第46話


「わかった。それで戦わなくて済むんなら……俺が死のう」

 エリナの横で、マクシムはそう言った。

「駄目! そんなの私が許さない。絶対に許さない」

 エリナは叫ぶ。

「でも……俺一人が死ねば世界が平和になるんなら、仕方ないよ」

 そう言って、マクシムは少し困った顔で笑みを浮かべた。

「それじゃあ、意味がない! マクシムが死んだら……世界が平和になっても何の意味もない。死ぬなんて許さない。世界の全てがそれを望んだって、私が許さない。マクシムは私のものだ。誰にも奪わせたりなんかしない」

 マクシムは知らないがエリナとマクシムに血の繋がりはない。それでもエリナにとってマクシムは家族だった。ずっと一緒に生きてきた誰よりも大切な弟だった。

 二人の出会い。それは十九年前。エリナが六歳の誕生日だった。

 その数ヶ月前、冒険に旅立つ父親フランクにエリナは尋ねられた。誕生日に何が欲しいのかと……エリナは答えた。弟が欲しいと。

 エリナに友達はいなかった。村に近い年齢の子供がいないので友達なんて作りようがなかった。母親も祖母も仕事が忙しく、遊んでくれない。だからエリナは兄弟が欲しかった。活発なエリナと一緒に遊んでくれる弟が欲しかった。

 そしてフランクは困った顔で旅立って、エリナの誕生日に弟を連れてきた。血の繋がった本当の弟ではなく、魔族に親を殺された孤児の男の子だった。

 その男の子、マクシムはエリナの誕生日プレゼントだった。だからマクシムはエリナの物だ。

 普通の弟は姉に望まれて得られるものではない。親に望まれて生まれてくる。しかしマクシムはエリナが望んだ結果、エリナのために連れてこられた弟。両親の子供だからエリナの弟なのではなく、エリナの弟であったから両親の子供となった。だから、マクシムはエリナの所有物なのだ。

 そんなエリナの大切な誕生日プレゼントが自ら死を望むことなど許されるはずがない。

「みんなの考えは? その答えによっては、私はみんなと敵になることになる」

 そう言って、エリナは仲間たちと対峙する。

「あら? あなたも存外ブラコンなのね。大丈夫、あなたの大切な弟は殺させないわ。マクシムを殺すくらいなら、私はわからずやの父を殺すわ」

 そう言ってレーネはベネディクトを睨んだ。


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