第06話 偽りのカウントダウン
キングキャッスルが目と鼻の距離で見えるのはもちろんのこと、
キングキャッスルの上空を飛び回るヘリコプターも窓際から空を仰げばなんとか視認できるし、逆にキングキャッスルを包囲する警官隊の動向は斜め上からの視点のために地表にいるよりもはるかに鮮明に窺える。何より──。
「げえ。見てみろよ。すっごいことになってるな」
「本当ダ。ほら、あそこってさっきまで僕たちがいた場所だよネ。あんなになっちゃってるヨ」
「こんなんじゃ、せっかくサンタが現れたところで、それどころじゃなかっただろうな」
「それに比べて、ここは手を伸ばしほーだいだし、足も延ばしほーだイ。まさに天国だネ。ブーちゃんさまさまだヨ」
壁際には、外を見渡せるように用意されたひとり掛けのテーブルカウンターが、弧を描く壁面に沿うようにして備えつけられている。そのなかの一角に並んで座視するふたりは、地上を見渡し、人がすし詰め状態になっている様子を垣間見て、何席か離れた位置にいる
「あら、この程度のこと、わたくしにかかればどうってことないですもの。お気になさらないで。それにしても……まさかここまで混雑するとは、わたくしも予想外でしたわ。こんなことなら、クラスのみなさんもここに招待してあげればよかったわね。明日みなさんに謝らないと」
そうは言う
このぶんだと、明日も今朝のように自慢話が起こるに違いない。
「ねえ
言われて携帯電話を取り出し、画面の隅に表示された時刻を確認する。
「えっと……」
「あと1分ほどでございます、みなさま」
もたついてる
「あら。もうそんな時間ですの? それなら
「かしこまりました、
そうして現れたのは、双眼鏡だった。
手のひらに収まるほどのコンパクトなサイズながら、遠目に見ても謎の重厚感を醸し出している。この瞬間に
怪訝に感じたが、明かりの灯った室内から夜景を見る場合、光の屈折が昼とは異なるため、窓ガラスがあたかも鏡かのようになってしまい、思い通りに窓から先の夜景を見ることができない、ということを経験則から思い出す。
とはいえ、向かいのスクリーンやキングキャッスルのイルミネーション、はては天空を飛び回るヘリコプターからの光線などがあるため、この室内が完全な暗闇になることはないのだが。
だんだんと高鳴る鼓動もあいまってか、
視線を上に投げたみると、空は深い紺色で塗りつくされ、そのなかにある一粒の真珠のような月が、
──と、そのとき。何かが煌いたような気がした。
「なあ、今何かが月の前を横切らなかったか」
「あら、そうでした? わたくしはそんな物、見ませんでしたけど」
適切な倍率を予め補足しておくためか、すでに双眼鏡を顔に宛がっていた
「ボクにも見えなかったけどナ」
「本当か?」
「ウン。多分、
「そっか。リーがそう言うんなら、そうなんだろうな」
リーが留学してきた初日のことだ。
自己紹介の際に、リーは自身に『
なんでも、日本に留学が決まった際に両親からプレゼントされたとのことだが、それが狂言ではなく、実際に驚異的な視力を有していることは
そんなリーが目にしていないというのであれば、我が目を疑うしかない。
「それよりホラ、もう残り10秒前みたいだヨ」
テーブルに伏せるような状態で上空をうかがう姿勢をとっていたリーが、向かいのスクリーンに誇大広告のように映る『10』を指さした。
『……9! ……8! ……7!』
野次馬の誰もが、まるで新年を迎える瞬間のように嬉々として大声で数を数えている。
『……6! ……5! ……4!』
警官隊は沈黙のまま不審者や不穏な点を見つけようと視線を泳がせている。
「サン!」
地上の熱気に負けじと、リーが楽しそうに叫ぶ。
「にぃっ!」
(いち……)
そして、『ゼロ!』という歓声が、辺り一帯から、そして世界中から轟いた。
瞬間、糸が切れたようにあたり一帯の光が一斉に途絶え、闇が覆った。
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