第22話 手記

目の前が真白になる。そう、あの「20年間」の時の様に。


どさっ、と背中から数十センチの高さから落ちる。


「…何処だ、ここは」


全てが白色の空間だ。…こりゃ長居したらPTSDにでもなっちまいそうだ。


だが、すぐさま目が異物を発見する。


「…死体、か?」


こちらに背を向けて、横になっている。


しかし、左腕の裾から見えるのは白色の棒。つまるところ骨だろう。


「おいおい、なんでこんなことに…」


とりあえず近づいていく。


念の為Vectorを持っておこう。


Vectorにはサプレッサーをつけているから、敵が近くに居てもバレずらいだろう。


P90は正面戦闘用だ。


足で死体の顔をこちらに向かわせるように弄る。死者への冒涜かもしれないが、生者には生きる権利がある。


コロン、と簡単に転がった骸骨の顔の窪んた穴と目が合ってしまう。


…何処ともしれない罪悪感が、より一層強まる。


…俺は、1分近く合掌していた。


「…ご冥福を、お祈りします」


だが、次に目がいったのは右腕。先程は彼の体が邪魔で見えなかったのだ。


その手の中には、手記のような何かが残っている。


…すまないが、見せてくれ。


「どれどれ…」







俺は高松真輔。26歳の元サラリーマンだ。【槌】の勇士…だが、もうその役目は果たせないな。


お前が1人で来たなら…悪いが、諦めてくれ。


…いや。違うな。


1人だけ、単独で脱出できるやつは居る。


…【器】だ。


この先に、ボスが居る。2体、な。


片方は物理しか効かない。もう片方は魔法しか。


…言っておくが【魔術】で呪い殺すのも無効だ。


奴らはあの「コア」から再生されるゴーレムだ。


つまり…生きてないんだ。


なんでも切り裂く魔剣士?…ハッ…悪いな。


奴らを倒す条件は、1つ。


「同時に倒す」ことじゃないかと、俺は考えてる。


…なんでそう至ったかって?


奴らの見た目は…言っちゃあ悪いが、俺のハマってたアニメに出てくる敵と同じだったんだ。


まるっきり。攻撃も全て。


それで俺は腹を切り裂かれて…命からがら逃げてきた。


ここじゃあ時間の進みも遅いみたいで、腹も減らない。


ただ、俺は出血多量で死ぬだろうがな。


ハハッ…くそみてぇな人生だったが、もしも、もし【器】がこれを見つけてくれりゃ、そりゃあ満足だ。


まぁ、頑張ってくれや。

生者には生きる権利がある。


何としてでも生きろ。俺の、俺達の屍を踏み固めて進み続けろ。背負うよりはマシだろ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る