろうとしたが、1人ずつ狙撃され列から居なくなる。





距離、約1000。


彼らは1キロ進むだけで1000人の騎馬隊を全滅させたのだ。


多分この部隊は先遣隊だ。


…歩兵も殆ど居ないのだから、これだけで殲滅させられると思ったのだろう。


そして、彼は罠にかかる。






「クソッ!クソクソクソッ!!」


あれだけの力があるのは、絶対にこの世界の人間じゃない。


…あれは、銃だ。


しかし、疑問は大量に湧く。が、それをやめて彼は敵と対峙することだけを考える。


銃への、対処法なぞ考えたことがなかっただろうに。


その瞬間、視界がぐるんと変わる。


地面、そして自分の乗っていた馬…だったもの。


そして、爆発。


そう、地雷。


地面を転がり落ち、何とか体勢を整える彼の視線の先には。


輝き。




近くの地面は砂を上げて吹き飛んでいく。


槍で、なんとかしようとする。


しかし、彼の得物はかの騎士の剣と同じ。


穂先は砕け、貫通して弾が肩を掠る。


まだ撃たれ続ける。


【槍】の能力で得物を召喚し続け弾き返そうとしても無力。


12.7×99AP弾は距離100メートルでさえ20mmの防弾鋼板を貫通する。


そしてその速度は音速の3倍にまで到達する。


魔法で保護していても、それを無視する攻撃なら意味をなさない。


つまり、【槍】は近接武器で戦える距離まで詰めなければいけない。


しかしその距離、1キロ。


「ハァッ!!」


槍を、投げる。


【槍】の能力の1つであり、投げた槍は目標に必ず当たる。


破壊されなければ。

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