第24話 こおり鬼
なにやら騒々しい。
そうと気づき、
ゆっくりと覚醒していく意識が最初に感じ取ったのは、苦痛だった。
全身から痛みが沸いてきて、ところどころ火傷したようなヒリヒリとした感覚すらある。
続いて、両腕が背後に回されて拘束されていることに気づいく。同じように両足も拘束されていたるのを見て、それが何かの金属でできた鎖であることがわかった。体勢を変えるたびに擦れあう冷ややかな音がする。
埃っぽいというか、土臭い。なんとなく嗅いだことのあるような匂いだが、そんな空気が震えるほどの寒さと溶けあって充満している。
全体的に暗く、明かりもない。どこかの室内だろうかと周囲を見回してみると案の定ガラス張りとなっている壁の一部が見て取れた。そこから、壁一枚隔てた向こうからわずかに光が差し込んでいた。
ここらで、さっきから聞こえている音がけたたましい銃声の嵐だったことを遅れて理解する。
一体今はどういう状況で、ここはどこで、そして何が起きているのか?
室内には
仰向け状態になり、できる限り腕を浮かせて、手のひらが間違って自分の背中や腕に触れないように注意しながら、手首に巻かれている鎖に対してどうにか指先で触れつつ、一気に力を行使した。
直に触れるようなヘマはしなかったが、暗闇ということもあってか、融解した金属であろうその雫が背中に滴り落ちてくることまでは予想が回らなかった。
極熱の到来に思わず体がエビ反りになるが、それが体中ボロボロの
そんなこんなで、
ある程度の時間も経ったせいか、目が慣れてきたようだ。
とりあえずガラス張りの壁面にまで近づいて、その向こう側に何があるのか確認しようとしたが、ガラスが厚すぎるせいでどうにも判然としない。
覗き込むのに夢中になっていると、足に何かがぶつかり、それが倒れ込んできた。
芯に響くような音からして金属製の何かだろう。音はやかましいほど大きく感じたが、少し当たって倒れるくらいだから、物自体はそんなに大きくはなさそうだ。
試しにその何かを手探りし、持ってみる。
それは棒のようなものだった。握るのが億劫なほどに冷たく、ただの棒にしては重い。ゆっくりと触診しみて、やがてそれが、どうやらスコップのような形状だということがわかった。
「……待てよ? もしかして、ここって」
記憶にある限り、
それはニコラス学園の敷地内にあり、あの地下の隠れ家から地上へと脱出するときにも最後に通った、学園内の庭園を維持管理する機材等がしまわれている倉庫である。
記憶を頼りに倉庫の立面図を頭に思い描いて、窓ガラスやスコップの位置から自分の配置を類推する。そこから扉があるであろう位置を見据えて、朧げな光を頼りに直進した。
おそらくはこの辺りだろうというところまで来て、壁のどこかにあるはずの突起物を手さぐりに探し始めた。推測が正しければ、この辺りにあるはずなのだ。この倉庫の明かりを灯すスイッチが。
そしてその通り、スイッチがあった。しめたと思い、当然のようにオンにする。そうして目が痛むほどの光が室内を満たした。
やはりそこは倉庫だった。
倉庫には一応時計が備わっている。
その事実も併せて現実的に考えると、丸一日以上も気絶していたとは考えにくかった。
いったい外がどんなことになっているのかとドアを開けようとしたが、ドアノブを握り締めたところで動きが止まる。
外から聞こえてくるのは、紛れもなく銃声だ。本当にそこに飛び込むのか?
でも、このままここにもいられないし……ならいっそのこと、地下に向かうか?
たとえばあの地下室に立て籠もるとか。それなら、少なくともここよりは安全な気がする。
あ、でもあのドア直っているのかな? 俺が跡形もなく溶かしちゃったんだよな……。
なら、地下を通じてそのまま学園から逃げ出すっていうのはどうだ?
地下へと逃げる方針を固めつつあった
前に地下からこの小屋まで登ってきたときにはわかりやすいスイッチがあったこともあり、ざっと付近の床や壁を見渡してみるも、それらしいものは見当たらない。よくよく考えてみれば、そもそもここはサンタのことなど知らない一般職員や作業員やあるいは生徒が出入りする場所ということで表向き通っているのだから、そんなものがおいそれと目につく場所にあるはずもないのだが。
この床もいっそのことサンタの力で突破してしまおうかという考えもよぎったが、さすがにそれはまずい気がした。そんなことをすれば、仮にここへ
しかしそれでも、地下室を横切ってそのまま川を渡り、ニコラス学園の敷地そのものから離れるのであればもはや関係ない。それならすぐに気づかれでもしない限りは逃げおおせるだろう。
結局、それが最前にして唯一の逃げ道なのだ。それしかない。
自分の考えが固まったところで、意を決して床に穴を穿とうと構えた──そのとき。
床の向こうから何かの装置が作動したような機械的な音がして、
やがて作動音が止むと、床の奥底からかすかに、定期的な音が聞こえてくるようになった。
徐々に迫ってきているのか、だんだんと大きくなっているように感じられる。
ここでようやく
となると、実は鎖には発信器がついていて、それが破壊されたと感づいたのかもしれない。
あるいは、この倉庫の照明を点けてしまったことで、不審に思われたのかもしれない。
真相は定かではないが、とにかくこれで地下通路からの脱出計画は水の泡となった。
周囲を見渡してみても、隠れられるような適当な場所もない。小ざっぱりとして律儀に整理整頓されていることが今だけは許せなかった。
こうなった以上は、意に反しても戦場へと続くドアを開くほかない。
いくらか生唾を飲んで、足音がここまで到達しきらないうちに、
そうして現れた庭園の変わり果てた様相に、思わず目が点になる。
つい数日前まで色とりどりの花弁で賑わっていたそれと比べて、あまりにも無残な姿に変わり果てていたからだ。
一見した限り、夜間時に自動的に点く照明器具は、存在数に対して無事に稼働しているのは半分の半分もない。なかには生き絶え絶えといった感じで、点滅するように明滅を繰り返しているものもある。
庭園自体は至る所で掘り返されたように土が表面化しており、舗装された歩道も含めて、辺りは七色の花弁が散り散りにこびり付いている。
そして、荒れに荒れた庭園の所々に、黒い装いで身を包んだ人が、何人もぐったりとしていた。
それこそまさに、嵐の過ぎ去ったような状況だった。ともすれば、
あまりの凄惨な光景に見入ってしまっていたことに気づいた
そうして円形状の噴水の近くにまで来てみると、鹿の像のうちの一体だけが大破していた。首から上がもげたようになっていて、その首から上の部分が
9体の鹿にはそれぞれに名前があり、それがそれぞれの首元にローマ字の筆記体で刻みこまれているのだが、首がもげたその鹿の名前を見て、
こうしている今も少し離れた位置から銃声が絶え間なく続いている。ただそれが、目を覚ましたときと比べてだいぶ遠のいたように感じられた。おそらくは校舎で隔てられたその向こう側へと激震地が移動したのだろう。
地下通路を使えない以上、もはや大正門から抜け出すしか手段は残されていないのだが、見たところ周囲には動き回っている黒服の姿もない。どうやら激震地もそちらではないようだ。つまり、今こそが逃げ出す絶好のチャンスなのかもしれない。
そうして満身創痍の体に鞭を打ち、物陰に隠れつつ静かに校門へと向かおうとした──そのときだった。
「おい、いたか?」
「いや。それにしても本当、どこに消えたんだろうな」
「くそ、せめて無線が生きてればなぁ。よりにもよって、どうしてこんな大事なときに使えなくなったり──ん? お、おい見ろ。一般人だぞ」
「は? 何言ってるんだよ、そんなはずはないだろ。あの門には鍵がかかってるんだぞ」
「でもほら、見てみろよ」
「……本当だ。でも、どうやって?」
「……ま、まさかだけど、あいつもサンタのひとりだったりしないか?」
「なるほど。かもしれないな。恰好は全然違うけど、それを逆手にとって、ってことかもしれない」
「仮に一般人だったとしても、やっぱりここで始末しておいたほうがよくないか?」
「だな。俺たちを目撃されたことにかわりはないわけだし。どの道始末することになるだろうからな」
その会話は
──余談だが、サンタをおびき寄せるための捕虜の居場所は、黒服たちのごく一部にしか周知されていなかった。そのほうがサンタの襲来を阻もうとして変に倉庫に群がったりすることもなくなるからだ。群がってしまえば『ここに捕虜がいる』とサンタに教えているようなものだし、最悪、それで
大切な捕虜がまさか小さな倉庫にいて、しかもその周囲にはひとりも警備がいない。これが盲点になり得るという
以上から黒服のふたりは、
バイオリズムを狂わせるために造られたというあの指輪がないせいか、
何回か発砲音が放たれたが、深夜の時間帯にろくな照明もない場所での追いかけっこということもあってか、幸運なことに今のところは着弾していない。だが、その幸運がいつまで続くのかはわからない。
どうにかしてこの状況を打破しなければ、いずれはあの鹿の像のように最悪の結果になりかねない。
そんなことを考えながら校舎に近づくように走っていると、サンタと黒服の争いの影響だろうか、昇降口の大部分のガラスが酷く割れているのが目に飛び込んできた。
校舎内ならあのふたりよりも自分のほうが構造を熟知している。そんな自負もあって
別に3階であることに特別な意味はなかった。階段を昇れば億劫と思ってもしかしたら追うのを諦めてくれるのでは? という思い込みと、4階までは登りきりたくはないという気持ちが折衝した結果なだけである。
けれども、
そして、一歩遅れてこの判断が悪手だったことに気付く。
一端足を止めて潜んでしまえば、もう逃げることはできない。黒服らが3階まで来たときに廊下に
とどのつまり、見逃すことなど万にひとつもないだろう。 いとも簡単に銃撃されてしまうことだろう。
少し荒くなった呼吸が、白い塊となっては儚く散っていく。走ったせいなのか、全身から汗がほとばしっている。それが、火傷したような肌にさらなる刺激を与える。
墓穴を掘ってしまったが、それでもひとつだけこの状況を打破する方法が残されていた。そしてそれは、
問題は、覚悟の有無である。
何も逃げ回るだけが手段ではない。
ようは、やるかやらないか──いや、殺すか殺されるかだ。
もちろん
前扉の後ろに予め回り込んでいて、黒服が教室に顔を見せた瞬間、間髪入れずに異能で極限にまで熱した手をもってして反撃する、これならふたり同時でもない限りはなんとかなりそうな気がする。そして、ふたりが同時に扉を通ることは構造上あり得ない。
ひとり目はそれでなんとかいけるとして、問題はふたり目だ。
確実に銃を構えているだろうし、至近距離で銃弾を防ぐ方法は……わからない。
でも、ようは相手が発砲するよりも先に熱した手で拳銃やその手を掴んだり、あるいは氷の塊でそのまま殴ったりすればいいわけだ。
もうそれでいくしかない。やるしかない。
しかし、そこで気づいてしまった。ふたりの黒服が、前と後ろの両方から同時に侵入して来るかもしれない可能性に。そうなれば、
とはいえ、今さらどうもこうもない。もうどうしようもない。
拳を交える瞬間が、こつ、こつ、と、まるでカウントダウンのように迫ってくる。話し声がしないのが逆に迷惑に感じられた。これではふたり同時に侵入してくるかどうかもわからない。
火のついた焦燥感にじっくりと炙られているうちに、足音が扉の向こうで止まったのに気付いた。そして──前扉だけが開いた。
足が教室に侵入してきた瞬間、獰猛な心拍数を飼い慣らす暇もなかった
──が、どうしてか右手は何にも触れないまま、
おかしい。たしかに人がこの教室に入る気配がしたというのに、それが突然消えた。
暗い教室内をざっと確認してみるものの、やはりいない。仕留め損ねたという焦りから首を左右に振ると、廊下から声がした。
「見境なしだな」
それは今まで追いかけてきたふたりのどちらのものとも違った。
ふたりは共に男性であることが明白な声をしていたのに対して、今のは、低くて野太くはあるがそれでもたしかに女性のものだった。
ゆっくりと顔を向けてみる。そこには全身白のジャージを身に纏い、大きめのゴーグルで両の目を覆い隠した、額に白のバンダナを巻きつけている、
恰好からしてこの人物がサンタのひとりだということは推測できる。ただ、
「助けにきてやったっていうのに。そんなことじゃ、もうマンガは貸してやらないぞ」
その人物は、まるで旧知の仲のような物言いをする。
マンガという単語から連想される人物を辿っていくうちに、脳裏に閃きが起こった。
「お前、ひょっとして……そんな」
そして
「本当に、……
「まあな」
「いや、でも……声が」
「ああ悪い。それはこいつのせいだ」
話しながら
顔の半分を覆うゴーグルを額に巻いたバンダナの上にまでずらし上げる。そうして露になった顔に
狐のように細く鋭く尖った両眼。同じく細く鋭く尖ったような鼻、そして余分な肉が一切ついていない口元。普段はその長すぎる前髪と無駄にでかい眼鏡のせいで不明瞭となっていたその顔つきが、実は大層端正なものだということがはっきりと確認できる。そうやって素顔を晒したせいなのか、寡黙で不動な雰囲気は依然としてあるものの、いつも纏っている人を寄せ付けないオーラのようなものが今はどうしてか全く感じられない。
唯一共通しているものと言えば、その明るい茶色の髪くらいなものか。
「いろいろと聞きたいことはあるだろうが、とにかくここから離れるのが先だ。ほら、俺がエスコートしてやるからついてこい」
「え、ああ……っていうかその前に、俺、さっきまで拳銃を持ったふたりに追われてたんだけど」
「わかってる。とっくに無力化しておいてあるから安心しろ」
「ま、まさか、死んでるのか?」
「そんなわけないだろ。気絶してるだけだ。ほら、そんなことよりとっとと行くぞ。こっちだ」
そのまま
歩きながら、
「それにしても、お前がサンタだったなんてな」
「とか言いながら、全然驚いていないように聞こえるぞ」
女性の声で、
「いやいや、驚いてるって。だってさ、正直言って俺、どちらかと言えば
「俺が? どうしてそうなるんだ」
「だってお前、クリスマスの日に廃墟に向かってただろ。それもあいつらと同じ、全身真っ黒な恰好でさ。それに終業式の日に教室で会ったときだって、誰かと連絡とってたじゃん。ケータイを持ってないはずのお前がだぞ。よくよく思い返してみればアレ、なんか俺を見つけたような報告だった気もするし」
「ああ、あれか。あれは
「
「指輪を失くしたお前が、ここの地下から脱走したせいで、一時的にとはいえ行方不明だったからな。あの時はお前の居場所を特定するのが最重要任務だったわけだが、探索にあたって、常日頃からこの学園に潜伏している俺に白羽の矢が立った、ってわけだ」
「なるほど」
「それに、あの廃墟に向かったのだって、
サンタの一員だから当然と言えば当然なのだが、
「そういえばお前──いや俺もだけどさ、サンタのこと、こんなふうに普通に喋っちゃってて、大丈夫なのかな? あの何とかってのを使ってないと、喋っちゃいけないんじゃ……」
「それは問題ない。こうして
「? ふうん。それならいいんだけど」
「俺から離れたらもう口にするなよ」
「わかった」
実際のところ、
それにしても、
やがてふたりは廊下の突き当りにある、校舎の外側に併設された非常階段へと続く扉に辿りついた。
こういうものは内側に鍵があるので造作もなく扉を開け、そのまま階段を下っていく。その時にはもうさっきまでは聞こえてきていた喧騒が止み、静かな夜になっていた。
「もう黒服の奴らをだいたい制圧したのか」
「まあな。ただ、肝心の
「え? ……ってことはお前、知ってたのかよ。あの
「いや、それよりも前から知ってた」
「知ってた? それっていつからだよ」
「初めからだ」
「初めから? ってことは、
「まあな」
「マジで? どうしてわかったんだ? やっぱりサンタの情報網とかから?」
「いや、そういうのじゃない。俺はただ、
「
そう言われても困るが、とりあえず今ある材料で推理してみようとしたところで、
ちょうど非常階段を降りきるその直前のことだった。
「どうしたんだよ」
「何人かがこっちに迫ってきてる」
「それって、もしかして
「よく知ってるな」
「いや、昔お前に借りたマンガにでてたんだよ。たしか、『予知との遭遇』ってやつだったかな」
「……あれか。そういえばあったな、たしかに」
熱像解析装置とは、物の温度と赤外線の密接な関係に着目して開発された、ようは一種の透視装置といっても過言ではない。
人間の体温と、真冬の夜の冷え切った校舎内の気温。両者の間に必然と生じる絶対的な温度の差。それが結果的に、
──余談だが、
ゴーグルの力を借りながらポツポツと孤立した熱源を探し回り、いくらかして
つまり
「ひょっとして、
「だろうな、多分」
体の芯まで焼けるような電撃を浴びせられ、あまつさえ気絶までした
「心配するな。俺が相手をする。そのあいだにお前はこのまま倉庫から地下にある隠れ家に向かえ。そして俺が姿を見せるまであそこに潜んでいろ」
「え? でも……」
「心配ない、もうあのドアは修理されてる」
「いや、そうじゃなくてさ」
「お前がここにいても何の役にも立たないだろ。いいから早く行け」
ただ、
そんな
それに足を止めた
ゴーグルが、中央棟の螺旋階段の辺りに熱源が点在していることを
この時点でまだ
さきほど気絶させたふたりが無線で連絡をした可能性はないと言える。
たった今非常階段から降りてきたばかりの
そのまま4階の広場にまで辿り着くとその場で立ち往生し、黒服の襲来を待つ。
その目で
「お前、サンタだな」
「見ればわかるんじゃないのか、そんなことは」
太く野太い女性の声に、挑発の色が加わる。
「そりゃそうだ。それじゃあ、お前に感謝させてくれ」
「感謝?」
「ああ。わざわざ、くたばりに来てくれたことになっ!」
途端、紫電が
そして
「たしか、『
「……なるほど、さすがにここに来る前に、少しは俺のことを調べたようだな」
「まあな」
そうは言うが、実のところ
調べ、そして知っていたのは
一方で
ひょっとして、舐められているのだろうか。
俺よりも自分のほうが上だとか思われているのだろうか。
俺の
……それは好都合だ。
どうぞ勝手に油断してくれ。その油断で、お前は死ぬんだ。
だが、サンタは相変わらず一切構えを取らない。
「なんだ? もしかして怖気づいたってわけじゃないだろ?」
「まさか」
「ならいい。ビビッて手も足も出せませんなんて言われた日には興ざめもいいところだからな」
「ビビッて手も足も出せません」
「……あ?」
「どうだ。興ざめしたか」
「なんだと?」
「お前が今そう言ったんだろうが」
「まあいい。その無駄口……すぐに叩けなくしてやるよ!」
しびれを切らし、纏った電気の鎧ごと突進する。そのまま火花を伴う魔の手がが、サンタの腹部に差しだされた。
だが、その攻撃がどうしてか空振りに終わる。
おかしい。たしかにサンタに向かって直進したはずだ。ということは、接触するよりも前にサンタがその場から姿を消したとしか考えられない。
事実、その場にはサンタの姿が消えていた。その様子を遠目に見ていた6人も合わさって、14の瞳でサンタを探す。
「あらかじめ言っておく。俺はお前の接触を許さない」
そこで急に6人の背後から声がした。
一斉に見ると、たしかにサンタがそこにいた。
「お前ら、撃てぇっ!」
瞬時に目の前から消え、そればかりか6人の背後にまで移動したサンタを見て、
1秒も時間を空けず、一気に銃声が重なりあう──が、またしても、サンタを捉えることはできなかったらしい。そこにあるはずの亡骸が、どこを見ても見当たらない。校舎の内壁に無数の穴が歪に開いているのが、すなわち失敗を物語っている。
今、何が起きているのか。
そして、今度こそサンタは完全にその広場から姿を消していた。
「ど、どこに消えやがったっ!」
もはや
そこに、吹き抜けから下を覗き込むようにしていた黒服から「見てください
どうしてそんなところにいる?
どうやって? 何をした?
いや、そんなことはもういい。時間があるときにでも考えればいい。
今は、そんな余裕が欠片もない。
「お前ら、あいつを追え! 絶対に逃がすなっ!」
6人はこぞって最下層を目指しだした。
いずれにせよ、鬼ごっこは始まった。
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