第30話 密室
小さな物音。
彼は、目を開ける。
「敵か」
そう、呟く。誰にも聞き取れない様に小さく。
室内の為G42を取り出そうとしー
それを、やめた。
自分の使命は、彼女を守ること。
敵の戦闘力は未知数。
即ち室内で満足に使えるもので、火力が最大のもの。
彼の頭の中には3つ、それが浮かんだ。
1つ目が、THUNDER。
重機関銃と同じ12.7mm弾を使う単発式の拳銃。
2つ目が、デザートイーグル。
.50AE弾。これも口径は12.7mm。
3つ目が、S&W M500。
回転式拳銃で.50マグナム弾を撃ち込める。至近距離ならば最強という名を過言とは言わせない。
彼は、その中でM500を選んだ。その理由はただ単に嗜好である。
リボルバーということに、興奮を覚えぬ男子は居ないだろう。
ハンマーを降ろす。
ガチャ、とドアノブが下ろされる。
引き金を引く。
扉には大きな穴が開く。
そして列車には轟音が鳴り響く、はずだった。
「結界、か」
音だけが小さな空間で反響したように、散っていく。
「危ないなぁ…」
「ギルドカードを渡せ。さもなくば攻撃する」
「物騒だなぁ、ほら」
投げつけられる、その瞬間。
再び引き金を引く。
ギルドカードは粉々になり、弾丸は尚も目標へ向かっていく。
避けようとしたが、無駄だったみたいだ。
脇腹を掠られただけだが、悶え苦しんでいる。
「じゃあな」
「ッ!!」
「させないッ!!!」
何者かが、そいつの脇から突っ込んでくる。
残り、3発。
引き金を引く。
敵は…弾いた。
「はあっ!」
…つもりだったのだろう。
魔力で撃つ魔弾かなにかだと思ったのか、剣を前にし防ごうとする。
刃ではなく腹で受け止めたようだが、こちらは鎧ですら貫通する鉛弾だ。剣程度の厚さでどうこうできるようなものではない。
剣が、真ん中で折れる。
「死ねッ!!!!」
残り、2発。
「ダメッ!」
後ろから、何かに突き飛ばされる。
「新手かっ!」
その銃口の先には。
「ッ!?」
彼女が居た。
銃口を咄嗟に逸らす。拳銃である事が幸いした。
だが、そのまま倒れ込む先には剣を折った敵がいる。
「クソッ!」
体を捻り、敵に向け、身体を捻り腕に【闇縅】を発現させる。
左腕に作られ始めた鎧を貫いて、鋭い痛みが走る。
咄嗟に足に力を入れ、後退する。
そのまま後ずさりし、壁を背中にし拳銃を構える。
既に戦闘は室内の全スペースを使える。
だが、銃を使えば距離を瞬時に埋められる。つまるところ、選択肢は2つ。
【闇縅】による、近接戦闘武具の発現。
もしくは、銃剣による近接戦闘。
ナイフ?相手は折れたと言え剣を持っているんだ。しかも防具もつけている。
しかし、生憎と俺には銃剣を使える銃が無い。HK416A5は無理だ。銃剣を装着できるのはフランス軍仕様やノルウェー軍仕様のみだ。
右手には80cm程の片刃の剣を、もう片手、いや片腕にはアイロン型の菱盾を装着する。
俺がまだ戦えること、戦おうとすることを感じ、剣を持った敵が、構える…半ばで折れた剣だが。
左手の奥、扉の近くには、腹を抑え呻き声を上げてる奴が1人。
右手前には、守るべき対象がいる。
…膠着状態。しかし、先程の彼女の言動。明らかに、コイツらを味方とまでは言わずとも、敵ではなく、俺を危険に晒した。
「…どういうことだ?」
「それはこちらの台詞だ」
"剣折れ"が言い返してくる。当たり前だ。
そうなると、唯一無事で事情が話せそうな人物。
…ナーシセス・オルテア、彼女のみだ。
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